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二日目

 8月24日、9時前にホテルをチェックアウト。二日酔いで頭がボーッとしている中、仙台駅に向かう。中央改札の有人通路を通り、用意していた残り一日分の青春18きっぷに入鋏印を押してもらう。入場したら改札内すぐに見える立ちそば屋に入り、夏季限定メニューの肉味噌入りの冷やしそばを食べる。

 朝食を終えて、仙石東北ラインに乗るためホームに下りる。仙石東北ラインは2015年5月30日、仙石線の全線運転再開と同時に東北本線の塩釜−松島間に短絡線を敷設し、仙台−石巻間の所要時間の短縮を図った路線である。仙石線は震災被害のため長らく仙台側の終点だった高城町まで乗車済みなので、今回仙石東北ラインで短絡線を通過し高城町を経て石巻まで行けば仙石線完乗となる。

 ホームでしばらく待っていると、石巻方から仙石東北ラインに使用されるHB−E210系気動車が入線してきた。この列車が折り返し9時24分発の特別快速石巻行きとなる。特別快速は一日一往復のみ走り、仙台を出ると石巻まで停車するのは塩釜、高城町、矢本のみであり、所要時間は52分である。HB−E210系は、ディーゼルエンジンと蓄電池を搭載したハイブリッド車両であり、エンジンで発電を行い電車と同じシステムで動かすものである。車内に入るとJR東日本の車両によく見られるセミクロスシートだが、ハイブリッドのための機器を搭載するスペースを確保するため一部の座席がなくなっている。機器があるところは窓もなく、車両全体を見渡すことは難しい。その代わり機器を置いてある場所にはハイブリッドシステムを説明する液晶モニタが設置されていた。

 私は先頭車両乗務員室後方のロングシートに座り、列車は定時に発車した。気動車お馴染みのアイドリング音は聞こえるが、電車のようなスムーズな加速力だ。仙台駅構内を出るとさらに加速し、直線区間の多い東北本線を駆け抜けていく。程なくして特別快速最初の停車駅である塩釜に到着、走りっぷりは電車と遜色ない。塩釜を発車後松島湾が見えるようになると右手に仙石線が近づいてくる。並走するようになると列車は速度を落とし、東北本線と仙石線の連絡線が現れる。列車は一旦停車し、その後そろそろと連絡線を渡っていく。渡り終えたところで再び停止。石巻からやってきた仙石線普通列車の通過待ちだった。ここからは単線なのでダイヤのやりくりにも苦労がありそうだ。

 信号が赤から青に変わり、仙石線に入っていく。先ほどまで乗っていた東北本線が左に別れ、松島駅舎が見えたらこちらも高城町に停車。いよいよ最後まで不通だった区間を乗り通すことになる。発車してしばらく進むと右手に松島湾を望むことができる。車窓はいいが、松島湾と線路の間に真新しい堤防が造られ、津波への対策がなされている。堤防は陸前大塚まで続き、ここから先が内陸部に移設したルートとなる。松島湾と別れ、内陸部に向かって列車は進む。上り勾配をかけ上がると、住宅の造成が進む東名、野蒜を通過。その先を進むと高架線となり、ゆっくりと下り坂となる。どれだけ高台に移設されたかがわかる線形である。最後の途中停車駅となる矢本を出れば平地を走り、市街地が見えたら石巻に到着した。仮面ライダーやサイボーグ009の置物が迎えてくれる石巻駅を降りると落ち着いた市街地が見渡せる。どこにでも見られそうな光景だが、この町並みを津波が飲み込んだと想像するとぞっとする。

 しばらく駅前で時間をつぶした後、再び改札に入り、女川行きの石巻線列車に乗る。キハ110系気動車の2両編成でワンマン運転である。石巻を出るとしばらく内陸部を走行するが、万石浦駅を過ぎると海が見えて沢田駅に到着する。ここは石巻湾の内海であり、この内海を万石浦と呼ぶそうだ。穏やかな海であるが、線路との間にはやはり真新しい堤防がそびえ立つ。

 浦宿駅を過ぎると万石浦から離れ、石巻線終着の女川にたどり着く。今の駅舎は運転再開時に内陸部に移設されたもので、温浴施設が併設されている。駅舎を出ると、目の前に真新しい商業施設が現れる。震災復興に向けて造られたもので、高層の建物はなく空が広い。果物屋やミニスーパーなどが入っているが、まだ開業していない店舗も見られた。その商業施設を進むと女川港に出る。道路を隔てた先はフェンスに覆われ、重機が止まっており、復興作業の途中といったところだった。

 その重機の横に、コンクリート製と思われる建物の残骸が横たわっていた。この建物は旧女川交番であり、震災直後に津波に飲み込まれたそうだ。新しい街としてスタートしようとする施設と、震災の遺構が隣り合わせで存在している。

 近くの中華料理屋で昼食を摂り、女川駅に戻る。駅前には足湯があり、温浴施設に入らなくても無料で足湯に浸かることができる。列車の時間までまだあるので足湯に入る。熱めのお湯に足を入れるだけで旅の疲れが取れるから不思議だ。周りには新しい駅舎と新しい商業施設が目に入るが、その外側ではまだ更地が多く、まだまだ復興の途中といった光景も見える。新興住宅地のような駅前の光景と先ほど見た横たわる交番を思い浮かべながら足湯に浸かった。

 お土産物店をを物色した後、駅に戻り列車に乗る。13時24分発小牛田行きの2両編成は行きと同じキハ110系だが、一人掛けのシートで回転可能なものだった。一人席に座り、スーパーで買ってきたビールを開ける。列車は女川駅を離れ、再び万石浦の風景を見ながら土産物点で買ったホタテや牡蠣の燻製をつまみにビールを流し込む。石巻で多くの人が降り、仙石線ホームに流れる。空席が目立つようになった列車は田畑の間を走り小牛田に向かう。終着の小牛田に着くころにはビールと前日に調達した日本酒「浦霞」の一合瓶も空け、うとうとしていた。

 小牛田からは東北本線で仙台を目指す。先行する貨物列車が信号待ちを行っていたため3分ほど遅れて発車。しばらく車窓を眺めていたが、松島あたりでまたうとうとし、目が覚めると終着の仙台駅直前だった。

 仙台駅のホームを降り、そのまま東京方面に歩くと欠き取り型の3番線ホームがある。ここから15時40分発の仙台空港行きに乗る。待っていると仙台空港線の車両が到着し、折り返し普通仙台空港行きとなる。到着したのは青と黄色のラインを纏ったSAT721系電車の2両編成で、降車客と入れ替わりに座席はすぐに埋まり混雑してきた。私は辛うじて先頭車両乗務員室後ろの場所を確保して発車。仙台駅を出ると高架線を走り長町、太子堂と都会的な高架駅に停車する。南仙台を過ぎると名取に到着。ここまでが東北本線でここから仙台空港線に入る。名取では下車する人が何人かいて、両数の多い東北本線の列車も頻繁に走っているのに2両編成で混雑するこの列車に乗るのか不思議に思えた。

 名取を出ると再び高架線に上がり、仙台空港線に入る。一つめの停車駅、杜せきのしたでは多くの乗客が下車した。駅前には大型ショッピングセンターがあり、周りを住宅地に囲まれている。次の美田園も同様で、仙台へのベッドタウンになっているようだ。美田園を出ると高架を降り、仙台空港の滑走路の下をトンネルで通る。滑走路を過ぎると再び高架になって仙台空港駅に到着した。一旦下車するが、仙台空港線は青春18きっぷは使用できないため、有人改札に回って仙台空港線の運賃を支払う。改札口を出ると、Nゲージの鉄道模型で作られた仙台空港駅のジオラマが展示されていた。空港への連絡通路のほかに外へでる階段があり、下りてみると、階段の途中に津波が到達した地点が青い線で書かれていた。仙台空港の滑走路が津波に飲み込まれる映像を思い出した。

 空港内をしばらくぶらぶらした後、駅に戻り名取までの乗車券を購入。折り返し仙台行きに乗り込み名取で福島方面の東北本線に乗り換える。やってきたのは701系の6両編成で、車内の座席はすべて埋まりまさに通勤電車そのものだった。ここでも運転士後ろに陣取る。

 岩沼で常磐線と別れ、次の槻木で下車。ここから阿武隈急行に乗り換える。改札を一旦出て阿武隈急行経由福島までの乗車券を購入。運賃は970円。ちなみにJR経由でも福島まで同じ970円だった。

 再び改札を通り、跨線橋を渡って阿武隈急行の列車に乗り込む。停車していた阿武隈急行8100系電車は国鉄型車両を基に造られたので重厚感がある。17時10分定刻に発車、しばらく東北本線と並走したのち立体交差で別れる。しばらく平地を進み、無人駅が続いて有人駅の角田に停車。田園風景をさらに進むと国鉄丸森線時代の終着駅、丸森に到着する。丸森を出ると、阿武隈川に沿って走行する。山あいの車窓になり、連続したトンネルを過ぎるとあぶくま駅に到着した。一つ前の丸森駅とは8.1キロの距離がある。人気のない観光施設が併設していたあぶくまを過ぎると、阿武隈川の渓谷の風景が続く。列車から見下ろす渓谷は目を見張るもので、阿武隈急行でトロッコ列車でも走らせてみたら話題になるのではないかと思った。ただし、乗車した日は前日に雨が降ったせいか、濁流気味であった。

 次第に阿武隈川と別れ、途中「やながわ希望の森公園前」という長い名前の駅を過ぎると、車両基地のある梁川駅である。このあたりから住宅が増え、下校する高校生も乗り込んでくる。日が暮れて車窓も見えづらくなってきた中を列車は走り、18時51分、終着の福島駅に到着した。てっきりJRのホームに着くのかと思ったら、阿武隈急行専用のホームがあり、向かいには福島交通飯坂線の列車が停車していた。駅舎は福島交通と共同で、地方私鉄の趣が感じられる。

 あとは東京に帰るだけだが、乗る予定の新幹線の時刻まで時間がある。今回の旅行の打ち上げをしようと思い、居酒屋を探しに駅を出た。

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