第四話 一点突破!
な、なんとか仕上がったなり。
今日からは一日一本となりまする。
毎日18時に投稿しますのでよろしくお願いします。
――ヒヒィン!
鋭く嘶き跳び上がる。
だが、それだけでは終わらない。
彼はその上から更に跳躍した。
その向かう先には、背を向けて逃げるアリアンス。
彼は弾丸のようにその背中に迫り、切り捨てた。
・自らも最前線で刀を振るい、150の兵で5000の大軍を撃退。
・その上、敵の大将、副将を討ち取った。
――これが、彼の初の武功であり、彼の名が初めて世に轟いた瞬間でもあった――
フィリア帝国史記 第一章『英雄、始動。』第三節より
「タクヤ様、賊軍が見えました。」
指揮下にある五十人と共に、街道に大穴を掘ったタクヤは、副官の声に作業を止め,前を見据える。
その視線の先に映ったのは、街道にずらりと並ぶ騎馬部隊。
その数約400。
ふと空を見上げ、太陽の位置を確認したタクヤは呟く。
「う~む。流石はロウリィちゃん。
軍の規模どころか、時間までピッタリじゃないか。」
マリアが頷く。
「ええ。
手筈通り、弓を構えさせています。いつでも斉射可能です。」
タクヤが指示するまでもなく、既にそれを部隊に実行させているマリア。
それは、彼女が副官として一定以上の実力を持っていることの証明になる。
「ん~。みんな!分かってると思うが、改めて確認すっぞ?指示は単純明快、一つだけ。
――――初段は派手に外せ。」
タクヤがそういうと、どっと笑いが起こる。
「それは難しい注文だぜ大将!」
「弓なんて、外すほうが難しいのだけど?」
軽口をたたきあう彼らであったが、見事なほどに下手くそを演じてみせたタクヤ隊の50名。
それをみた結果、完全に油断し、闇雲な突撃を開始する騎馬隊。
ヒュン!
放たれた二射目は、寸分狂わず急所に突き刺さっていく。
勿論、それに浮かれるような彼らではない。
三射目、四射目…
延べ250本もの矢が放たれたが、地面に落ちている矢は一つもなかった。
数の減少に気付くことなく、猛然と突撃を続ける騎馬隊。
数こそ半分以下には減ったものの、あと数メートルほどで激突する――
「「「ウオオオオオオオオ!」」」
雄たけびをあげ、さらに加速する騎馬隊。
――しかし、その騎馬隊が彼らに到達することはなかった。
事前に用意していた大穴が、ここで機能する。
闇雲に全速力で突進している馬が急に止まれるはずもない。
次々と宙に投げ出されて、地面に打ち付けられていく。
騎馬隊が全滅するまで、五分とかからなかった――
「よし!これで敵の騎馬隊は始末したな!」
「ええ。一先ずは任務完了ですわ。」
そういいつつも、タクヤに彼の愛用の槍を差し出している辺り、流石副官と言ったところか。
タクヤはその槍を笑顔で受け取り、弓をその場において一息ついている己の部隊員たちに声をかける。
「おい!俺はこれより穴を迂回。取り残された敵歩兵を急襲する!
元気な奴だけ馬に乗って着いてこい!」
言うが早いか、颯爽と陣を飛び出していくタクヤ。
「待ってました大将!」
「俺たちの本領発揮はこれからってな!」
「っしゃあ!行くぞてめえらぁ!」
「お前が仕切んじゃねえよ!」
和気藹々(?)と自らの槍を取り、馬に跨る部下を、マリアは微笑みながら見つめていた。
「ふふっ。みなさん、タクヤ様のようになりましたわね。
さあ、私も行きますわよ!」
全員が出たのを確認した彼女は、空に二射、立て続けに弓を撃った後、自身も槍を手に取り駆け出した。
「ユウ君!矢!」
タクヤたちがいるあたりで、矢が空高く放たれた。
あれは、敵を油断させる目的のほか、俺たちへの合図にもなっている。
「よし!皆待たせたな!
行くぞ!」
「「「オオオオ!!」」」
気合十分!
各々刀を持ち、丘を駆け下りる。
丘を降りきったところで、空高く放たれる二本の矢を確認した。
――あっちはうまくやったようだな。
「「「ウオオオオオオ!!」」」
雄たけびをあげ、突撃するユウ隊。
突然の背後からの急襲に慌てふためき、碌な構えも取れなかったベクター軍。
――両者が激突した。
あわてて剣を抜く敵兵を、すれ違いざまに切り捨てていく。
こちらには騎兵特有の勢いがあるうえに、相手は備えをとれていない。
「足を止めたら囲まれるぞ!一気に進めェ!」
しばらく突き進むと、やたらと豪華に装飾がなされた馬車が目に入った。
――アリアンスの馬車だ。
あいつさえやれば、決着はつくだろう。
しかし、ここから馬車へは結構な距離がある。
敵も少しずつ落ち着きを取り戻してきたやつもいるようで、徐々に囲まれだしている。
速度が命の騎馬隊にとって、敵中で包囲を固められることは、馬を殺すことになり、それは即全滅を意味する。
「指揮官を討つ!決して速度を緩めるな!」
そう叫ぶが、次第に敵も体勢を整え初め、少しずつだが勢いを殺されてきている。
マズイ!このままじゃ全滅する!
と、その時、馬車から飛び降りて一目散に逃げ出す二つの人影を発見した。
遠目に見ても明らかなほど豪華な衣装を身にまとっている。
――やるしかないッ!
「すまない、頼む!」
俺は愛馬の首をそっとなでる。
それだけで、二年の時を共にした相棒には伝わった。
ヒヒィン!と鋭く嘶き、強引に速度を上げる。
俺も死に物狂いで刀を振り回し、立ちふさがるものを吹き飛ばす。
「ユウ君!?」
マナのあわてたような声が聞こえる。
――すまない、マナ。こうするしかないんだッ!
味方を置き去りにし、更に敵陣深くへと切り込む。
一人と一頭の突出など、すぐに囲まれる。
一瞬上がった速度も、すぐに殺される。
絶体絶命かと思われた。
――まだだ!まだ終わっていないッ!
「跳べェェ!」
俺が叫んだのと同時に、当たりに力強い嘶きが響き渡った。
刹那。
重力に逆らっているような感覚。
跳んだのだ。
呆気にとられる敵兵を置き去りにして、高度を上げて前に突き進む。
だが、これでもアリアンスにはとどきそうにない。
――もういっちょォォ!!
俺は最高点に到達した相棒の鞍の上に立ち上がり、
「――――セイッ!」
――もう一度、跳んだ。
―――さらに高く、勢いよく前方へと跳ぶ。
――――俺は弧を描くようにして落下していき、
―――――目の前に迫った、唯一自分に向けられている背中に向かって…
ザンッ
――――――刀を振った。
そしてそのまま、返す刀で横の副官も切り捨てる。
「おい!大将がやられた!」
「もう、ダメだ!」
「逃げろォ!」
「お、おれは降伏するぞ!」
もともと思わぬ奇襲を受けて辟易していた彼らは、総大将と副官の死をみると、たちまち戦意を喪失した。
――しかし、
その中で唯一、むしろ戦意を高揚させる部隊があった。
アリアンスの執事らしき人を始めとした、側近部隊。
彼らはあるじを目の前で殺されたことに怒りを爆発させ、全滅覚悟で最大の主犯――ユウだ――に襲い掛かる。
対するこちらは、無理な跳躍から着地したところで、完全に体勢が崩れている。
あっという間に包囲を完成され、一斉に襲い掛かられる。
「――ユウ君!!」
マナの悲痛な叫び声があたりに響き渡った――
誤字修正 2015 0714