免許皆伝
「もし、御子さんが八つ当たりをしてきたならそれを黙って受け止めてあげてください。一番つらい思いをしてるのは八つ当たりをしている子自身なんですから。」
――by,とある教師
「徒手格闘の免許皆伝を言い渡す。」
「はい、ありがとうござます。」
師範が床に転がりながらあまねに伝える。
そのあごには赤い打撃痕がある。
「はあ、あまねも強くなったな。
この道場に来たときは少し、いやかなり運動神経の良いだけの少女であったというのに。」
師範は昔を思い出すように言った。
少しからかなり運動神経のいいと言い換えたのは、
女の子であるのに同年代よりか上の男子にも入ったばかりなのに勝っていたからだ。
ちなみにその男の子は二年この道場に通っていたのだが、
自分より小さな女の子に負けたことがショックでその後がむしゃらに稽古に打ち込むも、
現在もあまねには勝てていないという悲しい状況にある。(←一話前の人)
師範が正拳突きを放った時、
崩れていたと思ったあまねの体制が戻り、左手で受け流し、
そのまま左の肘打ちを顎にくらわしたのだ。
師範はよけようとしたが、それまでの疲れでよけきれず、
脳震盪になり戦闘不能になったのだ。
くしくも一話前の門下生と同じ結果になった。
この師範は今でも異種格闘戦のチャンプを守っている。
つまりこの時あまねは、徒手格闘において世界最強になったのだ。
「それで、試合運びが乱れていた理由は話してもらえるんじゃろ。」
ただ、師範はそのことにはあんまりこだわりがないようだ。
「ええ、話しますよ。
今日はですね、友人が死ぬ日なんです。」
「どういうことじゃ?」
あまねが運命論でも出すのかと師範は戸惑う。
「ああ、正確には友人の失踪宣告の日なんです。」
「そうか、そうだったのか。」
師範はそれなら心が乱れ、試合運びが乱れていたというのも納得したようだ。
でもあまねの語りはそこで終わらない。
「それで師範と手合わせを望んだのはですね、
最後に一度ぐらい本気で戦ってみたかったのもあるんですが、
一番の理由は八つ当たりっていうところですね。」
「一度本気で戦ってみたかった?
おぬしはいつも本気で戦っておったじゃろう。」
師範は八つ当たりというところは置いといて疑問を口にする。
「そうですね。私は本気でしたよ。」
とあまねはさっきとは矛盾したことを言う。
師範は判断に迷ったようだが結局聞かないことにした。
師範といえども踏み込んでいい領域といけない領域がある。
それを師範は年の功で判断したのだろう。
「それでは師範、理由も話しましたしこれで失礼します。」
とあまねは去ってい・・・・・
「待て」
去って行こうとしたあまねに待ったがかかる。
「はいなんでしょうか?」
まだ用事があるのかとあまねは聞く。
「わしを母屋に連れて行ってくれ。
老体にはさっきの手合わせはきつかったわい。」
普通の手合わせではこれだけ体力を使わないのだが、
あまねが攻撃の手を休めせなかったためもう師範は動くのも億劫だった。
「ふふ、はいわかりました。」
あまねが笑いながら了承すると師範は気まずそうにしていた。
最後の体勢が崩れたというのはあまねがわざとそうしたものです。
何処を狙ってるかわかるんですから最終的には相手の攻撃を受け流して攻撃を入れればいいのですが、
とどめとして放たれた攻撃以外では受け流したとしても致命的な隙にならないため、わざと体勢を崩して師範の攻撃を誘ったんです。
正直師範はかなりのものです。
天草流古武術には合気道の要素も取り入れてるので攻撃が読まれてる状態ではその力の方向を利用して簡単に体勢を崩せるのですが師範には効きそうになかったからこんなまどろっこしいことをあまねはしたのです。
本気で戦ってみたいというのは相手の心の声が聞こえてくる状態での戦闘です。
師範との手合わせのように相手のしようとしている事の先読みみたいなことができます。
あと、あまねは試合が終わってすぐに心のカギを閉めてます。
八つ当たりという言葉を師範が気にかけたのは八つ当たりというのは基本的に自分より弱い相手にするものだからです。
それから申し訳ありません。
二話目の「全てが腐りゆく世界で」であまねと茜が高校三年生と書いていたのですが、中学三年生に訂正いたしました。
後からこうやって変えるのはダメだと思いますが、
お話の進行上の理由でかえさせていただきました。