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 僕はこの世界なんてなくなってしまえばいいと思った。

 大人になんてなりたくなかった。

 だって、そうだろう。大人になったら、毎日同じ時間に起きて、満員電車に乗って。経済社会という名の、刑罪社会で生きていかなければならないのだから。

 小さい頃から周りの人間と競わせて、僕らは成長してきている。でも、誰もが強い人間ではない。弱い人間だっているのだ。誰かが、それに気づいてくれないと、この国は、この世界は終わってしまう。ただただ疲弊していくだけだ。一部の人間を除いて……


 ー誰か、僕を違う世界に連れて行ってくれ……ー



 僕は、いつものようにベットから目をさます。

 スズメがちゅんちゅんと気持ちの良いと鳴き声で、気持ちの良い朝を演出してくれた。

 僕は、ベットの下に置いておいたスリッパを履いて部屋のドアを開けてリビングに向かった。

「おはよう」

 僕は、父さんと母さんに挨拶をした。父さんは難しそうな新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。母さんは、

目玉焼きを焼きながら味噌汁をかき混ぜていた。

「あなたの分は、テーブルの上に置いてあるからね」

 僕は、テーブルの上に置いてある目玉焼きとトーストの前の席に座った。

 トーストの上に目玉焼きをのせて、上から少量のしょうゆを垂らしサンドして口に入れた。醤油のしょっぱい味と目玉焼きの黄身の甘さが口の中に広上がった。

「そういえば、あんた学校は?」

 高校生である僕は学校にいかなければならない。

「もちろんあるよ。ゴールデンウィークとかだいぶ先だよ」

「父さんも休みが欲しいよ」

 父さんは、そういってため息をついた。大手の製造会社の経理部の経理課長を務める父は、毎日満員電車に揺られて都内に向かっている。いつも大変そうだなと思うと同時に、自分はそうはなりたくないなと思うのである。

「じゃ、そろそろいってくる」

 父さんは、読んでいた新聞を折りたたんで、テーブルの上に置いた。リビングのソファーのそばに置いてあった茶色の革の鞄を持って玄関に向かっていった。母さんは、温まったであろう味噌汁の鍋が置いてあるガスコンロのスイッチを切って、父さんが待つ玄関に向かっていった。

「いってらっしゃい」

 母さんがそう言って見送ると「いってきます」と言って父さんは会社へと向かっていった。


 普通の一家の光景である。僕は、そう思う。

 毎朝、朝食を母さんが作ってくれて、父さんは仕事に行く。時間が来れば僕は学校へと向かう。

 隠咲家の1日は、普通だ。

 僕は、トーストを食べ終えて、洗面所に行って歯を磨いた。歯ブラシに歯磨き粉を少量つけてゴシゴシと歯の中を磨いた。高校生にもなるとヒゲが生えてくる。僕は、シェービングクリームを顎に塗って、カミソリで丁寧に剃った。

「痛ッ」

 首の根元あたりから、赤い血がたらっと流れ落ちていた。

 僕はあまり、髭を剃るのは上手い方ではない。3日に1回くらいは、こうやって失敗している。

 僕は、シェービングクリームと一緒に血を流した。大抵、たらっと流れてから、すぐに血は止まる。つくづく人間という生き物はすごいなぁと、血を流すたびに感心するのである。


 少量のワックスを頭につけて、僕は、ヘアスタイルを無造作にセットした。

 僕は、手を洗って着替えをするために部屋に戻った。部屋のクローゼット開けて、綺麗にハンガーにかかっている制服(学ラン)とシャツを取り出し、身につけた。

 僕は学生鞄を手に持って、玄関に向かった。

「学校行ってくるよ」

 僕は大きな声で、リビングにいる母さんに声をかけた。そして、母さんが来るまでに、ローファーを靴べらをかまして履いた。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

 母さんは、エプロンで手を拭きながら僕を見送った。

「行ってきます」



 ここまでが隠咲良太郎の朝の登校シーンである。

 このくだりが大体、小学校から含めて10年間くらい行われている。日に日に大きくなっていく僕の姿を、母さんはどう思っているのだろうか。きっと、微笑ましく思っているに違いない。

 しかし、この10年間くりかえして行われてきた行事は今日で終わりを告げることになった。僕は、それを残念にも思ったけれど仕方のないことだと僕は我慢した。

 男の子は、冒険をしたい生き物だと思う。住んでいる場所の近くにある、山や竹やぶを探検と称して練り歩く。そして、本日の収穫を仲間と話し合って、成長していく。僕もあらかたそれらを経験して高校生になった。このまま、大学に進学して、就職活動のための勉強をする。本当にそれでいいのか。本当に。

 

 僕は、学校に行く前にコンビニに立ち寄った。今日は発売の、週刊漫画雑誌を見るためである。

 小学生の頃からずっと連載している漫画が、大抵巻頭を飾るこの漫画雑誌は、そろそろマンネリ化は否めない。しかし、それでも読んでしまう僕はまだまだ少年なのであろう。

 熱中して読んでいるとなぜか、尿意がこみ上げてきた。朝トイレにいったはずだったのだが。

 僕は、読んでいた漫画雑誌をもとに戻して、トイレに駆け込んだ。

 用を足して、一安心!と思い、トイレのドアを開けて出ようとしたが、ドアは開かなかった。そうかそうか、鍵を閉めっぱなしだったと思い、僕は鍵をもとの位置に戻して扉のロックを解除した。

 しかし、扉は開かなかった。僕は、何度も扉を横に移動しようとしたがビクともしなかった。

 5分くらいしてさすがにこれはやばい!と思い、大きな声を出した。

「誰か、誰かいませんか!」

 しかし、誰も僕の声に反応している気配がなかった。僕は、しかたなく、トイレの便器に腰掛けることにした。トイレの便器にズボンのまま座るのはなんだか違和感たっぷりだった。僕はなんとなくその違和感が嫌だったので、ズボンを下ろしてトイレの便座に座った。

 気がつけば、僕は眠ってしまっていた。何分、何時間経ったのかわからなかったが、僕はふと学校のことを思い出した。

「いけない、遅刻だ」

 僕は、あわててポケットにいれてある携帯電話を開いて、時間を確認した。

「8時15分」

 思いのほか時間は進んでいなかった。

 そして、僕はダメ下でトイレのドアを開けようと試みた。

「あれ、開いてる……」

 僕は、急いでおろしっぱなしのズボンを上げて、トイレを出た。しかし、そこで僕は驚きの光景を目にすることになる。店内の音響設備は少し壊れているのか、音が止まったり、しゃりしゃりと不気味な音が不規則に流れていた。週刊漫画も僕がさっきまで立ち読みしていたものではあるが、もう何年も前のものかのように古びていた。窓の外を見てみると、止まっている車や、錆び付いた車がいたるところに放置されていた。紫色の空は、世界の終わりのような雰囲気さえ醸し出している。

 僕は、何かの間違えだろうかと思い、もう一度携帯を開いた。時間は8時19分になっていたが、電波は圏外になっていた。いよいよ携帯が壊れたか(結構古かった)のかと思い、何度か縦に降ったが、やっぱり圏外であった。


 僕は、コンビニから外に出てみた。

 生暖かい風が、僕の体に当たった。辺りを見回してはみたが、人の気配がなかった。


 ここはいったい……

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