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ソラ君とウチのプレリュード第11番 ~女の子と共同生活~

 目を覚ますと医務室のベッドの上だった。



 体に妙な重みを感じ、その発生源を辿ると、椅子に座ったままのヒナタがボクのお腹を枕にして眠っていた。

 看病をしてくれていたのか首を動かすと濡れた布がおでこから落ちる。

 昔もこんな事あったような。

 ヒナタを起こさないようにゆっくり起き上がる。少し頭がクラっとしたけど、目を閉じ数秒息を吐くと嫌な感じも収まった。これなら大丈夫そうだ。

 かすかに聞こえる寝息を立てて眠るヒナタを見つめる。すると感謝の気持ちと愛おしさが沸き起こり思わず頭を優しく撫でてしまう。



「んっ」

 起こしてしまったようだ。勝手に女の子の頭を撫でていたことを知られないように慌てて手を引っ込める。何も知らないヒナタは窓からの陽光を浴びて寝ぼけ眼をこすっていた。

「ごめん。起こしちゃった」

「ソラっ!」

 ヒナタは安堵した顔を一瞬見せた後、全体重を乗せてボクに飛びついてきた。

「ぐへぇ――」

 ヒナタはベッドに戻ったボクに、寝ている間に起こっていた事を教えてくれた。

 『スパイト』の滅却は成功しており、被害者の男性は悪意から解放された。

 『スパイト』に寄生されて生身で車を破壊するという無茶なことをしていた反動で病院に搬送されたが、骨折だけで済んで命に別状はないらしい。また、彼の家族も奇跡的に意識を取り戻し後遺症もなく病院で体の回復に努めている。あまりに出来すぎた結末だが、そうなるようにみんなが必死であがいたのだからなるべくしてなったのだと思う。      



そしてもう一つ。

 ランキング戦の結果だがこれは見たほうが早いといわれ、ヒナタに寮の掲示板まで腕を引っ張られ連れて行かれた。そこにはランキング戦の結果と、新しい部屋割りが寮の連絡掲示板にでかでかと張り出されていた。



第四十五回『エオル』ランキング戦結果発表 

選抜Aロイヤルスイートルーム『一位ソラ、二位アナマリア、三位ヒナタ』

選抜Bスイートルーム『ミミ、エカテリーナ、シアン』

以上六名を世界ツアーの選抜メンバーとする


 勝ったのか。

 スパイト戦で最後気を失ってしまったから正直自信はなかった。『スパイト』を滅却した点を評価してくれたのだろう。これで仕事の第一段階を突破できたはず。これで陥落したアナマリアさんがどう変わるのかで今後柔軟に対応していく。

 初めて任された仕事だ。順調に仕事をこなしている自分が誇らしくなる。最後まで見事やり遂げたら二人はどんな顔をしてくれるだろう。特にヨシュア! あのしかめ面が喜びに変わる瞬間を是非見てみたい。



「ねぇねぇ、ソラはうれしくないの?」

 故郷のことを考えてトリップしてしまったボクのスカートを引っ張って存在をアピールするヒナタ。しかし言っていることの真意がわからず咄嗟に

「うん? うれしいよ?」と、調子を合わせる。

「そっかーならよかった。あんまりうれしそうに見えなかったから、つい」

 ボクの両手を掴み、ウルウルと上目使いで見つめるその瞳は、本来ならぐっと来るシュチエーションだが、性別を隠し嘘をついているボクには責められているように見えてしまい苦笑いをしてしまう。



「じゃあ、そろそろ行こうか」

「どこへ?」

「どこへって、私たち同じ部屋になったんだよ? これでいつでも一緒にいられるね!」

 ランキング戦の上位六名は、他の生徒達とは違った様々な良待遇を得る。

 そのひとつが他生徒よりもグレートの高い部屋の割り当てだった。

 ボクだって広い部屋はうれしい。でも、手放しでは喜べないことが一つだけあった。

 ヒナタとアナマリアさんと三人で共同生活をしなくてはならないのだ。四六時中一緒にいたら男だってばれちゃうでしょ流石に。

 特にアナマリアさんにばれたらそこですべてが台無しになってしまう。どうしてそういう配慮をしてくれないのか、学園長は一体何を考えているんだ?



「ここがあなたの新しい部屋よぉ。仲良く使ってね。それと何か困ったことがあったら私に何でも聞いていいのよう。何でもね……チュッ」

 女性の格好をしているが、尋常ではない体格の良さと立派な喉仏。そして剃った傍から生えてくると思われる口回りの青ヒゲ。隠し切れない男性ホルモンを全身に漲らせ、ねっとりとした目線でボクを見つめてくる寮母のチャーさん。

 部屋にいるアナマリアさんやヒナタにはまったく目をくれないのが、ボクの恐怖心をあおる。

「あはは……ありがとうございます」

 チャーさんのディープなインパクトに笑顔が引きつる。

「チャーさんに荷物を運ばせるとか大層なご身分だこと。学園No.一の実力者様にとっては当たり前のことなのかしら」

「アナ、ミミちゃんがいなくなったからといって、そんなにつらく当たらなくてもいいでしょ?」

「ふん」



 そういうとアナマリアさんは顔見せしただけでドアを乱暴に閉め、部屋に引っ込んでしまった。

 ヒナタが助け舟を出してくれて助かった。『スパイト』を滅却し損ねてトップの座から蹴落とさるわ、仲良しのミミさんとは部屋を離れ離れになるわで、相当鬱憤が貯まっているだろう。

 あのままでは言葉責めのサンドバッグになるところだった。彼女の立場からしたらボクを恨むのは当然だろう。それがお門違いだろうと、アナマリアお嬢様にはそんなの些細なことなのだ。

「ソラ君は気にしないでいいのよう。あの子だって人のこと言えないんだから」

チャーさん……気遣いはうれしいんですが、ボクのお尻を撫で回さないで下さい。

『スパイト』と対峙している時より危機感を感じています。

「とても綺麗な部屋でしょ? ここに限らずどの部屋もこうなのよ。学生には掃除や洗濯、自分でやれることは全部自分でやらせているの」

 案内された部屋は確かに綺麗で豪華な部屋だった。

「みんなお嬢様だからね、最初はやりたがらなかったけど、少しずつ経験して覚えていったわ。身の回りの事は他人がやって当たり前と思っている子達が、その立場になって漸く理解できるのよ。自分たちがどれほど恵まれていたかってね」



 実の母のように愛情を込めて皆のことを想うチャーさんの表情が翳る。

 そして、その目はアナマリアさんがいる部屋に向けられていた。

「でもね、あの子は違う。他人のことを自分の駒としか見てないんだわ。あなたが来るまでここにいたミミちゃんに何でもやらせていたの。本当文字通り何でもね。見つける度に、何度も何度も注意したけど、自分より下と見ている人間の話なんかまったく聞かないんだから。昔はもっと優しくて素直な子だったのに……」

 部屋に向けられていた視線がボクのほうへ戻ってくる。

「あなたがここに来て、あの子が守り続けてきたトップの座を奪い取ったことで、あの子の中で何かが変わってくれたらって私は思っているの。どんなに問題を抱えている子でも、ここで寝食を共にしているなら、私にとってはみんなかけがえのない家族だしね……。だから頑張ってね『ソラ君』」

 最初はその風体に面食らってしまったが、学生のことを等しく気にかけてくれる優しい人みたいだ。チャーさんが望む変化というものが、どう言った物かはわからないけど、ボクは自分に与えられた仕事をこなすだけ。ただそれだけです。



「それじゃ、夕食の準備もあるからいくわね。後のことはヒナタちゃんに聞いてちょうだい。あの子なら大丈夫だから」

「はい。わかりました」

 ヒナタと一緒に、出口までチャーさんを見送る。

「見送りにも来ないなんて、ミミちゃんがいなくなったからってほんっと情けない子ね」

 声量的にアナマリアさんにも聞こえるように言っている様な?

「うるさいわね! 早くでていけ青髭!」

 その声を聞くと安心したように笑って、ボク達に軽く会釈をして出て行った。


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