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めそめそさん  作者: きつねさん
あまね
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あまねと師範の手合わせ

「武術の神髄?そんなもんないよ。あるとしたら武術に対する真摯な心だな。」

                          ――by,とある格闘家


自己暗示をかけた後のあまねの眼はすべてを見透かすようだった。

それを見て師範は静の自己暗示だと判断した。

(ふむ、自己暗示は静の方のようじゃな。

 勝ちに行くならわしは動の自己暗示をかけたほうがいいんじゃが、

 師範、いや師匠としては弟子の技量を上げるために静の自己暗示をした方がよいか。)



天草流古武術で教えている自己暗示には二通りある。

一つは静の方、

これは主に観察眼の能力を上げる方法。

基本的に何らかの言葉をつぶやいて自己暗示にかけることが多い。


もう一つは動の方、

主に筋肉のリミッターを外す方法。

これは基本的に叫んで自己暗示にかけることが多い。


ただあくまで自己暗示のかけ方は基本的にというだけであって、

静の自己暗示で叫んだり、動の自己暗示でつぶやいたりもする。

だから師範はあまねの眼を見て判断したのだ。


そして静に対して動の自己暗示をかけたものが戦うと、

お互いに違う暗示をかけたものへの対処方を身に着けるが技量自身は上がりにくい。

それに対して静と静の自己暗示をかけたものが戦うと、

技術のぶつけ合いになるので技量が上がりやすい。


だから師範は自身に静の自己暗示をかけようとした。

だがそれを止めるものがいた。


「師範、動の自己暗示でいいですよ。そちらの方がお得意でしょう。」

いまだ茫洋とした目であまねが指摘する。

(そうじゃったな、いつでも全力。それがわしの教えじゃったな。

 あまねのことを甘く見すぎたわい。もう教え子ではなくて手合わせをするようになったのじゃから)


「では、いくぞ。

 ウオォーーーーーーッ!」

師範がもう老齢に入っている年齢に似合わず叫ぶ。

その間あまねは泰然として動かない。

自己暗示の最中は比較的隙が多い。

だから定石通りなら動くのだが動かない。


先ほど自己暗示を待ってもらったからか?

いやおそらくそうではない。

基本的に静の自己暗示をかけたものは動きたがらない。

観察眼が上がっているのだからカウンターとでも言える後の先を取りたがる。

おそらく師範もそれを見越して自己暗示をかけたのだろう。



さて天草流では手合わせの時開始の合図はない。

お互いに向かい合ったときから始まっているのだ。

そしてこの手合わせでは終わりの合図もない。

門下生同士の手合わせでは師範が終わりの合図を出すが、

今回は師範自ら戦っているので誰も出す人がいない。


だからこの手合わせでの終わり方は三通りある。


一つ目は一番平和な終わりかた。

決着がつかずお互いが満足して終わるというパターン。


二つ目も比較的平和な終わり方。

どちらかが降参した場合。

この場合止めるのが間に合わずに相手に拳や蹴り等が当たる場合もあるが、

その場合は力を抜いた状態で当たるのでそこまで大怪我になったりしない。


三つ目、これは結構物騒な終わり方。

どちらかが戦闘不能つまり気絶した場合や、

強いのをもらって明らかに戦闘を続けても負けるだろうという時である。

前者はともかく後者は骨が折れたりしたときのことだ。



手合わせの開始の合図はない、だから師範は暗示をかけ終るとすぐに動いた。

「シッ」

あまねに急接近してラッシュをたたきこむ。

その威力は老体に見合わずにかなりの威力だ。

下手に受ければ骨が折れるだろう。

それをあまねは涼しい顔ですべて受け流す。


(まるで全ての攻撃がどこに来るか分かってるかのようじゃ)

師範とてフェイントを使ってはいる。

だがすべてあまねに先読みされてしまう。

確かに動の自己暗示をかけてるものはその大きな力ゆえに動作が単純になりやすい。

ただ、師範の攻撃は起伏に富みそこに偽の予備動作までついているのだから、

とてもすべての攻撃を先読みできるものではない。


師範はあまねのことを一回観察しようと下がった。

いや下がろうとした。

あまねが前に出て来たのだ。

当然前に出る速度の方が早い。

師範の後ろに下がる速度は、歩法によりとても後ろに下がるような速度ではなかったのだが、

あまねの方が早く追いつかれてしまった。


「くっ」

師範は攻撃をされると思い防御の構えに入るも、

あまねは攻撃の予備動作こそするも攻撃じたいはしてこない。

おそらく師範が致命的な隙を見せれば一撃を入れて終わらせるつもりだろう。

師範は、攻撃は最大の防御なりとまた攻撃に転じる。

そうするとあまねは受けに徹する。

時に避け、時に払い一度も師範の攻撃は通っていない。


外から見れば師範が攻撃し続けてあまねの方が劣勢に見えたかもしれない。

しかし師範は焦っていた。

師範は動の自己暗示で筋肉のリミッターを外している。

だから消耗も早い。

しかもずっとあまねを攻め続けてるのだ。

老体にはきつかった。


一回休もうとあまねから離れようとすればあまねが追随してくる。

だから師範は賭けに出た。

一切フェイントを入れなくして、手数によってあまねを圧倒しようとした。

その目論見はうまくいった。

あまねはだんだん圧倒されていき体勢を崩していった。

そしてあまねの体制が致命的に崩れた時師範は正拳突きでとどめを・・・・・・・・。


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