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めそめそさん  作者: きつねさん
新章  (章タイトル未定)
38/38

精霊族の村

二人の羽が生えた人物が向かい合っていた。

一人はひげを生やした長老然とした男

一人はようやく成人した程度の女


「ハーシーよ、それでその人族との取引に応じてウィニーを見逃したのだな。

 お前が過去にウィニーと近しかったのは知っている。しかしウィニーが罪を犯したのは事実だ。

 罰もなしに放っておくことにはできん。悪しき前例となるぞ。」


「ですから先ほどもうしました通りウィニーは現在人族の奴隷となっております。

 それで十分な罰になるかと。」


「ふむ、お前の報告を聞く限りその人族はウィニーに同情的と見えたが、

 さてはて、その人族の奴隷となることがウィニーにとって罰となるかどうか。」

その言葉にハーシーは黙っているよりほかはない。

ハーシー自身もそう思っているのだから。

あの人族が奴隷であるウィニーにひどいことをすると思うかと聞かれたら、しないと答えるだろう。


「まあ、そこはよいとしよう。

 その人族が猫をかぶっていただけだと言われては反論のしようがないのじゃから。

 じゃがな、ハーシーよ。ウィニーは現在の村の場所を知っているのだ。

 これから移動するとは言っても移動できる距離には限界がある。

 今の村の場所が人族の間で知れ渡るとこの村にとって不都合なのはおぬしも分かるじゃろう?

 ウィニーは連れて帰るべきじゃった。」


「お言葉ですが長老、あの時無理に連れ帰ろうとしたら交戦になっていたでしょう。

 そしてそうなった場合、こちらが勝てた確率は万に一つもなかったでしょう。

 今回の交渉相手であり、ウィニーの主人となった人族を人質にとれれば何とかなったかもしれません  が、その人族の周りから他のものが離れる機会がなかったのでどのみち無理でした。」


「ふむ、そうであったな。では今からでも隠密部隊でも送ろうかの。

 連れ帰るのは無理でもウィニー一人を殺すぐらいなら訳ないじゃろ。」


「殺すのですか?」


「村の場所がこれ以上人族の間に広まらんようにするためには仕方ないじゃろ。」


「ですが、あの人族からウィニーの罪のを買うという理由で大量の金品をもらいました。

 さらにそれはもう魔石に変えて村にまで持ってきています。

 今更あの量の魔石を換金するとなるとかなり

 目減りすることになりあの人族からもらった量の金品を返すことはできません。」


「ふむ、気にすることは無かろう。

 その金品でウィニーの罪は許された。そしてなぜか死んだ。それが事実なのじゃから。」


「っ、長老、それはっ」

いきり立つハーシーを見て長老は言う。


「若いな。この世の中はきれいごとだけまわっておらん。

 清濁あわせ持つ事が出来ねば我々精霊族は滅ぶぞ。

 今現在ここの様な精霊族の村はいくつ残っているやら。」

ハーシーはまたも反論することができない。

精霊族の村の場所が割れると、必ずと言っていいほどよからぬことをたくらむものが出てくる。

精霊族が希少で有用であるために。

だから村の場所はなんとしても隠さなければならない。

それをハーシーも十分に知っている。知っているのだが、納得できるかは別だ。

ハーシーが感情のまま長老に言いつのろうとした時、長老が口を開いた。


「そうじゃ、この村の場所を知っているであろう人族もすべて殺すべきじゃな。」

さすがにこれには反論をする。


「ですが、我々が殺したと分かれば人族にここに攻め入る理由を作ることになります。

 村の場所を隠すことも重要ですが、まず理由を与えない事の方が重要です。

 どうか御考え直しを。」


「ふむ、ばれぬようにという事であればあの二人の人族の貴族のみを殺すことにしようかの。

 おぬしの見たところそこの警護はそこまでではなかったのじゃろう?

 それに報告ではウィニーの主人の人族と交戦して弱っておるらしいではないか。

 暗殺するなら絶好の機会じゃ。」


「・・・分かりました。そのように手配させます。

 ウィニーの暗殺の方はお考え直しいただけませんか?」


「ならん。ウィニーを始末するのは決定した事だ。

 それからウィニーの暗殺の方はこちらで手配する。おぬしは関わるな。」


「・・・・・・・・分かりました。」

「それは了承できないですね」

二人だけだった空間に第三者の声が響く。


「だれだっ!隠れてないで姿を現せっ!」

ハーシーが周りを見回し叫ぶ。


「別に隠れてないですよ。

 話が終わるまで待っていたら、こちらにとって不都合な話が出てきたので話しかけただけですけど。」


「そちらの御嬢さんがハーシーの言っていた三人の中でもずば抜けた強者じゃな。」


「はい、この少女です。」


「用件を言っていいでしょうか?」


「いや、その前にここまでどうやってきた?

 村の結界はどうした?許可された精霊族以外は基本的に村に近づくことなど出来ないはずだ。」


「精霊樹の力を使った結界ですよね、あれ。だったら私にはあまり意味はありませんよ。

 むしろ精霊樹がマーカーになってるぐらいですね。」


「・・・・・・御嬢さん、用件はなんだね?」

長老が落ち着いた様子で聞く。


「ウィニーの暗殺を止めてもらいたいという事ですね。

 彼女が死ぬと悲しむ人がいるんですよ。」


「それを聞いて我々がやめると思うかね?」

長老の答えを聞いて少女は肩をすくめる。


「それに精霊樹の場所が分かるというような危険な者を放っておくことはできん。

 それにここは我々の村だと分かっておるのか?犠牲は出るだろうがやむを得ん。」

長老が話しながら組んでいた魔法を完成させる。

ひゅっと何かが空に飛んでいき、閃光をはじけさせる。


「森は我々のテリトリーじゃ。おぬしに逃げ場はない。」

長老の合図に続々と精霊族の人たちが続々と集まってくる。

それを見ても少女は動じない。


「森は私のテリトリーでもあるんですけどね。

 それにそろそろですかね?」

少女がそうつぶやくと同時に集まってきた精霊族の何人かが倒れる。


「なっ何をした!?」

集まって来た精霊族の一人が叫ぶ。


「私がやったことだけど私がやったことじゃないですよ。

 私は唯、呪具をこの村にばらまいただけですよ。」


「呪具だと?」


「ええ、シシーお手製の、ね」

シシーという名前に長老を含め比較的歳のいった者たちがはっとする。

そして長老が問う。


「シシーというのは・・・・・」


「まあ、想像してる通りだと思いますよ。

そうそう()()()呪いは衰弱で倒れる程度のものですので安心してください。」


「ふざけるなっ!」

精霊族の若い者たちがいきり立ち、少女に攻撃をくらわせようとする。

ある者は剣をもち突撃し、ある者は弓を撃つ、ある者は魔法を放とうとする。

しかしそれは全て失敗に終わった。

剣は少女に届く前に空間に固定されたように動かなくなり、

放たれた矢は中空で不自然に軌道がそれ処女に当たらず、魔法は発動すらしない。


「これはこの村の結論という事でいいですか?

 では村を滅ぼしますがそれでいいですか?」

こともなげに若い精霊族の攻撃を防いだ少女は特に表情を変えずに長老に問う。

長老は考え込んだのち、少女の提案を受け入れることにした。

そして長老が口を開こうとした少し前に少女が言い足した。


「ああ、そういえば脅迫はよくないって言われてましたね。どうしましょう?

 ・・・・・・ああ、そうですね、そうしましょう。

 先ほどの脅迫の事は忘れてください。

 私が仕事を手伝いましょう。その対価にウィニーを殺さないという事でどうでしょうか。」


「仕事?何を手伝ってくれるというのかね?」

今更取り下げられたとしても長老としては同じことだ。

今もなお少女に喉元に刃を突き付けられているようなものなのだから。


「ええ、少しお引越しを。」

少女は笑ってそう言った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「これほどとは・・・・」

長老が驚いている。


「先ほども言いましたが森は私のテリトリーですから。」

お引越し、少女がそう言い表したのは精霊族の村をよそに移すという事だ。

人間に住処の位置が割れたから攻め入られないように場所を移す必要があった。

それには一つ大きなネックがあった。

それは精霊樹の移動だ。

精霊族が生まれる樹、精霊が集まる樹、精霊族のシンボル、そういった様々な意味を持つ精霊樹。

その精霊樹は樹齢五万年とも五十万年とも言われているような大木である。

それを移動させるのには大変大きな力がいる。

しかも移動させた後でさらにその地に定着できるように傷つけてはいけない。

その保護をしながら運ぶ必要があるのだ。さらに大量の力が必要になる。


ウィニーの罪の分として、あまねが貴族から巻き上げた大量の金品を大量の魔石にしてハーシーが持って帰ってきたが、それでは全然足りない。ウィニーを精霊樹と同化させるよりかは多い量の力を手に入れられるという事であの程度の金品ですんだのだ。もし精霊樹を引っ越しの予定地まで運ぶだけの魔石を換える量のお金を出せと言われたらあまねにはそのお金を工面することはできなかっただろう。


だから予定では精霊族は少しずつ、少しずつ精霊樹を移動させる気でいた。

毎日、毎日ほんの少しでも移動させればそれなりの月日が経った時にはそれなりに進んでいるのだ。

そんな塵も積もれば、という予定だったのだが、少女は二日間かけて一人で引っ越しの予定地まで精霊樹を移動させてしまった。

精霊族の住む家などが置いて行かれているが、それは問題ない。

精霊族は元々家に住んでいるのか、森に棲んでいるのか分からなくなるぐらいの生活をしているのだ。

家など現地で作ればいい。



「では仕事は果たしたのでそちらも約束は守ってくださいね。

 嘘ついたらハリセンボン飲ませますからね。」

指切りげんまんというのはあまねにでも教わったのであろう。

ただし、この少女は本当に飲ませる気のようだが。


「分かっております。

 あなたの様な規格外の人物に加えてシシーまでいるとなると裏切ることはできませんから。」


「では私の用事は終わったのでこれで。」

そうして帰ろうとした少女はふと思い出して振り返る。


「貴族の方は別に殺してもいいですけど、その場合は殺す前に私に教えてください。

 こちらでその噂を利用しますので。」

そうして少女への連絡方法を長老に教えてから少女は去って行った。







「ハーシー、お前の判断は正しかった。」

長老はぽつりとそうつぶやいた。


また次の投稿までしばらく間が空きます。ご了承を

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