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ソラ君とウチのプレリュード第23番  誤解と嫉妬



「ヒナァー」

 馬鹿でかい『スパイト』の鈍い動きはブラフだったようで膝を曲げ力を溜めると、大声がしたほうへ大ジャンプしていってしまった。



 今の声はヒナだ、間違いない。

 こっちで注意をひき続ける予定だったのに、にらみ合っているうちに急に無関心になってしまったスパイト。

 その原因はボクの挑発に反応をしめした事も含めて考えると……こいつは大きな声に反応するタイプの『スパイト』なのかもしれない。

 くそっ! ヒナ一人じゃ危ない、間に合ってくれ――



 

『ソラ君、奴の正体がわかった。パリに拠点を構えていたオペラ歌手だそうだ。自分が目にかけた若手に仕事を奪われ失業し、噴水広場で絶望していた所をあの『スパイト』に寄生されたらしい』

 ヒナの元へかけつける道すがら、レインさんのもとにスパイトの情報が届いたようだ。 

 ヒナが心配です! どうすれば奴を即、滅却できますか。



『あの大きさが肝だ。レベル三になったばかりのスパイトだから、まだ完全に『融合』しきれていないんだ。人体からはみ出ているスパイトを地道に滅却していって、その中に核になるやつがいれば一網打尽できる』

 わかりました! レインさんボクに力を貸して下さい。

『もとからそのつもりさ。ソラ君意識を集中して』

 はい。

 首の周りが熱くなり、全身に力が漲ってくる。

 神経は研ぎ澄まされ、が駆け巡る。



 スパイトと対峙しているヒナを見つける。

 ヒナはスパイトに後ろを取られてしまっていた、気付いていないのかもしれない。

 ヒナを救うためブースターの力を借り『天滅』を歌う。

 ヒナは自分のブースターを展開していないから『浄歌』を歌われていないはずだ。

 ということは弱体化はされていない。

 

 

 大切な人を守るため最初から全力でいく――

 全身にレインさんの力が漲ったのを確認すると『天滅』を歌い始める。

 何度歌っても不思議なもので、遠巻きに聞いている悪意を持たぬ観光客は目を閉じ、涙しながら歌を聴いている。その反面スパイトにとっては自分の存在を滅する悪魔の曲だ。

 聴いたことの無い唸り声あげて、歌声が聞こえなくなる場所まで逃げようとする。しかし『天滅』はそれさえも阻止する聖なる力を行使し、その場に縫い付ける。

 


 一歩も身動きが取れない状態で自分を滅する歌を聴かされたスパイトは、形を保ちきれなくなって力の弱いものからぼとぼと地面へ落ちていく。

 すぐに浄化する固体や、それを必死に耐えるものまでいるがボクが気持ちを込めて歌えば歌うほど、それに抵抗できず浄化されていった。

 

 最後に落ちた一匹が人体から離れると、大きな『スパイト』は断末魔を上げながらボクを睨む。

 あれが核となる固体か。

 


 レインさん!

『わかっている!』

『「汝、滅せよ!」』

 二人で想いを口にする事で、突然円形状の磁場が発生し、そこから生み出される強大なエネルギーが幾層にもなってスパイトの核を滅多打ちにする。

 一般人には綺麗な天体ショーのような荘厳な出来事に見えているかもしれない。

 キシィャャヤァーー。

 核は力を完全に失い、消滅した。

 




「あの二人の美少女がやったんだ。俺達を助けてくれてありがとう」

 大通りや周辺の建物の窓から拍手と大歓声が巻き起こる。

 レインさんと言うブースターに力がすごいとはいえ、大事になりすぎた。

 どうしましょう? レインさん。



『ソラ君、フランス支部が到着した。あとは彼らに任せよう。ウチらは荷物を持ってホテルへ戻るよ』

 フランス支部の職員に誘導され、用意されていた車にヒナと乗り込む。同業者ということで車内では何も聞かずそのままホテルまで送ってくれた。




「ソラ! さっきのあれなに? 女の子の声がしたんだけど」

 二人が泊まることになっているホテルに戻ると、待ってましたといわんばかりに詰め寄ってくる、ヒナ。 

 答えを聞くまでは絶対に解放してくれないだろう。気迫がすさまじい。

「レインさんが言っていたとおりだよ。妖精で、ブースターでボクのパートナー」

「それはもうわかってる。私が聞いているのはそこじゃない」

「うんと……女の子っていっても妖精だよ? こんな手のひらサイズの」

 


 おどけながら、ヒナが怒っているであろうことを殊更たいしたことではないと説明する。

 それが逆効果だった。

「やっぱり女の子じゃない!」

「何でそんな怒るの? 色々助けてくれるボクの大切なパートナーってそれだけなのに」

「もう知らない!」



 ソファーに備え付けられているクッションをボクに思い切り投げつけると、そのままベットルームに行ってしまった。

『ソラ君。今のはないわぁ~』

 だったら、どうしろっていうんですか? ヒナがあそこまで怒る理由がボクにはわかりません。

『それは自分で考えなさいと言いたい所だけど、緊急事態とはいえ、ウチが存在を明らかにしちゃったのが原因か、そこは……すまない』

 



 あの場は仕方なかったと思います、迅速に動けたお陰で被害者も出ませんでしたし。

『ソラ君の優しさは美点だけど、少したらしの気があるね。人生の先輩としてアドバイスしてあげるけど、優しさはあの子だけにたっぷり注いで上げなさい。それと、今すぐ謝れば長期化せずに済むかもね』

 そういうものなんですか。 

『そういうものさ。ウチ今日は働きすぎたから寝るよ』

 お休みなさいレインさん。あとは一人で頑張ってみます。

『むにゃむにゃ、その意気だ、ソラ君』



 深呼吸をし、気分を落ち着けて本日二度目の大勝負に挑む。

「ヒナちょっといいかな?」

「ヤダ」

 うう、取り付くしまも無い。声色に棘があるし相当機嫌が悪い。



 だからといってここで引くつもりはない。ヒナとは良好な関係を続けていたいし、ここで誤解を解いておかないと後悔するそんな確信があった。

「そのままでいいから聞いて欲しい」

「……」

「学園に編入してくる際、学園長から託されたのがレインさんなんだ。ある理由からどうしても『エオル』でNo.一にならなくちゃいけなくて、そのためにはブースターでもあるレインさんの力が必要だったんだよ。ブースター持ちのヒナならその力のすごさがわかるだろ?」

「……」

「レインさんとは『スパイト』を滅却するための共闘関係でそれ以上でもそれ以下でもない」

「本当に?」



 返事があったことで怒っている理由が特定できた。レインさんとボクの関係性か。

 嫉妬してくれたことはうれしいけど、ヒナが心配するような男女の関係ではないんだけどな……。 言い表すとしたら師弟の関係というか、それ以前に相手は人間じゃなくて妖精だよ?

 

 

 そう思う反面、事情を知らないヒナからしたらそんな事関係ないわけで、ヒナの気持ちを知っているのに不安にさせちゃったのはボクだ。いまはヒナを安心させることに努めよう。  

「本当だよ。神に誓って」



 ボクは審判の時を待つ。


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