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ソラ君とウチのプレリュード第12番 ~お約束?~

 

 ボクらの選抜Aチームがこれから過ごすことになっているロイヤルスイートルームは、四十畳ほどの共同スペースにリビングとアイランドキッチンがある。

 


 各々に個室も用意されてはいるのだが、就寝時は共同スペースにある三つのベッドで眠るという一 風変わった決まりになっていた。また、寮内の食堂でも三人一緒に同じテーブルで食事を取る。

 これは、個人のプライバシーは個室で尊重しつつも、合唱に必要なユニゾンなどを日ごろから密に コミュニケーションを取って育んで欲しいというユキさんの意向らしい。ヒナタは最初から友好的に接してくれるからいいけど、アナマリアさんはどうしたものか。

 


 そもそも、アナマリアさんに変化をもたらす為にここに来たわけで、望んでもいないのにそんなことをしてくる人と喜んでコミュニケーションを取ってくれるタイプとは到底思えない。

 だからといって合唱や『スパイト』滅却はチームで挑む以上、あまりギスギスしっぱなしなのは今後の活動に支障をきたす。う~ん、答えがでない。考えも堂々巡りする。どうしたものか。



「ソラ、気にしないでいいよ。一度へそを曲げたら就寝時間まで部屋から出てこないんだから」

「聞こえているわよ!」

 それを聞いてペロッと舌を出しおどける。このお嬢様らしからぬ気さくさ、あのアナマリアさんと対等に接していられるのは歌や『スパイト』滅却師としての実力以上にこの性格のおかげだろう。

「ソラはこのベッドを使ってね。それからシーツの洗濯は全部自分でやること。お嬢様学校では珍しいかも知れないけど、ソラもじきに慣れるよ」

 こちらが頷くと、よろしいといってうれしそうな顔で頭を撫でてきた。

 いきなりのことで驚くが、このようなスキンシップは嫌いじゃない。むしろ小さい頃から人のぬくもりに飢えていた人間にはご褒美だ。ただ、気恥ずかしさはまだあるけどね。



「あなたの個室はここなんだけど……まだ、ミミちゃんの私物があるんだよねぇ」

 そういえば入室前に見たドアノブにファンシーな動物のカバーがかかっていたが、あれもミミさんの私物なのだろう、年相応の可愛らしさがある。

「どうしようこれ? 私服とか下着とかもそのままだし」

 怪しまれないように平静を装って発言するが、直視できない。

 こういったアクシデントが起きても、男の部分を曝け出さないように気をつけねば。

「急だったからね。取りに来るまでそのへんに退けておけばいいよ」

 退けろっていわれても、ヒナタの前でやるのは憚られる。

 ミミさん、早く取りに来てください……この黒の下着。



 一通り部屋を案内してくれたヒナタと隣り合ってソファーに座る。

「個室でゆっくりするのも良いけどさ、私、もっとソラのこと知りたいし、仲良くしたい。だから普段は共同スペース使うようにしようよ。ね?」

 何かと面倒を見てくれるし、こんな可愛い子にお願いされたら断ることなんかできない。それに学園のことをもっと知るいい機会だ。ここは素直に言うことを聞いておこう。

「ボクもヒナタともっと仲良くなれたらなって思っていたんだ」

 ありゃ? 顔真っ赤になっちゃった。

 しかも背中をバンバン叩いてくるし。いたい、いたいって!

 それからはヒナタと約束どおり共同スペースで色々話をした。

 授業のことや好きなものや苦手なもの、恋話などたわいのない話でも彼女はじっくり話を聞いてくれる。

 聞き上手なので、なんでもしゃべってしまいそうになるけど、自分の出生や性別、それに学園に来た目的、これらはもちろんしゃべるわけには行かない。でも目の前で、真摯に話を聞いてくれている子に、隠し事をしている事に後ろめたさがあるのも事実。

 


 ごめんね、ヒナタ。



 仲良くなればなるほどこの気持ちは大きくなっていくのだろうけど、これは早く自分で落としどころを見つけておかないとダメだな。

 精神衛生上よろしくない。

「お風呂に入りたいのだけれど、よろしいかしら」

 アナマリアさんが急に自分の部屋からヒョコっと顔を出す。ヒナタが了承するのを確認すると個室に戻っていった。入浴の準備でもするのだろう。

 気に留めないようにしていたのだが、個室から聞こえてくる衣擦れの音が、生々しくて少々気まずい。少しだけ顔が、ぎこちなくなってしまっていたのだろうか?

 

 ヒナタが怪訝そうにこちらを見つめていた。

 自分の顔を鏡で見たわけではないが、TVなどでよくみかける、浮気を問い詰めらている夫みたいな顔をしているに違いない。浮気はしていないが、やましい所が多々あるので口角もスムーズにあがらず笑いも少しぎこちない。

 顔を近づけてじーっと見つめてくるヒナタ。

 そのプレッシャーに耐えられなくなって視線を外したボクは、その先の視界にもっとトラブルを招きそうなものを見つけてしまった。

 


 そこには、美の女神が顕現したと錯覚するようなプロモーションのアナマリアさんがいた。ロングの金髪をなびかせ一糸纏わぬ姿で大きな胸をたゆんたゆんと揺らしながら堂々とバスルームへの道を突き進んでいく。第六感でボクの目線に気づいたのだろう、キッと睨み胸を隠してバスルームへいってしまった。



 ああぁ……。

 怒りに満ちた視線に臆することなく、その姿がバスルームに完全に消えるまで見届けてしまう。

 


 うっ! やばい……。

 静まれボクの男性の部分! こんなのが毎日続いたらすぐ男だとばれてしまう。

 彼女達はここに男性の目があるとは露ほども思ってないからあらゆる面で無防備。

 さっきのアナマリアさんは言わずもがな、ヒナタも過剰なボディタッチやら、話すときはいつも顔が近いし、かがむ際、気にせずに胸元を見せてくる。

 あーやばい、やばいぞ。どこかでこのモヤモヤを発散しないと、そうだ腹筋だ! 腹筋をしよう。

 寝転がり、両膝を立て後頭部に両手を添えて腹筋の準備完了。

 これから体力が続く限り腹筋を行う。これが今ボクに出来る最良の手段。



『ソラ君、落ち着きたまえ。こんなものは慣れさ。場数を踏んでいけば童貞のソラ君でも堂々としていられる』

 レインさん、いきなり出てきたと思ったら何て失礼なこと言うんですか、そうじゃないかもしれないじゃないですか。

『そんな初心な反応も典型的な童貞の証拠じゃないか。よっ! 童貞の歌姫ソラ君!』

童貞に歌姫ってなんですか、意味わからないです!

 ええそうですよ、確かにボクは童貞ですがそれがどうしたっていうんですか。いいんです、遠くない未来に素敵な人が現れて、ボクはその人と結ばれて幸せな家庭を築きますから。童貞と指摘され半ばやけくそになったボクに、レインさんはチョーカーの温度を著しく下げるという反応を返してきた。

 そんなドン引きしないでくださいよ……。



『ひくわぁー 白馬の王子様を待つ乙女じゃないんだから。受身のままそんなこといっているようじゃ、ソラ君が望むような幸せは掴めないぞー』

 もう! 『スパイト』を一緒に滅却したときは分かり合えたと思ったのに。ボクにはレインさんの考えていることがわかりません。

『この感情が子供を見守るおかんの心境なのかなぁ』

 頭に響いてくるレインさんの声色に戸惑う。さっきまでのふざけた感じが無い。

『スパイトの滅却は見事だったよ。でも、あれで満足されちゃ困る。技術的にはアナマリア君の方が上手だった。最後の詰めはブースター性能の差だね。妖精界の覇者であるウチのパートナーなんだからもっと成長して、少しでもウチに近づいてもらわなきゃ』

 いつになく厳しいことをいうレインさんに言葉を失う。



 成長か……。

 寝食に困らない生活を続けてからというもの、スラム街で得た大切な経験や度胸が目減りしていっていることに気づいてはいる。

 大事なものを失わないようにヨシュアやスノウにも色々と特訓はしてもらっていたが、やはり二人の庇護下じゃそれにも限界がある。そう思い始めた時に訪れた一人での仕事なのだ。

 プロの世界は甘くない、力がないと判断されればボクはまた捨てられて、また身寄りのない生活にもどされてしまうかもしれない。

 それはもう、いやなのだ。

人のぬくもりを知ってしまったボクにはあの生活はもう耐えられそうにない。



『……』

「どうしたのソラ? いきなり暗い顔して黙っちゃって」

 声をかけられたことで焦点が定まり、心配そうに覗き込んでくるヒナタに気づく。この子に心配をかけたり、笑顔を曇らせたりしてはダメだ。

 自分が知っている中で最高の笑顔をつくる。

 モデルはもちろん目の前の女の子。

「ごめん、ごめん。お腹が急に減ってさ、食事はいつかなって考えていたとこ」

「よかった。少し心配しちゃった。お腹減ったらそんな顔もするよね、私もそうだからわかる!」

「あはは」

 今度は無理せず心の底から笑えた。

 太陽のような子だ。



「食事はみんながお風呂から上がったら行こうかと思っていたけど、アナが上がったらいこうっか。それで帰ってきて少ししたら一緒にお風呂入っちゃおう」

 ぶはっ。

 それは流石にまずい、一発で男だとばれる。

「ボク、すーーっごい長風呂だから一人がいいかなーって。気にせず先に入ってリラックスしてよ」

「ぶーぶー。ソラと体の洗いっこしたかったのになぁ」

 ボクもできればしたかったです。

「二人共、仲がよろしいこと。入浴中、話声がずっと聞こえていました。ヒナタ、準備しますので少しお待ち下さい」

 アナマリアさんの準備が済むと、ヒナタを中心にしてボク達は食堂へと向かった。

 


 学生食堂と謳ってはいるが、名前の雰囲気とは違い、まるで高級レストランといった佇まいだ。明るすぎず、暗すぎず落ち着く照度がさらにその事を強調させている。

 自分達のために用意されている窓際のテーブル席に向かう。席に座るアナマリアさんとヒナタが座るのを確認してボクもそれに続く。

 食事が運ばれてくる、豪勢な料理ばかりだった。

テーブルマナーを厳しくしつけてくれたヨシュアに感謝しつつ料理を楽しんだ。


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