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 人工的な作りの部屋の中に、人工的に設置された植物。人工的な滝が作り出すマイナスイオンと、水が落ちる音を聞きながら僕は、ティムを見つめていた。

「残念ながら……」

 ティムは、毛づくろいをやめて僕の方を見た。

「俺の頭では、君を元の世界に返す方法は思いつかなかった」

 ティムは、尻尾をぴろんと立てた。

「そんな……」

 僕の目の前に突如現れた黒い猫は救世主でもなんでもなかったのか。一人孤独な僕の前に現れた時は、本当に嬉しかった。でも、そんなに世の中うまいことは続かないということか。

「そんなことより、もう少しこの世界を楽しんだらどうだ」

 ティムは、僕を励まそうとしているのだろうか。

「楽しんでいる間に、元の世界に戻れるような気がしないか。それに、君に頼みたい仕事もいくつかあるんだ。手伝っている間に、何か手がかりが見つかるかもしれない。それは、すぐに見つかるかもしれないし、すぐには見つからないかもしれないけれど」

 長い旅になるのかもしれないと、この時僕は思った。

 そして、日本に居ては経験できない体験が目の前に広がっているような気がしてきたのだった。

「仕方ない。君は、孤独な僕の目の間に現れてきてくれた。僕は本当に嬉しかったよ。だから、少しだけ君に手伝ってあげる。少しだけね」

 僕は、あまり長居はしたくなかったので「少しだけ」という枕詞をつけた返事をした。

「君は利口だな。現状取りうる選択としては間違いじゃないと思うぞ。じゃあ、しばらく頼む」

 ティムは、右足をちょっこんとあげた。なんとも可愛らしい挨拶である。言葉は汚いというのに。

「とりあえず、俺のねぐらに案内しよう。そこに人間も数人だがいたはずだ」

「え、人間いるの!?」

 僕は驚いた。

「待て。俺は一度たりとも人間がこの世界に居ないとは言ってないはずだ」

 僕は、可能な限りの彼との会話を思い出してみたが、この世界に人間が居ないとは確かに言っていなかった。

 そして、彼はぴょんと床に降りて、また歩き出した。顔をこっちに向けて「ついてこい」と言わんばかりの表情をした。僕は、ティムについていくことにした。


 しかし、本当に不思議な場所だ。ジャングルの中を歩いていたような気がしていたのだが、ジャングルの中にあった扉を開けると、今度はシネコンのような場所が現れた。

 中は電気は灯っておらず、少々薄暗かったが、天井のいたるところに穴が開いてあって光が差し込んでいた。これまた不思議な雰囲気な場所であった。

「この映画……」

 僕は、シネコンのポスターが飾ってある通路を通った時、目に入ったポスターが気になってしまった。

「つい、こないだ公開した映画だ。ちょっと、ティム!この映画って、ここで観れたの!?」

 僕は、ティムに大声で話しかけたが、彼は何も聞かなかったかのように、スタスタと歩いていってしまった。僕は、はぐれてしまうのは少し怖かったので、すぐに彼の後を追うことにした。

 通路は、真っ赤な絨毯が続いていた。黒猫はその絨毯の真ん中を優雅に歩き、僕はその後をひたすら着いていった。ポップコーンが売っていたような機械があったり、ドリンクバーのような機械も置いてあった。なんだか、懐かしい気分にさせられたが、日本ではないということを一瞬で思い出すのだった。

 また、扉が僕の前に現れた。ティムは止まって僕の方を見た。

「おい、おいリョータロー」

「なんだよいきなり。さっきまで僕の話も聞いてくれなかったくせに」

「この扉の先が俺のねぐらだ」

「ふーん。それで」

「まぁ、おとなしくしろ。あまり騒ぎを起こすんじゃないぞ」

「わかったよ」


 僕は、この世界に来て初めての人間に会えることを楽しみにしていた。

 でも、僕の思っていた光景と違う景色が目の前に広がることになるとはこの時想像してはいなかったんだ。

 この時はまだまだ帰りたくてしかたなかった。帰りたくてしかたなかったのだ。 

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