ソラ君とウチのプレリュード第19番 海外のファン第一号?
「なぁなぁ、あれ見ろよ」
「お、なんだよ。アナマリア様が行っちゃうだろ! うおーアナマリア様」
熱狂的なアナマリア信者の男は連れのいう事を適当に受け流し、自分の想いを声高に叫び続ける。
今日はこの日のために仕事を抜けてきたのだ。
アナマリア様以外のことで煩わされたくはない。
「あの子もローズブルク音楽学園の制服着ているよな?」
気にせず話を続けた連れの言葉が何故か気にかかり、アナマリア様がファンに飲み込まれ消えたのを確認したのち、ようやく向き直って話を聞く体勢を取った。
「ああぁ…行っちゃった。それで、その子がどうしたって?」
「ここに来ているって事はあの子も『エオル』なんじゃね?」
「確かにいつもより一人多いな。新メンバーかな? そんな話聞いてないけど……誰か知っているか?」
周りで聞き耳を立てていたファンが一様に首を横に振る。
「今回のツアーの目玉として発表する予定らしいです」
この場に似つかわしくないフラットな感情を持ちスーツをビシっと着こなしたビジネスマン風の男がそこに佇んでいた。一見愛想がよく見えるため黒縁の眼鏡の奥から除く無感情な瞳に気付くものは誰一人いなかった。
皆が一番知りたかった彼の発言はこの騒ぎの中でも、皆の耳に届いた。
「あんた見ない顔だけど、それどこ情報だよ」
ここに集まったのはファンの中でも猛者中の猛者。
エオルの動向や情報を逐一共有し、定期的に交友もしているため、皆顔なじみなのだ。
メディアも知らぬ宿泊ホテルの情報を探り当てたのもそんなネットワークを駆使したためで、そんな結束の固さから見慣れぬ顔が混じると必要以上に目立つ。
「私の知り合いが、印刷関係の仕事についているのですが、そこで刷られているコンサートのパンフレットの中に『ソラ』という名の新メンバーの写真があったらしいです。聞いていた『特徴』にも当てはまりますし、そうなんじゃないかなぁと」
アウェー感をものともせず堂々とした態度で答える男。
「ソラちゃんか、いい名前だ。で、特徴ってどんな?」
「サラサラな黒髪を肩まで伸ばし、ぱっちりした二重で目元には泣きぼくろ」
得られたワードから新メンバーを妄想していくファンの鼻息が荒くなる。
皆、目を輝かせ、前のめりになり新情報を待つ。
「センスのいいチョーカーをつけていて……胸がペッタンコ」
みんな、というか特におっさん連中が息を飲む。
何か理性のような物が弾け、いてもたってもいられなくなりその感情の捌け口を声にだして発散する。
「それ、絶対あの子だよ!! 見てみろよ、あの絶壁!! 間違いないって」
ファンのその中でも特に男性ファンのギラギラした視線がソラの胸元に集中する。
その貧相な胸元を確認すると皆は確信した。
新メンバーはこの子で間違いないと!
「うおぉぉぉぉぉっ! ソラちゃんさいこうだぜぇぇぇ」
ファンの気持ち悪い雄たけびが閑静なパリ市内にこだまする。
近くで犬の散歩していたジェントルメンは目を顰め、公園で玉乗りの練習をしていた見習いのサーカス団員は豪快にすっころび、分娩室でいきんでいた妊婦は無事に元気な赤ん坊を出産した。
『エオル』に新メンバー! まだ公式に発表されていないと来ている。しかも、手を伸ばせば届きそうなところにいるときたもんだ。今のうちにサインを貰わなきゃ! いや握手だ、握手をしてもらおう。皆我を忘れて自分の欲望に身を任せる。
収集がつかなくなりそうなこの場の雰囲気を一刀両断する漢らしい声が轟く。
「落ち着かんか!! ここはソラちゃんファンクラブの私たちが場を取り仕切る。お前らこっちに並べ!」
「何勝手に仕切っているんだ! お前はヒナタ様のファンじゃないのか」
「押しメンは一人とは限らないだろう!! 俺は黒髪が好きなんだよぉぉ。ああぁソラちゃん」
『エオル』の熱狂的なファンである彼らは結構ミーハーなのであった――




