ソラ君とウチのプレリュード第16番 アー写とツアー
ボク達は今、ゼクストラベルの応接室に通されていた。
「皆さんこちらのモニターをご覧下さい」
渡された資料にも目を通しつつ、モニターに映し出された企画書を見つめる。
何々?
今回の世界ツアーでは当社グループ開発の最新ジェット機のプロモーションも同時に行う。その際、選抜メンバーの方々にはファーストクラスを実際に体験してもらい、その模様をPVにして大々的に宣伝して、ジェット機にプレミアム感をつける。
と、書かれていた。
更に
添付されているファーストクラスの画像を見ると、体を伸ばしきっても余裕がありそうな、広々としたスペースに高級感あふれる革張りシートがおかれている。備え付けのボタンを押すとフラットベットにもなるみたいだ。
また、フェイシャルエステ、マッサージなどの各種サービスも受けられ、長期間のツアーでも疲労を溜めこまないための配慮がそこかしこになされている。
食事も有名な三ツ星ホテルで修行を積んだシェフと、その弟子一同がツアーに同行し、その腕を存分に披露してボクたちの舌を満足させてくれる。
どうやらボク達はツアー中に限って言えば、国賓級の扱いを受けることになるみたいだ。とてもうれしいし、願ったり叶ったりではあるけど、高待遇であればあるほど何か不安になってしまうのはネガティブすぎるだろうか? その待遇に見合った活躍をすることがボクに出来るのか。そんな事ばかり考えてしまう。
「それではこれからアー写を撮ります」
「アー写?」
聞きなれない言葉に、思わず聞き返してしまった。
「ああ、申し訳ない。アー写とはアーティスト写真の略です。要は宣材写真ですね。こちらが企業や都市にプロモーションをする際どうしても必要な物の一つです。こちらで一流のカメラマンとスタイリストを用意しましたので安心してください。皆さんの美しさを世界中に知らしめてやりましょう」
爽やかな笑顔から、ホワイトニングされたであろう白い歯を見せニカッと笑うゼクストラベルの社員さん。
清潔感のある髪型で、パリッとしたスーツを着こなし、足元のピカピカに磨かれた靴など社会人として一切隙のない武装。そんな隙のなさが社会経験のない子供のボクには頼もしい大人に見えた。
広々としたメイク室へ案内されたボク達には、一人ひとりに専属のスタイリストが二名付き、そこでスタイリングをしてもらう事になっていた。
ボクはこういうことに慣れていないから緊張して縮こまってしまう。横目でみんなはどうだろうかと探ってみるとスタイリストさんと談笑しながらセッティングしてもらっていた。皆お嬢様なだけあって、こういう風に人に何かをやってもらう姿が様になっている。
写真撮影も同様で、ボク一人だけがぎこちなってしまう。
「ソラさーん。ちょっと表情硬いな。笑って」
そんな事を言われたって…………もう自棄だ!
口角をしっかりあげ笑みを作る。
好きなだけとっていきな!
「そう、いいよ。いい感じ」
様々なポーズで何度もカメラのフラッシュを浴びて目を白黒させていたら、写真撮影はいつの間にか終わっていた。
全工程が済み、撮影用のメイクを落としてもらう。
鏡を覗くと、疲労感が漂っていて人に見せちゃいけない顔になっていた。
世界ツアーで歌を聴いてもらうのは、想像するだけでも胸が高鳴る。
でも、こういうことは経験も無かったし、今後も同じ事があると思うと少し気が重くなる。
ボクは男の子だ。
綺麗にメイクをされてもあんまりうれしくはない。
「はぁ……今日はすっごい疲れた。早く部屋に戻って寝たい」
「何言っているの、そんな時間ないよ?」
元気一杯の顔をしたヒナが、ボクの真横にいつの間にか立っていた。
「へ? どういうこと?」
「アー写を撮ったらそのまま飛行機に乗って、ツアー開始だって言わなかったっけ?」
腰に手を当て小悪魔めいた顔をしながら、思いも寄らぬことを言い出す。
「そんな話は初耳だし、用意だってまったくしてないよ、ボク」
「あれ、言ってなかったっけ? 私たちはツアー初めてじゃないからもう用意してあるけど」
確かに足元に大き目の旅行鞄を持参していた。
「聞いてないよ。っていうか、海外にいくんでしょこのツアー。パスポートだって持って来てないし出国できないよ」
「あ、それならここに」
胸元からパスポートを二枚出す、ヒナ。
一枚は自分のもので、もう一つはボクのパスポートと言い放つ。
ううん?
おかしくない?
「なんでヒナがそれを持っているの?」
「細かいことは気にしない!」
「いやいやいや、気にしないほうがおかしいでしょ」
ボク達のやり取りを見ているみんなはニヤニヤ笑っているし、何だよもう!
「飛行機の中では正装して靴を脱ぐんだよ、ソラ?」
「それが嘘だってことくらいボクでもわかるっ!」




