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第一話 挙兵演説~~英雄譚の始まり~~

本編開始です! (本日三話目)

『数の差がなんだ!

 敵は賊軍。

 たとえ10倍の兵力が敵にあろうとも、我らが賊ごときに敗れるなどあり得ない!

 我らの信念を見失うな!

 我らの手で以って国を救うのだ!

 皆、私に続け!』

 一つの田舎町に響いた、一人の若者の演説。

 それは、その場に居合わせた多くの兵の心を打った。

 その若者こそ、ユウ。

 救国の第一人者で、救国の刀神と呼ばれた男。

 そしてこれはいうなれば、彼の英雄譚。その序曲である。

 フィリア帝国史記第一章 『英雄、始動』第一節より。

























 718年6月8日。

 俺たちがこの世界に転移してきてから、早二年。

 俺の目の前には、総勢150名の若者が並んでいる。

 二年前、ダリウスの案内でここ春風に避難して以来、みんな必死に訓練を重ねてきた。

 今日がついに出陣のときだ。


 二年間の訓練は伊達じゃない。

 一糸乱れぬ動きができるうえに、個人個人の能力もすさまじく高い。

 二、三倍の軍にだって真っ向から張り合うことができるだろう。


 俺は皆の視線がこちらに向いているのを確認して口を開く。

「つい、先ほど、我らが故郷春来へ向けて、フィリア王国軍が西春を発ったという情報が入った。

 王国軍は5000の大軍を以って春来に総攻撃をかけようとしている。

 迎え撃つ春来側には、自警団などをふくめても、1000程度しかいない。

 これでは、いくらダリウス卿やヒカル卿が優れていようとも、籠城しか選択肢はなく、いずれ滅ぼされてしまうだろう。


 良いか。

 逆賊ベクターは、国王アディオスさまと皇女キイ様、王妃サリィ様を殺害し、国を奪った。

 我らは、その逆賊の軍と戦うのだ。


 確かに、敵の数は10倍を超える。

 だが、所詮は賊軍。 練度は低い。

 そんな奴らに我らが敗れるようなことがあるのか。

 ――否、無い!


 愛国、救国の念を掲げ、二年間血のにじむような努力を続けてきたのだ。

 私腹を肥やすことしか考えていない無能が率いる軍に負けるはずがないのだ!


 数の差に臆するな!


 我らの信念を見失うな!


 我らの手で以って国を救うのだ!」


「「「「ウオオオオオオオオオオオ!!」」」」


 俺は深くうなずき、


「よし!皆私に続け!」

 踵を返し、街を出る。

 その両隣にヤグモとタクヤが並び、声をかけてくる。


「良い演説だったんじゃないか?」


「どれくらい練習したんだ?んん?」

 タクヤは妙なほどニヤニヤしつつ俺の脇腹を肘でつついてくる。


「フン。あれくらいどうとでもなるさ。」

 俺は鼻を鳴らし、歩みを早める。

 それをみたヤグモは微笑して離れていく。

 タクヤはしばらく隣でニヤニヤしていたが、ふと真面目な表情を作ると、


「国が掛っているんだ。しっかりやろうぜ」

 一言言いのこし去って行った。


「私は知ってるよ?」

 唐突に後ろから声を掛けられ、振り向く。


 声の主はマナ。

 整った顔を持ち、髪は肩まで伸ばしている。

 まあ、いうなれば美少女――

「ユウ君が毎晩遅くまで部屋で練習してたこと。」


 なっ!?

 なんでそれを!?


 動揺を押し隠すため、前を向き、歩行を早める。


「ふふ。だって、毎日壁越しに聞こえていたもん。

 あれだけ大声出してたらそりゃあわかるよ。

 多分、タクヤ君も知ってたんじゃないかな?」


 成程。だから不自然なほどに顔がにやけていたのか。

 よし。とりあえず後でぶん殴ろう。


「――ユウ君。」

 不意に声のトーンが落ちたので、思わず足を止め振り返る。


「ぜったい、大丈夫だよね?」


――っ。


 思わず凝視したマナの顔には、先ほどまでの快活な表情と打って変わって、悲壮感までにじみ出ている。


「大丈夫。俺たちは勝てるさ。

 死ぬのはこの二年間で飽きただろ?」

 なるべく自然な笑顔を作り、軽口も交えて笑いかける。


「ふふっ。そうだね。

 心配し過ぎだったかな。ごめんね?」


 笑顔に戻った。


 思わず、ほっと息を吐く。

 俺は再び前を向き、足を進める。

 先ほどよりも足取りは重いが、努めて自然にふるまう。


 俺とマナの後ろには、直属の兵60がいる。

 彼らにも、そしてマナにも、決して悟らせてはいけない。


 指揮官が弱みをみせたら、全軍の指揮にかかわるから…


 相手は自軍の10倍以上。

 ほぼまちがいなく、こちらにも死傷者は出るだろう。


 ふと後ろを見ると、マナは笑顔を振りまき、後ろに続く皆を鼓舞していた。


 …はぁ。

 誰よりも戦を怖がってるのは、俺なのかもしれないな…



 俺は内心でそう零しつつ、厩へと足を進めた。





  

指摘により誤字を修正しました。 20150710

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