第8話
「弱いなお前」
膝を付いている氷麗にフェニックスが近寄る。
「……くっ」
正直は感想をいうフェニックスに対して氷麗は何も言えなかった。
完敗したこともあるのだが、今何を言っても負け犬の遠吠え。氷麗はフェニックスと戦闘をやる前に息巻いていたのだから。舐めるなと。
「ま、その姿もあれだしな」
フェニックスはそう言うと、自分の着ているパーカーを氷麗にかけ、素肌を隠すようにした。
「貴方がこうしたんじゃないですか……」
「まぁな」
「趣味ですか?」
「ちげーよ」
「あとこれ、小さくて意味ないんですけど」
「ぶふっ!」
「紅葉てめー!笑うんじゃねー!」
紅葉めがけて突進するフェニックスの傍らで、たんぽぽと猛がたった今見た模擬戦の感想を言い合っていた。
「やっぱりふーくんの圧勝だったねー」
「魔力に耐性の無い我々人間なら誰しもああなりますよ」
☆
「ふー。小さくなっても風呂は最高だなー」
久しぶりの学校に行き長い一日が終わったあとの風呂は、人間、悪魔問わず最高だ。
華美の屋敷に戻ったフェニックスは、帰ってそうそう大きな浴槽に身を沈めた。油断すると本気で沈んでしまう身体のため細心の注意は払うが。
「フー君入っていい?入るわよ?」
「入ってから言うなよ。聞く意味がねぇぞおい」
フェニックスの言う通り、聞いているのにも関わらず、華美は答えが返される前に浴室へと入って来た。
その表情を見る限り悪びれてる様子はない。
「いいじゃない。フー君1人だとシャンプーもできないのだし」
「残念だな!シャンプーハットがあれば1人でもいけるんだよ!」
「いい加減シャンプーハット無しで洗わないとね」
「……嫌だ。目に染みる」
「子供ね」
微笑みながら華美は、身体に何回かお湯をかけた後、フェニックスの隣で湯に浸かった。
華美が入る時に湯が溢れ、同時にフェニックスも若干溺れそうになるが、そこは華美がフェニックスを抱き寄せた。
「離せよ。余計熱くなるだろ」
「フー君にはこのお風呂大きいでしょ?」
「大きくなんかねぇよ。俺の家の風呂はこれよりもっとでかい」
フェニックスが元いた魔王城の浴室場は確かに華美の屋敷の風呂場とは比べ物にならない程に大きい。
だが、華美の屋敷の風呂場も一般家庭に比べればかなり大きい方なので、ちいさな今の身体ではフェニックスには大きすぎる。フェニックスは若干意地を張っていた。
「あとお前。無駄に乳デカいから背中に当たるんだよな」
「失礼ね。どれほどの男が私の胸を欲していると思っているの?」
「知らねーよ。それに俺は人間なんぞに欲情しねぇ」
「そうね。まだ子供だものね」
フェニックスに無駄にデカイど言われた腹いせとちょっとした悪戯心で、更に華美は自身の胸をフェニックスに押し当てた。
「俺は19だって言ってるだろ!」
「今はそうは見えないもの」
「くそっ!」
華美の悪戯はフェニックスが音を上げるまで続いた。
「どうだった?雪城さんとの模擬戦は」
浴槽から上がり、フェニックスの髪を洗いながら華美が聞く。
何回もフェニックスの髪の毛を洗っているおかげか、だいぶ華美の技術は素晴らしい。
フェニックスは気持ち良さそうに目を細めていた。
「どうもなにもねぇけどな。俺にとっては」
「そう……雪城さんの実力はどうかしら?」
聞きたい答えを貰えなかった華美は、質問を変えて再度フェニックスに聞く。
「人間にしてはまぁまぁって所だな。あのランスも完成されてたし。けどまぁ、その程度。お前やフェイステンにはまだまだだ」
「そう……私と同じ意見ね」
やっと聞きたかった答えを知れた華美。
意見も自分と一致していて安堵する。
「でもまぁ、伸びしろは確かにあるな。1年の中じゃダントツだろ」
「じゃあ生徒会に勧誘して良かったわ。あ、流すから目をつぶって」
「おう」
髪の毛についているシャンプーを流した後、さっと身体を洗い、再び浴槽に2人は戻った。
かなりリラックス状態のフェニックスは、今度は何も言わずに、華美に抱かれている。
「魔力の方はどうなの?少しとはいえ使ったのだから消耗はしてるでしょ?」
「消耗はしてるが、これくらい寝れば回復する」
「そうね。寝る子は育つって言うものね」
「ケンカ売ってるよな?おい」
「今日は今朝話した通りハンバーグよ。それもチーズinハンバーグ」
「話を逸らすなよ。ってちょっと待て。今なんて言った?」
「今日はチーズinハンバーグよ」
「ち、チーズinハンバーグ……だと!?」
「模擬戦とはいえ、頑張ったものねフー君は。ご褒美よ」
「よっしゃあぁぁぁ!!!!」
幼少期特有の高い声でフェニックスは叫んだ。
華美の屋敷は屋敷と言うだけあってそれなりに大きな為、大きな声を出しても近所迷惑にはならないのだが、もし仮に聞こえたとしても子供の声なら仕方ない。
近隣住民の方も子供の声なら大きな声でも許してくれるだろうと華美はひっそりと思った。