シシーとウィニー
ご主人様に加護をささげようと思ったら反対されてしまいました。
そういう事を軽々しく決めるべきではないと。
どうにか受け入れてもらおうと説得したら、ご主人様の部下である同族に加護について説明を受け、
それでも加護をくれるなら受け入れると言われました。
そして現在シシーという同族と部屋に二人きりです。
容姿から判断して私よりはるかに年下なはずですが、ご主人様はこの子に何を期待してるのでしょうか?
少なくとも私の方がこの子より加護についての知識はあると判断できますが。
がちゃり、
シシーがドアに鍵をかけました。
それと同時に何らかの魔法が発動して外から聞こえる音が物理的に完全に遮断されました。
いえ、魔法的にもおそらく遮断されているのでしょう。
おそらくこの部屋は重大な秘密事を話す部屋なのでしょう。
後から考えるとそういう事が推測できました。
しかし、その時の私にはそのようなことを考えている余裕はありませんでした。
ドアを閉めた途端シシーが変貌したのです。
先ほどまでの筆談していたおとなしそうな雰囲気は影形もなく、
抜身の刃のような鋭さが表に出ていました。
「貴方程度があまねに加護をなんて思い上がって」
子供にいいように言われてるのに腹が立つとかそういう余裕もありません。
私はシシーが絶対強者であることを理解したのです。いえ、させられたのです。
もはや彼女から目を離すことはできません。ご主人様の部下ですし、目を離したからといって何をされるという訳でもないと頭では分かっているのですが、彼女から目を離すことに圧倒的な恐怖を感じます。
感情の問題ですのでどうしようもないのです。
「あまねに加護を与えるのは思い直してくれるよね?」
それは断じて提案でも質問でもありません。命令でした。
ですが私はご主人様に加護をもらっていただくと決めていました。
私の意識は、シシーへの恐怖と、ご主人様にせめてもの恩返しとして加護をもらっていただく、という二つの意識の板挟みになりました。
そんな私の状態を見透かしているのでしょう。シシーの顔が不機嫌そうにゆがみました。
「めんどうな、あまねの部下でさえなければ呪ってしまえるというのに」
呪い、その言葉を聞いて私はピンときました。ピンと来てしまったのです。
私よりはるかに長く生きている長老が私に一度だけ話してくれた事を。
私が産まれた村が呪いで全滅しかけたお話。
その呪いをかけた者の名前。
それが・・・・・・・・・
「震えるぐらいならあまねに加護を渡すのをやめればいいものを。」
確かに震えています。ですがご主人様に加護をもらってもらう事はもう決めたことなのです。
「仕方がない。理由を作ってやる。それでも渡すのをやめないというなら・・・・呪う」
村を一つ滅ぼしかけたものが私を呪う。恐ろしいことです。しかし私はもうすでに決めてます。
いくら恐ろしくてもご主人様に加護を渡すのを変えるつもりはありません。
「あなたがあまねに加護をあげちゃうとあまねの負担になるんだよ」
「どういう事ですか?加護は有用な物ばかりですが。私もそれぐらいは知ってます。」
「やっぱりわかってなかった」
私の答えにシシーは呆れたような顔をしました。
「あまねの仕事は危険が伴う。それはあまねの近くにいる人にも言えること。
交渉の材料に人質に取られるかもしれない。
あまねはその時冷静に行動して結果的に人質を見捨てると思う。
そうする自分の事を非情だ、人質を切り捨る事を選ぶような人間だ、と思ってるけど、
実際のあまねは優しすぎる。
人質を見捨てるという正しい判断をしたとしてもあまねはそのことを気にする。
とっても悔やむ。
だからあまねの周りにいる人には強さが求められるん。
それに比べてあなたは弱い。簡単に人質にされるほど弱い。だから加護の事を許すわけには行かない」
その言葉はご主人様への思いやりが込められていた。
「ですが、それでしたら私がご主人様に加護をもらってもらうのは問題ないのでは?」
「馬鹿?近くにいなくても精霊族が加護を与えたのだとしたらその精霊族は近しい人だと判断される。
これは精霊族の事を知るような人なら当たり前。加護を与えるとはそういう事。分かるか?」
「・・・・・・・・でも・・・・」
「やっとわかった?
あなたが加護をあまねに渡すのは何の恩返しにもならないから。むしろ邪魔。
理解したならさっさと部屋に戻るよ。あまねを待たせてるんだから。」
そう言ってシシーはドアの方に歩いて行ったがふと思い出したようにウィニーの方に振り返る。
「もしあまねに余計な事言ったらあなたと、あなたに近しかった人すべてを・・・・・」
最後は声に出さず唇を動かしただけであったがウィニーにはちゃんと伝わったであろう。
びくり、と体が震えたのがいい証拠だろう。
それに先ほど脅されたばかりだ。馬鹿でもわかる。
脅した後にシシーはもうウィニーに対しての興味をなくしたような風で、
ドアを開けてそのままシシーはあまねの待つ部屋に入って行った。
そこでのあまねとのやり取りはやさしく、そして元の筆談で、
先ほどまでのウィニーへに対する厳しい態度とは全く違うものだった。
ちなみに精霊族の名前は最後が長音符がつくことが多い




