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 僕は大きく息を吸った。肺に新鮮な空気が送り込まれて、少しだけリラックスすることができた。

 僕は、気を取り直して一度コンビニの中に戻ることにした。

 コンビニの中は、物が散乱しており、歩くたびに、何かにぶつかった。しゃりしゃりとガラスを踏んでいるような感覚が足から僕に伝わってきた。

 見れば見るほど、店内は荒れている。食べ物という食べ物はなく、雑貨が大量に残っていた。興味本位で、お店のレジの方に向かったが、レジの中身はからっぽであった(こんなに外は荒れ果てているのに、お金が必要なのだろうか)

 僕は、何かに役立つかもしれないと思い、雑貨の中から、タオルとガムテープに軍手、そして、カッターナイフを手に取った。もはや、役立つかもよくわからないお金を財布の中から取り出し、レジの上に置いて僕はコンビニを出た。

「うーん、暗くなったらまずいな」

 冷静に考えたが、この辺り一帯は電気が通っている気配がなかった。また、水も水道から出てはいなかった(トイレは流れなかったし、トイレの水は溜まっていなかった)つまり、ライフラインというライフラインがないといえる。日が暮れる前に、僕は人を探しなければならないと思った。

 コンビニから100Mくらい離れた場所に、自転車が落ちていた。僕は、軍手をはめて自転車のハンドルを持ち上げてから、スタンドを立てた。僕は、自転車にまたがってペダルを漕いでみたが、チェーンは切れる気配はなく、いくぶんかは走れるような印象を持った。

「これで、行ってみるか……」



 人が住んでいるのか、全くわからないこの世界に来てから何時間かが経過した。

 僕は、ひたすら自転車のペダルをぐるぐるとこぎ続けている。自転車のチェーンは、やはりさびついているのか、すべりは悪く、ときおり鈍い音を立てる。それでも僕は、ひたすら自転車を前に進めた。

 周りの景色はあいかわらずであった。ただただ長いアスファルトの道路と、どこまでも広がる地平線。これがずっと繰返されていた。よく、アメリカ映画とかでワンボックスカーに乗ったヒッピーが、荒野のアスファルトを時速100Kmで陽気な音楽とともに走り抜けるシーンを見たことがあった。ワンボックスカーで、窓全開で走るならば気持ちの良いものかもしれないが、自転車でただひたすら走るというのはなんとも精神衛生上良くない。

 僕は、ふと高校で、ランニング大会が行われていたことを思い出した。

 スタート地点とゴールは同じで、折り返し地点が設定されたコースを走った。全長20Kmはなかったと思うが、コースを知らないで20Km走るのとコースを知っているとでの20Kmでは体の感覚が全く違った。知っている場合は、ことあるごとのチェックポイント(例えば、お寿司屋さんがある。といった目印)を知っているから、「あそこまで頑張ろう」という力の入れ方ができるが、ゴールをしらないで延々20Kmを走らされると何を目印に力のオンオフをすれば良いのかがわからなくなってくるのである。


 今の僕はそんな感じだった。

 

 ゴールがわからない。どこに行くのが正解なのか。この道の終わりはどこにあるのか。僕はどの辺りまで来たのか。右側に視線を移すと、さっきまで紫色の空が広がっていたのに、今はオレンジ色の空が広がっている。こういう空の色をマジックアワーというのだろう。

 僕は何かが嫌になって、自転車のペダルを漕ぐのをやめて、両足をアスファルトにつけた。そして、来た道を、振り返ってみると、そこにはコンビニの姿は見えなかった。もはや、360度地平線しか見えない状況だった。

 僕は、ため息をついた。もはや、逃げ場などない。自分から退路を絶ったつもりはなかったが、自然と退路は絶たれてしまっていた。でも、あのままコンビニいたとしても僕は餓死をしていただろう。特に何か食べ物があったわけではないからだ。

 歯を食いしばってみた。すると、自然と力が体の奥底から湧き出てくるのがわかった。

 僕は、どうしてコンビニのトイレなどというおかしな場所からこの世界に来たのか。そして、この世界はなんなのか。なんのために存在しているのか。僕は、それを解明しなければならない。元の世界に戻れる保証はない。でも、このまま飢えて死ぬのを待つことなんて僕にはできやしない。

 ペダルに足をかけ、ゆっくりと回転させ始めた。

 僕は、まだまだいけるぞ。

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