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めそめそさん  作者: きつねさん
新章  (章タイトル未定)
36/38

精霊ふたり

「さて、城に戻ってきたんだけど心変わりはした?」


ディシタリアの所では何事もなくお金をもらうことができた。

ただ、老獪だったので、想定よりかはお金をせびることはできなかった。

どうも、【悪魔】とも恐れられた私のネームバリューが下がってるみたいだ。

この頃は穏便にしかお金の徴収してなかったからかな。

うん、そうだね。そろそろどこかの貴族を一回、減領させようか。

ただ、ここでポイントなのは減らしすぎない事。

人は追い込まれたら何をするか分かんないからね。


ところでウィニーの答えはこうだった。

「いいえ、まったく変わりません。」

「うーん、もっと自分を大切にした方がいいと思うんだけどね。」

「いえ、そもそもこの頃の精霊族はそこまで加護を大切にしない者も増えてきてるんですよ。

 だからそこまで重大事ではないのです。」

はい、ダウト。

あの貴族からどんなに強要されても守りきってたものが重大事じゃないわけないじゃない。


「はあ、とりあえず仲間を紹介するからついて来て。」

「・・・・・はい」

どことなく不満そうだけど、こんな重大事を簡単に決めたらしょうらい後悔するかもしれないからね。


これから向かうところは私の直属の部下の最後の一人。精霊族の子だ。

彼女から私は加護をもらってる。

それに助けられたことがあるから加護の有用性は十分に分かってる。

そしてそれを渡す側の心の重要性も。


恥ずかしがり屋で、人見知りで、少し対人恐怖症なところもあるから人前にはめったに出ないけど、

今日はウィニーに会ってもらおうと思ってる。

そこで加護についての重要性をウィニーに話してもらうつもりだ。

それを聞いてウィニーが心を換えないなら私は喜んで加護をもらうつもり。

それだけ信頼されてるっていう証で嬉しいっていう事もあるし、加護が有用だからっていう事もある。




「さて、紹介するよ。この子はシシー。私の部下だね。」

シシーの頭を撫でながら紹介する。

見た目は全く人族の子供と変わらないその姿だが、れっきとした精霊族だ。

他人に対する警戒心が強く、スザやターニャにも必要がなければ近づこうとしない。

今も初対面のウィニーを警戒してるからそれを和らげようと頭を撫でてるぐらいだ。

私には懐いてくれてるし、マリエルとはどうしてか気が合ってるみたいでたまに話してるらしいけど。


彼女の役割は「相談役兼解呪師」かな。

彼女はその見た目に反して長年生きている。寿命が恐ろしく長いのだ。

人間に比べて圧倒的に長寿である他の精霊族と比べても。

言いたくなさそうにしていたから詳しく聞かなかったけど、

精霊族にはそういう個体が生まれることがあるらしい。

だから彼女は相当量の知識をその頭にたくわえている。そして賢い。

だから相談役。


それから解呪師と言うのはそのまんま。

彼女はサードジョブまで持っていて、

そのジョブが、解呪師、呪殺師、呪術師とみごとの呪い関係でそろっているのだ。

だから彼女の呪いに対しての理解と扱いはものすごい。

呪う方はあまりしたくなさそうだったから、解呪師になったと。

そもそも相手を呪わないといけないような案件などそうそう発生しないしね。


ちなみにサードジョブを持っていた人は世界中でも記録に残っているのは五人だと言われている。

シシーは「非公開国属特別査問官及び非公式特別諜報員」という非公開の国の隠密的な立場だから記録されていない。

記録にあるジョブの最高所持数は十個持っていたという。

真偽は定かではないけど。


「ご主人様、この子と話をしたら加護をもらってくれるのですね。」

「気が変わらなかったらね。」

「気が変わることなどありません。私はあなたに加護をもらってもらうと心に決めているのです。」

加護を与える、与えない、と言う話をあまねとウィニーがし始めると、

おどおどとした様子でウィニーを観察していたシシーの目に一瞬剣呑なものが光る。

が、その目は一度瞬きをした後には元のおどおどした感じの目つきに戻る。


「じゃあ、シシー。早速で悪いけどウィニーに加護の大切さについて説明してあげてくれるかな?」

『分かった、じゃあ、ウィニーだけ奥の部屋に』

シシーが普段使っている小型の黒板みたいなのに文字を書いて返事する。

なぜかシシーは普段声を出さないのだ。

これにも何か事情があるみたいだから詳しくは聞いてないけど。

一回聞いたことがあるけど、すっごくいい声だったんだけどなあ。


「ところでなんでウィニーだけ?私は?」

『部外秘』

「ああ、なるほど。じゃあ、ウィニー、説明聞いて来てね。」

「はい、分かりました。」

奥の部屋にウィニーとシシーが入って行った。

まあ、精霊族は秘密の塊だからね。

外に住んでいる精霊族であるシシーもそこら辺は守ってるようだね。






そういえば、どうもこっちに来てから私は子供によく好かれる。

いや、マリエルは魔物だった時期をいれればあれだし、シシーも長く生きてるか。

スザとターニャは見た目通りの年齢だし、聞く所によれば、ウィニーもそうらしいし。

この中で一番大きく見えるのはウィニーだけど、

実際の歳ではマリエル、シシー、ウィニー、ターニャ、スザの順番なんだよね。

身長だと、ウィニー、スザ、ターニャ、シシー、マリエルの順番。

ウィニーはダントツで、スザとターニャが同じくらい、シシーとマリエルも同じぐらい。

ウィニーが中学二年生ぐらいで、

スザとターニャは小学校四年生、シシーとマリエルは小学校二年生ぐらい?


昔はこんなに好かれなかった。

日本にいた頃は茜がよく小さい子と遊んでたからそれを横から見てた立場だったんだけどね。


そんな事を考えるとはなしに考えながら紅茶を飲んでボーっとしていると、

ウィニーとシシーが出てきた。

シシーの後をついて出てきた、ウィニーの顔色が少し悪い。

えーっと、これは恐怖?シシーに恐怖の感情を抱いてるみたい。

シシーが脅かしたんだろうねえ。

「シシー、何言ったの?」

『秘密』

奥の部屋が完全防音であることが悔やまれる。何を言ったのか全く分からない。

いや、シシーは筆談で脅したのかもしれないけど。


「シシー、何と言って脅したの?」

少し口調を強めて言う。

これから同僚となる人間を脅すのはよくない。

そこで意外なことが起こった。

反論してきたのはウィニーだったのだ。

「あまねさん、大丈夫です。」

「いや、あなたが大丈夫だったとしても同僚を脅すようなことを言うのはよくないし。」

「いえ、確かに怖かったですけど、言われたことは正論でしたから。」

そうなの?とシシーに目線を送ってみると、頷いた。

嘘はついてないようだね。心が読めない程度に弱体化した今の状態って意外にいいかも。

わずらわしい心の声は聞かなくていいけど、嘘や感情は見抜けるっていうの。ちょうどいい塩梅。

「・・・・まあ、当事者同士がそういうならいいけど。

 それで、加護の事は気が変わった?」

「はい、すみませんが、加護の事は先送りにすることにしました。

 シシーに言われてもっとちゃんと考えないといけないなと分かりましたから。」

「そう、残念って言う気持ちがないでもないけど、そうする方がいいと思うよ。

 それからもう一度言っておくけど、貴族とかが強要しようとして来たら私の名前を出すんだよ。」

「はい、ありがとうございます。」

そう言ってウィニーがきれいな礼をする。


「シシー、これからウィニーをメイド長の所に連れて行くから。

 今回の件を報告するって言うのはまたあとでね。」

『はい、ではまた後程』






廊下を歩きながらウィニーに再度聞く。

「ここならシシーの目もないし、話しても大丈夫。正直に言って、なにを言われたの。」

「いえ、本当に何もありませんでしたから。

 はるかに強いシシーと二人きりになって緊張しただけですから。」

そうか。自分なんか簡単に殺せると分かるほどの実力がある相手と二人きりはきついか。

「ごめんね、それは考えてなかったよ。私は平気だったから。」

こっちを害す気がないっていう事が私は分かるから、

シシーやマリエルがいくら強かろうと恐怖を感じたり緊張したりはしない。

「いえ、大丈夫です。緊張したのは強者に対しての尊敬からというもありますから。」

「そう、でもごめんね。でも尊敬とかいう割に敬称はつけないんだね。」

「敬称というと、さん、とか、様とかですか?精霊族に敬称をつける文化はありませんから。」

「でもそういう割に私の事はご主人様だよね?」

「ご主人様というのは『ご主人』に『様』がついたものではなくて『ご主人様』で一語ですから。」

「へー、そういう解釈をしてるんだ。」








そうして話しながら歩いてるとメイド長が対面から歩いてきた。

ちょうどいい。ここでウィニーを紹介しよう。

「メイド長、ちょっといいですか?」

「はい、なんでしょう?」

こっちに来た時のお世話係兼教師役だった彼女にはそれなりにお世話になってる。

調査とか捜索とかで城にいる時より、外にいる時の方が長いのだけど、一応は召喚されたときからずっと城に住んでるしで話しをする事もそれなりにあるから交友もある。


「この子をお城で使用人として使ってもらいたいんですけど。」

「・・・・・・・あまね様、分かってるとは思いますが城で仕えるにはそれなりの信用が必要です。」

 職のない子に職業を紹介してらっしゃるのでしたら町での仕事を紹介しますよ?」

「いや、信用については大丈夫。私の奴隷だから。

 私が悪いことしないようにって命令しておけばいいんでしょ。」

「そうですね。あまね様の奴隷という事なら信用については大丈夫ですね。

 それで、この子はどういった仕事をさせるつもりなんですか?

 いえ、この子はどういったことができるんですか?」

「そうだね、どういったことができる?」

あまねの問いに少し考えてからウィニーは答える。

「家事全般は一応できます。貴族のところで仕込まれましたので。

 ただ、勝手が違うかもしれないので最初は少し失敗するかもしれません。

 それから私としてはあんまりしたくはないですけど、ご主人様が望むなら夜の方でも大丈夫です。」

「いや、私はそんなこと無理強いする気はないよ。という感じなんだけどどう?雇えそう?」

「そうですね、少し教育は必要そうですけど大丈夫です。

 一応正式な雇用ではなく、しばらくは仮になります。

 その間仕事をそつなくこなせば正式に雇いましょう。」

「ありがとう。助かるよ。」

「いえ、それから言っておきますが、

 私はただあまね様から職の斡旋をお願いされて雇っただけです。」

「うん、わかってる。それに非合法なことをさせるつもりはないから大丈夫だよ。」

(何もないのが一番いいんですけどね。)

非合法なこと以外はやると言っているような返事に少し困りながらも、

メイド長ははウィニーを雇う事を受け入れる。

あまねは国属であるとともに国賓扱いなので、メイド長の立場では受け入れるしかないし、

個人的にもあまねの事は好ましく思っているため、

メイド長という立場を超えたお願いでなければ受け入れるつもりでもあった。


「それで、いつから働かせるつもりなんですか?」

「疲れてるだろうから二、三日休ませたいですけど、その後ならいつからでもいいですよ。」

「では二日後から住込みのメイドの寮に移って、三日目から仕事を始めるという事でいいですか?」

「そんな感じかな。ウィニーもそれでいい?」

「はい、大丈夫です。何なら今日からでも大丈夫ですが」

「休むことは重要だよ。それに注意力散漫気味な今は仕事を始めるのはやめといたほうがいいよ。

 メイド長が怒った時はすっごく怖いらしいから。」

「あら、それはどこ情報ですか?」

メイド長がニコニコ笑いながら聞いた。

「一ヶ月ほど前かな?セレスタイトの間を掃除してたメイドたちが噂してたのを聞いたんだよ。」

「あらあら、私が怖いとか噂していた上にお客様の前でうわさをしていたなんて

 ・・・・・・お仕置きですね。」

「あー、客の前でっていう事は勘弁してあげて。私が気配を消してたのが原因だし。

 たかが普通のメイドに気付かれるほど私は気配消すのは下手じゃないから。」

「そうですか。残念ですね。

 私を怖いなどと噂してただけじゃあまりひどいお仕置きはできないですね。」

「こんな感じにメイド長は怖いから初日ぐらいは万全の体調で挑んだ方がいいよ。

 まあ、今のは演技入ってたけど。」

「・・・・・そうですね。ご主人様の言う通り三日後から始めることにします。

 メイド長、(つたな)い点もあるかと思いますがこれからよろしくお願いします。」

「こちらこそよろしくお願いしますね。それから拙いなんて気にしないでいいですよ。

 拙い所があればその都度矯正していきますから、一ヶ月もすればちゃんとしたメイドになれますよ。」

そう笑顔で言われたウィニーは若干メイドになることを後悔しかけたそうな。


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