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ソラ君とウチのプレリュード第20番  食い違い


「うわぁ……」

 押し寄せる男の壁に思わず漏れてしまったうめき声。

 こちらに対して悪意を持っていないのはわかるけど、歓声を上げて血走った目をした人並みに迫られたらこうなってしまうのが仕方ないと思うのだ。

 でも、こういう態度を取ると決まってくるお尻への激痛。

 お尻をまた思いっきりつねられたようだ。つねった主は確認せずともわかる。 ファンの渦に飲み込まれて視界から消えていたアナマリアさんだ。



 心でどう思っていようが、エオルのメンバーとして恥ずかしくない姿でいなさい。 たぶんこんな所だろう。

 見知らぬ同性からもみくちゃにされようが笑顔でいろってことだ。

 無理やりでも気持ちを上げろ、上げるんだ!

 口角を上げ、不自然にならない程度にアハハと言葉に出してみる。 

 

 

 ボクのへたくそな笑顔はファンには何故か好評だったみたいで、一拍置いて歓声が上がったと思ったら急に人間の圧力が増し、一歩進むのさえ困難になってしまった。

 四方八方を囲まれたボクの額にゆっくりと汗が伝う。

「ソラちゃーん! こっち向いて~」

 へ? 

「きゃーかわいい! お人形さんみたい」

 んん?

「これから、ソラちゃんファンクラブの代表を勤めさせていただきます。ピエールといいます以後お見知りおきを! 押忍!」

 集団の中から屈強な男が一歩進み出てきて一礼し、報告を終えるとボクの返事も待たずまた元の場所に戻っていく。



 なんなのだこれは……。

 ボクの知らぬ間にファンクラブまで出来たらしい。

 でも動揺してばかりもいられない。ここは『エオル』のメンバーとして何か反応を返しておかなくちゃ。

「よろしくね?」

 困り顔で顔を傾げる。

「うおぉー! なんて澄んだ声なんだ。癒される~」

「一生ついていくぞー。ぐふっ」

 あはは……。



 ボクの苦し紛れのしぐさに興奮しすぎてしまった人間がひとり、またひとりと意識を失いしまいには仲間に抱えられどこかへいってしまった。

「だ、大丈夫ですか?」

「申し訳ありませんソラ様。これ以上エオルの方々に迷惑掛けるのはまずいですね。みんなぁぁ、下がれ下がれ! 倒れた者を救護するぞ、道を開けろぉ」

 ファンクラブ代表のピエールさんが、この場を収拾しにかかると、落ち着きを取り戻したファンはようやくホテルのロビー前への道を形成してくれた。




「いやぁ、ソラの人気すごかったね」

 一足先にロビーに入り、もみくちゃにされるボクを眺めていたヒナは、先ほどの熱狂を自分のことのように喜んでくれていた。

「うん、すごかった……。でも、さっきのは『エオル』に在籍しているボクの人気だと思うんだ。だからみんなとツアーをこなしていって、その上で個人としても認められたら素直に喜べるんじゃないかなって」



「そういう所『だけ』はまともなのね。あとはいい加減にそのしみったれた顔をどうにかしなさい。お尻をつねられるのが好きなド変態ってわけでもないのでしょう?」

 後ろから聞こえたアナマリアさんの声で、咄嗟に両手でお尻を隠し反論を試みる。

「ボクが変態なわけ――」

「まぁまぁまぁ。アナはいっつも厳しいこというけど、ソラは初の世界ツアーで緊張しているんだから少しは大目に見なさい」

 くい気味にヒナのヘルプが入る。最後までいわせて……。



「私はこんなメンタルの弱い人間に伝統あるエオルのトップの座を奪われているのが癪なの」

 アナマリアさんはヒナの発言を軽く受け流すと、矛先がすぐこちらに戻ってきた。

「私を抜いて一時的にでもトップの座に着いているのだから、それなりの振る舞いをなさい! あなたにはその義務と責任があります。私にこれ以上幻滅させないで!」



 ちくしょう……容赦ない言葉が胸に突き刺さる。ボクは歌なら誰にも負けない自信がある。

 ただ、ファンやスポンサーへの振る舞いが重要な仕事では経験値がなく素人同然。

 学園の代表してツアーを行っている以上は機転を利かせて立ち回らなくてはならないが、ボクにはそれができていない。

 大人な対応が出来ているアナマリアさんからしたらそんな情けないボクに一言いってやりたくなるのは当然だろう。彼女の言うことは筋が通っている。



「慣れない事だらけでちょっと疲れていたけど、徐々に直していくから、だから、ごめんなさい」

「ふん。言うのは簡単、そんなこと誰でも出来る。これからは行動で示しなさい。いくわよ、ミミ」

「はい、アナマリア様」

 去り際、ミミちゃんがぺこりとこちらに頭をさげる。

 すごい剣幕だったが、こういったことはボク以外のみんなからしたら日常茶飯事だったみたいで、気にせずルームキーを受け取るとさっさと自分達の部屋へ移動し始めてしまった。



「ソラ私たちもいこう。あんまり気にしちゃダメだよ」

「わかってる。気にしてないよ」

 それよりも、気になっていることがあった。

 世界ツアーに出かけてからというものアナマリアさんに対する評価を決めかねているのだ。ユキさんがいうような素行の悪さはまったくなく、周りに目を光らせてエオルのために立ち回っている気がする。



 仕事の依頼なのだから、”あの”ユキさんでも適当な事を言ったりはしないはず。

 これは一体どういうことなんだ?



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