私の親友は恋してる
私の親友のマリには好きな男の子がいる。だけどそいつはかなり鈍く、マリのアプローチにも気付いていないらしい。
だから今日も今日とてマリの努力は続く。
「今日はラブレター作戦です! これなら彼も私の想いに気付いてくれる事間違い無し!」
「マリさんや。それは二つ前ぐらいに失敗した作戦じゃないかね?」
私がそう指摘すると、彼女は「ちっちっち」と指を揺らして見せた。どうやら、何か考えがあるらしい。それにしても癇に障る仕種だ。
「もっと大胆に分かり易く、好意を直球に記したラブレターです!」
それはもう直接、告るほうが無難じゃないかな?
「ふふふ、見ます? 見ますか? 見ますよね!?」
マリは興奮冷めやらぬといった表情で私に迫る。
正直、ウザい。
「マリさんや。頼むから落ち着いてくだせー」
あと顔が近い。
鬱陶しい。
「あ、ごめんなさい。それで、これがそのラブレターです」
「開けて良い?」
「どぞどぞ」
「…………――っ!?」
私はその便箋を受け取り、マリの許可も降りた所で中身も取り出した。その紙を広げ、内容を確かめようとして、思わず絶句してしまう。
「こ、これ……」
「ふふ、どうです? これならあの人も私の気持ちに気付いてくれるはずです! いえ、ここまでするのですから、気付かれぬ訳がないのです!」
彼女はそう言って、拳を力強く握り込んで見せるが、私は何というか、その……かなりドン引きしていた。
いや、だってさこの手紙。
「あのね、マリちゃん」
「これでもう私は――はい?」
「この手紙。いや、これはこんな風にして使う物じゃないんだよ? もっと、こう、ほら? 段取りというものがあるでしょ? プロポーズするとかさ?」
プロポーズと発した瞬間、マリの顔が夕焼けのように赤く染め上がった。私にはもう彼女の恥ずかしさに対する基準が分からなくなっていた。
だってさこれ、プロポーズを軽くすっ飛ばしてるんだもの。
いや、ある意味じゃ、これもある種のプロポーズみたいなものだろうけど。
「わ、私にそんな大胆な事が出来る訳ないじゃないですか!?」
「うん、知ってるよ。知ってるけど、もう一度自分のやろうとしている事を見つめなおしてみようか? 君はもう少し自分の行動を深く考え直すべきだと思う」
「え? はい。そこまで言うなら」
「よろしい。じゃあ、ちなみにこれは何かな?」
「ラブレターです!」
「うん、違うね。これは婚姻届だね」
私はそう言って、ラブレターもとい婚姻届をたたみ始めた。いつまでも持っている必要はないので、とりあえず元の便箋に仕舞おうとしているのだ。そしてそれを受け取ったマリは小さく唇を動かす。
「そうとも言います」
「そうとしか言いません」
私は即座にそう返し、ラブレターもとい婚姻届をマリに手渡した。彼女はそれを受け取り、手持ちの鞄に仕舞い込んだ。
「それで、その作戦は却下するとして」
「え? せっかく用意したのに」
「そうかもしれないけど、それを受け取る側の気持ちを考えて」
ある日、自分宛てに見知らぬ手紙が。それを手に取り、中身を確かめてみると、何と中身は婚姻届でした……。
なんて嫌すぎるでしょうが。
「というか、この生年月日と住所はともかく、判子はどこから用意したの? あ、もしかして百円ショップで買ったとか? でも、それじゃあ――」
「あ、違います。彼のお家から持って来たんです」
マリはそう言って、懐から一つの印鑑を取り出して見せた。
おい。
「それって、持って来て良い物じゃないと思うんだ私」
「はい。だから、内緒ですよ? えへへ」
「…………」
私は「てへっ」と言いながら、可愛らしく舌を出す親友に犯罪者としての何かを垣間見た気がした。
「ちなみに合い鍵も用意したので、いつでも侵入可能です」
「うわー……」
私はこのまま親友を応援するよりも更生させるべきかもしれないと思った。