第1話
目を開けると、ここ一ヶ月で慣れ親しんだ天井が目に映る。
そして、ここ一ヶ月で慣れ親しんでしまった重みもあった。
「重い……」
たまらず声が出てしまう。
しかし、その声は一ヶ月経った今でも聴きなれることはなく、未だ違和感のある声だった。
「おはよう。フー君」
「フー君言うな。俺の名前はフェニックスだ」
フェニックスが顔を下に向けると、ここ一ヶ月。毎日のようにフェニックスを起こしに来る家の主。舞桜華美の姿があった。
一言で言って美少女と言ってもいいほどの美貌の持ち主の華美は、長い黒髪をかき分けると、フェニックスに近づきほっぺに軽くキスをした。
「……何をするんだ?何を」
「フー君ったらふてくされて。この私の口づけをどれほどの男子が欲していると思うの?」
「知らねーよ。人間のことなんか。俺は魔王……の息子だぞ?」
「でも今は私の弟……そうでしょ?」
「弟でもねーって言ってんだろ?住まいを貸してくれたことには感謝してるがお前の弟になった覚えなんかねぇ」
「もうフー君ったら。お前だなんてダメって言ったではずよ?ちゃんと華美お姉ちゃんって言わないとって教えたはずでしょ?」
「うるせーよ。いいからどけよ華美」
「まったく、照れ屋なんだから。まぁ呼び捨てでも反抗期って感じでいいけど」
やれやれと言った表情で華美はフェニックスの身体から離れ、乱れていた衣服を整えた。
「じゃあフー君お風呂に入りましょうか」
「は?」
「だからお風呂に入りましょう」
「聞いてるよ。俺が疑問に思ってるのは、なんで俺が華美と入らなきゃいけねーのかって事だよ」
「それはもちろん裸の付き合いも大事だからよ」
「断る」
「毎回毎回そうなんだから。もう何回も入ってるんだからいい加減素直にに入りなさいよ」
「それはお前が無理矢理に俺を連れていくからだろ?俺から従った覚えはねぇ」
「しょうがないわね。分かったわ今日のお夕飯シェフに頼んでハンバーグにしてもらうわ。それならどう?」
「華美お前……ずりぃぞ……。ハンバーグを交渉の材料にするなんてよ」
「私は使えるものは何でも使うのよ。で、どうするの?」
「……くっ…。しょうがねぇ……。入ってやるよ……」
「素直でよろしい。じゃあ先に行ってるからすぐに来なさいよ?そのボサボサの頭なんとかしなくちゃいけないんだから」
「わーったよ。つかよ。俺はこう見えて19
だぞ?お前の1個上だ。分かってるのか?」
「それは貴方から説明を受けて知ってるわ。1回だけだけどその姿も見たことがあるのだし。けど、今の貴方はどう見ても19の歳上には見えないもの。だから大丈夫よ」
「何が大丈夫なのか俺にはさっぱり分からん」
華美が部屋から立ち去ると、半分起き上がっていた身体をフェニックスは再びベットに預け、仰向けにした。
「くそ。ハンバーグを使うとは華美のやつ汚いにも程があるぞ」
初めてハンバーグを口にしてからと言うもの、フェニックスはすっかりハンバーグが好物になっていた。
そのハンバーグを交渉の材料にされ、なおかつ今日の夕食に出るというのなら折れるしかなかった。
☆
「「おはようございますフー様」」
部屋から出て風呂場へと向かう途中、メイドとすれ違う度に挨拶をされる。
こう言った挨拶はもともとサキュバスもいたおかげで慣れているのだが、いかんせんその呼び名には慣れてなかった。
(フー様って誰だよ。俺はフェニックスだっての)
メイド達にそう呼ばせているのは華美だとは知ってはいるが、華美にそれを言ったところで、華美が辞めさせるはずもないことを知っているため、フェニックスは何も言わない事にしていた。
脱衣場にたどり着くと、そこは銭湯と見間違えるほどの広さの脱衣場がある。
ロッカータイプではなく、昔ながらのカゴ式で、番号こそ振り分けられてはいないが、カゴがたくさん配置されている為、毎回フェニックスはどれに衣服を入れるかを迷っていた。
今回フェニックスは鏡に近いカゴに衣服を入れる事にした。
別にどのカゴに入れてもメイドが回収するため関係無いのだが、どれがメイドにとって効率がいいのかを考えると迷ってしまう。
「しっかし、ずいぶん小さいな。俺の身体」
衣服をすべて脱ぎった頃、ふと鏡に映る自分の姿を見てフェニックスは呟いた。
元々のフェニックスの身長は180超えで、人間にしては大きな方だったのだが、今現在鏡に映っているフェニックスの身体はどう見ても小学一年生の身体にしか見えなかった。
「おまけに。すげー声たけぇし」