第六話 飾り
なんとか完成。
「その手に持ってるもんは飾りか!?このままじゃ、大切な男共々野垂れ死ぬことになるぞ!」
「…私は、私の手で以って、自分の信じるものを、自分の大切なものを守ります。
しかし、正直この数は私一人では厳しいです。
先ほどまで、ユウ君と死闘を演じていたあなたに頼むのは筋違いかもしれません。
ですが、恥を承知で頼みます。
――私たちを助けて!!」
芽吹きかけている、とてつもなく眩しい芽。
それがここで儚く散ってしまうのは、あまりにも忍びない…
そう考えたジェイガンは、マナに発破をかけ、見事、立ち直らせることに成功する。
――昨日の敵は今日の味方――
マナとジェイガンは、協力して死地を乗り越える――――
フィリア帝国史記 第一章『英雄、始動。』第九節より。
「ちょっとユウ君!?
――返事してよ!!」
意識を失ったユウにしがみつくマナ。
しかし敵のど真ん中でそんなことをしたらどうなるか。
特に、ユウは彼らの仇敵だ。
彼らは瞳を狂気に彩らせてマナを包囲する。
「おい、女はどうすんだよ。」
「邪魔だし、一緒にヤッちまおうぜ!」
「そうだなぁ!」
各々武器を持ち、じわじわと包囲を狭めていく。
一人がマナの髪に触れようとしたとき――
――ブゥン!
凄まじい風音と共に包囲の一角が崩される。
その空いた空間に悠然と歩いていくる大男がいた。
「ジェイガン殿!いったい何をなさるのです!?」
「どういうつもりか…返答によっては、貴方の命はありませんぞ!」
それを聞いたジェイガン。フンと鼻を鳴らし、口を開く。
――但し、マナへ向けて。
「なあ、嬢ちゃん。ユウは本当に大した男だぞ?」
先ほどまで兵ににじり寄られてもビクともせずユウを抱きかかえていたマナが、初めてピクリと反応する。
「単刀直入に言うぞ。坊主――ユウと言ったか。
そいつは絶対に死なない。」
マナが凄い勢いで顔をあげ、ジェイガンを見つめる。
その顔には、希望の色が見え始めている。
「坊主、土壇場で身を引いて、衝撃を分散させやがった。
おそらくだが、何の後遺症もなく目が覚めるだろうよ。」
――あと一歩か。
自分の顔を見つめているマナの表情を確認したジェイガンは、最後の一言をかける。
「嬢ちゃん。お前が守ってやらなくてどうするんだ!
その手に持っている細いモンは飾りか!?
このままじゃ、大切な男共々、ここで野垂れ死ぬことになるぞ!!」
――ザッ!
腕の中にあった少年を優しく地面に置き、立ち上がる。
ほっそりとした二本の足で地面にしっかりと立ち、自らの得物であるレイピアをアリアンス残兵に向ける。
その瞳には、意思の炎が燃え上がっている。
先ほどまでの絶望感漂う姿とは比べるべくもない。
ジェイガンでさえも簡単には倒せないであろう、本物の武人がそこにいた。
――傍目に見ても明確なほど真っ赤に染まった顔は、どこからどうみても年頃の少女の物であったが――
「――ジェイガンさん。」
マナが口を開く。
「ああ。」
「私は、ユウ君を守ります。
私は、私の手で以って、自分の信じるものを、自分の大切なものを守ります。
しかし、正直この数は私一人では厳しいです。
先ほどまで、ユウ君と死闘を演じていたあなたに頼むのは筋違いかもしれません。
ですが、恥を承知で頼みます。」
ジェイガンを真摯に見つめるマナ。
「――私たちを、助けてください!!」
その言葉は、短いものであったが、だからこそ、そこにはマナの想いが強くこめられていた。
ジェイガンは太刀を肩に担ぎ直し、口を開く。
「フン。言われるまでもないわ!」
双方への返事の意味も兼ねて、太刀で前方を薙ぎ払う。
薙ぎ払われたアリアンス兵は、一切の抵抗をできずに胴を分断されるか吹き飛ばされる。
――やはり、温いな。
ジェイガンの後方でも、何人もの兵が吹っ飛ばされる。
彼と背中合わせに立ち、レイピアを振るうマナは、ジェイガンのような広範囲への攻撃こそできないものの、襲い来るものを確実にいなし、一人ずつ、確実に撃退していく。
――やはり、この嬢もなかなかやりおるな…
さすがに負けることはないだろうが、苦戦はするだろう…
ジェイガンはそう考え、口元を綻ばせた。
すぐ下の地面でで丁重に寝かされている少年を見て、さらにその笑みは深まる。
――俺の知らないうちに、芽吹き始めている種があるということか。
――面白い。
――ならば、その眼を見守っていくのも、先駆者である俺たちの役目なのだろうか…
――俺もそろそろ、身を落ち着ける場所を決めても良いかもしれんな…
あたりは完全に寝静まり、真っ暗となっている。
その真っ暗なテントの中、一人の少年が寝台に寝かされている。
そこへ静かにずっとよりそっている、一つの影があった。
「ユウ君…」
初めての戦争が終わって丸々二日が経過した。
戦争自体は驚くほどあっさりとおわり、結果はこちらの大勝。
戦後処理もおわり、春来の人々に大歓迎されたのがちょうど一日前。
友軍の被害は信じられないほど少なく、重症者さえいない。
――そう、一人を除いては…
「君の奮闘のおかげで、誰も死ななかったんだよ。
ジェイガンさんも心を開いてくれたみたいで、あれからずっとここにいるし…
でも、なんで、なんで君が目を覚まさないんだよ!
みんな、心配してるよ?
いい加減、目を覚ましてよ…」
脈があるのは確認している。
実際、ずっと眠り続けているだけで、息もしているし、命に別状はないだろう。
ひょっとしたら、あと数分もしたら何事もなく起き上がるかもしれない。
それでも、彼女は怖かった。
大切な人が、もう二度と目を覚まさないかもしれないことが、物凄く怖かったのだ…
皆がすっかり寝静まった真夜中。
少女が一人、すすり泣く声があたりにずっと響いていた――
次回は、作者の豆腐メンタルをズタズタに切り裂くシーンが入ります(予定)
描写力のなさが顕著に現れるかもしれませんが、どうかご了承ください。