第4話
「今日というこの良き日に……」
生徒会長である華美の声が体育館中に響き渡る。
従来の体育館の形ではなく、毘沙門の体育館はアリーナのような造りをしており、近代的な構造になっている。
そのアリーナ型の体育館でも凛とした声はよく響き、凛と佇んでいるその姿は、異性ではなくても見とれる部分があるらしく、新入生のほとんどは男女とはずに華美に魅入ってしまっていた。
これがキッカケで現存する華美ファンクラブのファン人数がまた増えるかもしれない。
「やっぱり華美会長は凛としててカッコイイよねー!」
「そうか?」
「そうだよ!そりゃフーちゃんに対してはあれだけど、普段の華美会長はカッコイイんだよ?」
「へー」
体育館。いや、アリーナの3階、生徒会の者だけが入れる特別室では、紅葉とその紅葉に抱っこされるような形で、座っているフェニックスの姿があった。
司会進行や、その他もろもろの業務があるため、たんぽぽと猛はこの特別室には居ないのだが、特に何もすることが無い紅葉と、そもそも生徒会メンバーではないフェニックスはこの特別室で入学式を見学していた。
「つか、俺がこの部屋に居ていいのか?生徒会でも何でもないのに」
「いいんじゃない?生徒会でもないのに生徒会室にいつも居るくらいだし」
「あれは、華美が勝手に俺を連れていくからであってだな」
「おっ!次は噂の彼女の新入生代表挨拶みたいだよ!」
「聞けよ……俺一応お前らより歳上だからな?」
このフェニックスの発言からも分かるように、生徒会メンバーは全員フェニックスの本当の年齢や、魔王の息子だと言う事を知っている。
しかし、紅葉の対応を見てもらって分かるように、皆大してフェニックスを魔王の息子として見ているわけではなく、見たまんまの小学1年生としてフェニックスを扱っている。いや、これには少し語弊が生じる。フェニックスを見たまんまの小学1年生として扱っているのは紅葉だけだ。
フェニックスにとってはそれが逆にいい迷惑なのだが。
「えーだってフーちゃんが私より歳上だなんて今のこの姿じゃ見えないもんー」
「てんめっこの……!舐めてやがるぅう...!?」
「あーフーちゃんのほっぺ柔らかい!」
「ほはへ!(離せ!)」
フェニックスとや紅葉がこうしてじゃれている間にも式は進行していて、ついに新入生代表挨拶となった。
司会進行を務める猛の言葉を聞いてから、歯切れの良い挨拶をした新入生代表は、背筋をまっすぐ伸ばしながらステージまで上がると、周りがざわめき出す。
それも当然と言えば当然だろう。
華美やたんぽぽ。はたまた紅葉と同じ族種。
新入生代表の彼女が美少女なのだから。
ツインテールで纏めている髪は華美の黒髪同様艶めいていて、たんぽぽや紅葉みたいな明るい髪とは違い漆黒。制服が白のおかげかよく映えている。鼻筋も通っていて目も切れ長で美しい。
普通に新入生代表の彼女は美少女だった。
彼女がステージに上がっただけでざわめき出していた周りも、いつの間にか落ち着き静寂が訪れていた。
静寂の中で、彼女は口を開く。
「ただ今ご紹介に上がりました。新入生代表の雪城氷麗です」
彼女がそう最初に言っただけで、おぉーと声があちこちから漏れていた。
ちなみに紅葉もおぉーと声を漏らしていた。
氷麗が新入生代表挨拶を述べている最中、唐突に紅葉が口を開いた。
「フーちゃん」
「んぅ?」
「彼女。どう思う?」
「んぅーしょうだぁにゃー。とりあえずいい加減ほっぺから離せって...離したか」
「いやだって……これ以上やると萌え死んじゃう」
「……。俺が見るに、この人間たちの中じゃ頭一つは出てるな」
「あーやっぱりそうなんだ」
「それくらい。お前も分かるだろ?」
「まぁ……ね?一応、フェイステンには入ってるからね」
フェイステンと言うのは、フェイス。つまり、学校の顔という意味。
テンとは、上位10人という意味。
この二つを合わせたのがフェイステンとなる。
フェイステンには学力、そして、武力が優れていればなれ、あらゆる待遇が施される。稀に、武力だけでもなれる者はいるがそれは、よっぽどの強さがなければなれない。
ちなみに、現生徒会メンバーは全員フェイステンにランクインしている。
「まぁ、あのステージにいる女以外にもちらほらといいセンスを持ったやつらは居るが……どれも俺の敵じゃねーな」
「もうードヤってるフーちゃん可愛いすぎ!」
「では最後となりますが、私はこの毘沙門高校は通過点としか考えていません。なぜなら私には目標があるからです」
さっきとは違う、別のざわめきが各所で起きていた。しかし、華美を始めとする生徒会メンバーは微動打にしておらず、何事も無いように耳を傾けていた。
「まず手始めに私は、毘沙門のフェイステン。1位になろうと思います」
「だってよ?フーちゃん?」
静かに聞いていた紅葉が、そう聞いてくる。
「へー。面白い」