第7話
「んじゃ勝敗はどう決めよっかー?」
模擬戦開始時間となり、全員が演習室に入った所でたんぽぽが言い出した。
すでにフェニックスと氷麗は所定の位置に着いており、いつでも戦闘を開始できる状態だ。
「どっちかが死ぬまででいいんじゃないか?」
「悪魔みたいな答えだね。フーちゃん」
「実際魔王の息子なんだが……俺は」
「勝敗についは私が決めるわ」
極端すぎる回答を言ったフェニックスの代わりに華美が口を挟んだ。
見た目は小学生だが、これでもフェニックスは本人が言う通り魔王の息子だ。
人間の倫理観を若干は知っているとはいえ、やはり違う。
どちらかが死ぬまでという勝敗を決する方法も本気で答えたものだった。
それを分かってる上で華美は口を挟んだ。
フェニックスに決めさせるよりは華美自身が決めた方がいいと言うことで。
「負けを認めるか、どちらかが気絶。あるいは私がどちらかが戦闘不能と判断した場合でどうかしら?」
「まっ、いいんじゃねーの?」
「雪城さんはどう?」
「私もそれで構いません」
「なら決まりね」
華美の提案にフェニックス氷麗は合意した。
「あ、それとルールも必要よね。基本的に攻撃は何でもあり。武器の使用ももちろん可。ただし死に直結する攻撃はなし。あとはフー君?分かってるわね?」
「なんで俺にだけ言うんだよ」
「フェイス1位ですもの。当然でしょ?」
「舐められたものですね」
華美がフェニックスにしか忠告をしなかったことに対しても氷麗はプライドが許さなかった。
いくらなんでも舐めすぎだ。と。
「それじゃあ始めましょうか」
この模擬戦の審判を務める華美の声とともに、場に緊張が走る。
フェニックスは実にリラックスしたいつも通りの表情で、氷麗ら若干緊張した面持ちでその時を待つ。
呼吸音すら聞こえなくなった静寂の中で、華美が開始の合図をした。
「ーーー始め」
華美の開始の合図と共に、最初に動いたのは、氷麗だった。
開始の合図と共に何かを呟いていた氷麗の周りには、オーラではない水色に近い半透明の何かが周りを囲んでいた。
それはよく見ると小さな氷のつぶてで、徐々に1箇所に集まっていく。
「来てください!」
そう氷麗が叫ぶと氷でできた槍。
氷槍、アイススピアが出現した。
形状は槍と言うよりは、ランスに近く、氷で造られているその形状は実に美しかった。
「お。かっけーな」
その完成された形状にフェニックスも声を漏らす。
「行きますよ!氷道!」
氷麗がそう叫んだ瞬間、氷麗とフェニックスの間に氷で出できた道が出現した。
その氷道を氷麗はアイススケーターのように、いやそれ以上の速さで滑走すると、一気にフェニックスとの距離を
「……ぐっ……!?」
氷麗は距離を縮めることが出来なかった。
腹に衝撃を感じ、その衝撃で前進することが出来なくなったからだ。
氷麗を襲った衝撃。
それは、フェニックスの攻撃によるものだった。
右手を銃の形にしたフェニックスは、指先にビー玉くらいの大きさの魔力を集結させると、氷麗めがけて発射していた。
もちろん、魔力に耐性の無い氷麗は攻撃を受けた衝撃以上にダメージを負いその場に膝を付いた。
☆
氷麗とフェニックスの戦闘の勝敗が決する数秒前、たんぽぽが猛にまるで世間話をするかのように話しかけていた。
「なんか、思い出すよねー」
「何をですか?」
「去年のことだよー」
「去年?」
「ほら、生意気だったたーくんがはーちゃんにボコボコにされたことー」
「思い出させないで下さい」
「最近だとふーくんにもボコボコにされたよねー?」
「思い出させないで下さい!」
☆
「勝敗は決まったろ。降参しろ」
「ま、まだ……です…!」
「そうか。じゃあ……」
フェニックスはビー玉の形から刃状に魔力を集結し直すと、それを発射する。
無数の刃が氷麗を襲い、衣服を切り裂いた。
「エッチだねーフーちゃん!」
衣服が裂け、下着のみとなった氷麗の姿を紅葉が微笑みながら見る。
フェニックスは、紅葉の言葉をシカトし、尚も降参を促す。
「どうする?その残りも破かれたくないだろ?」
悪魔の微笑みで。
「……くっ…。降参します」
羞恥ではなく、実力の差を実感した氷麗は、ついに降参した。
結果は完敗。まるで何もできなかった。
「…………悪魔ですね」
そして、最後に衣服を破かれたことに関して呟いた。
「いやだから俺、魔王の息子……」