これから
「ごめんね、せっかく集めてきてくれた情報なのに稼ぎ半分になっちゃった。」
ターニャに謝る。
私の直属の部下以外にも「非公開国属特別査問官及び非公式特別諜報員」には人員が存在する。
情報を集めてくる人たちだ。その人たちはターニャの部下だ。
私が組織の一番上にいるけれど正直諜報の仕方とか全く分からない。
私のやることは貴族と話をつけに行くだけだ。
だから情報を集めるという時点での負担はターニャとその部下の人たちに集中する。
その苦労の結果をウィニーを助けるために使っちゃったから。
一応まだディシタリアの所があるけど。
「別にいい。あれはあまねのお金だから。」
許してくれたみたい。と言うか、気にしてもなかったみたい。
珍しくしゃべってくれた。
けどあれは一応私のお金じゃなくて国のお金なんだけどね。
「あの、私はこれからどうすれば。」
精霊のメイドが不安そうに聞いてくる。
「そうだね、ちょうどいいしこれからの事を話そうか。みんな聞いて。
これから精霊狩りをたくらんでたもう一人の貴族のディシタリアの所に行って、
お金をせびりに行くんだけど、私とマリエルだけで行くから。」
えーっ、っとスザが不平を言ったりターニャがどことなく不機嫌そうにしてる様に見えなくもないけど、
今回の事は決定事項だ。
そもそも、たかが一貴族の所に行くのにはこの集団は過剰戦力なのだ。
たとえ大貴族の所に攻め行くのであっても、
私がうまく指示をして時間と手間をかければ無傷で制圧する事さえ可能かもしれないほどなのだ。
それに今回は非戦闘員であるウィニーがいるのだ。
彼女の護衛に誰かは置いてかなければいけない。
そしてディシタリアの所の方が戦闘になる可能性は高い。
その時には対集団戦になるだろう。
その場合の制圧力はスザとターニャの二人よりマリエルの方が高い。
マリエルは魔法を軸に戦うので集団を相手にするのは得意なのだ。
それに対し、スザとターニャは集団より、個々を順番に相手していかなければならない。
その上殺すわけにはいかないのでどうしても無力化するには手加減をしなければならないので
制圧速度はどうしても下がるのだ。
「で、ディシタリアの所で無事にお金をせびれたら一回城に戻って
ウィニーの隷属の魔法に変な細工がないか調べてからは予定はないし、しばらくは休暇かな。
はい、何か質問ある人は?」
「はいっ、今度の休暇はどれくらい?あまねの予定は?遊べるの?それとも稽古つけてくれるの?」
「はいはい、一個ずつ答えるからね。
今度の休暇は半月ぐらいかな。私の予定はいつも通りしばらく捜索に充てる。
遊ぶのと稽古つけるのはちょっとはできるけどあんまり長くは無理かな。」
「えー、また捜索?あの茜って人?いいじゃん、そんな人。」
「・・・・・・・・・」
「あ、ごっごめんなさい」
「・・・・・・いいよ、けどあんまり言わないでね。」
「はい・・・・・・・」
茜の事になるとどうもね。子供に対してあの威圧は大人げなかった。
思わずと言った感じで出してしまったのだ。
威圧に対しての耐性はあっても親しい人からの訓練以外での威圧はきびしいよね。
強くてもスザはまだ子供なんだから。
「はい、質問と言うより報告なんですけど、
私精霊族の里の方まで足を延ばそうと思うのでその間はいません。」
マリエル、ナイスタイミング。
空気が重かったから。私のせいだけど。
「ん、別にプライベートに関してはあんまり口を挟まないけど、
精霊族の里とは今回の事で人間に対して不信感を抱いた可能性もあるから一応注意ね。」
「はい、大丈夫です。」
にっこりと笑ってるけどそれを見てるとちょっと背筋が凍えた様な気が。
気のせいかな?
こっちに来てから相手の心情が分かりにくいけどこういう時のマリエルはほんとに分からない。
ターニャも隠してる時は全く分からないし。
反対にスザは分かりやすいんだけどね。
「ターニャはどうする?」
そう聞いた私にターニャはぴとっと引っ付く。
「えーっといつも通りついて来てくれるっていう事でいいのかな?」
それにターニャは無言で頷く。
正直ターニャがついて来てくれるのはありがたい。
情報を集めるにせよ、山賊に襲われたときにせよ、ターニャがいるといろいろ違う。
私もそこそこ強くなったけど、それもそこそこでしかない。
さっきの貴族の所で使われてた魔道具版フラッシュグレネードの様な魔道具をたくさん持ってるから逃げるだけなら問題ないけど、いちいちそういう事をしてたらめんどくさい。
私のは特注の高級品だから費用もばかにならないし。
だからと言って質の悪い物を使う気にはならない。命はお金に代えられないから。
取りあえず感謝の意を込めてターニャを撫でとく。
「あー、ずるい。私もついてくっ。」
「うーん、だめかな。」
「なんでっ、ターニャは良いのにぃ。」
ごねるけどダメだ。
「捜索っていうのは聞き込みとかだから多分暇だと思うよ。
それに成果が出る可能性低いから達成感っていうのもないし。」
多分暇で暇でうだうだ言うだろうし。
スザは悩んだものの、結局ついてこないことにした。
自分が向いてないことをちゃんと理解してる。そこはいい所だ。
その点を誉めて頭を撫でた。
「へへへ。」
子供はほめて伸ばす方がいいのかも。スザを見てるとそう思う。
まあ、すべての子供がスザみたいに純粋なわけじゃないけど。
「あっあの私はこれからどうなるのでしょうか?」
ウィニーが聞いてくる。彼女には彼女の仕事がある。
「今回の事が終わったら、基本的にあなたには城でメイドとして働いてもらいます。
立場としては永久奴隷ね。
借金奴隷か永久奴隷かで迷ったんだけど、
借金奴隷だと城での給金は借金の返済としてあてがわれるんだけど、今回の場合額が大きいからね。
たぶん利子の分すら払えないと思うから永久奴隷にしとこうと思ってる。
それなら城からの給金を奴隷の最低限の生活の保障と言う名目でウィニーが好きに使えるし。」
「そんなに考えてくださって、ありがとうございます。
でもどうしてこんなにしてくれるんですか?私を助けるために渡したお金はすごく多そうでしたが。」
茜に知られた時のためっていう事もあるけど、それだけじゃない。
けど、言うべきか、言わないべきか。
「本音2割、建前7割の理由か、本音十割の理由が二つと合計三つあるんだけど、どれを聞きたい?」
「全部お願いします。」
「じゃあ、本音2割建前7割の理由からね。
可哀そうだと思ったからだね。
人間に無理やり奴隷にされて、そこで無理やり精霊族の住処の事とかいろいろ話させられて、
そのせいで帰れなくなったあなたに同情したっていう事だね。」
「二割なんですね。」
まあ、そうだね。
この理由だけ話そうとも思ったんだけどやめておいた。
出来るだけ誠実でありたいから。だから問題なければほんとに思ってることを伝えるつもりだ。
「次に本音十割の理由だね。
一つ目は人族と精霊族の関係悪化するのを嫌ったから。
さっきの人のように精霊樹との同化を誉れとしない精霊族が増えてきた、
っていうのを聞いたことがあったから。
だから無用な軋轢は産みたくなかったからあなたを助けた。」
「もう一つはなんですか?」
「うん、これはあなたの仕事にも関係するんだけどね。
城の中にも情報源が欲しかったっていう事。
私は一応国の人間っていう事になってるけど国を完ぺきに信用してるわけじゃないからね。
だからあなたには城の中で見聞きしたことを定期的に私に話してほしいっていう事。」
「・・・つまりスパイですか?」
「いやいや、そこまで大がかりなことは求めてないよ。
精々噂話とかに耳を澄ましといてっていう程度だから。危ない橋を渡らせるつもりとかもないし。」
「分かりました。
正直に理由をすべて話していただいてありがとうございます。」
「うちの組織に入ったっていう事になるから、一応ちゃんとしといたほうがいいと思うしね。」
茜に知られたときのためっていうのは話してないけどね。
それにうちの組織に入ったからと言って書類とかに書かれるわけでもないけど。非公開だし。
だからうちの組織は名簿すらない。
というか、ターニャの部下に至っては組織の長である私ですら知らない人が結構いる。
「ああそうだ、ウィニー。加護の事だけどね。」
「はっはい。」
ビクッとなってウィニーが身を固くする。
そんなにおびえなくても。ってああ、そうか。貴族の所でかけろと要求され続けてたんだっけ。
そりゃトラウマにもなるか。
「お城で働いてるときに他の貴族とかから強要されかけたら私に命令されてるって言っていいから。
その時に私の名前出したらたいていは収まるから。私の通り名、貴族の天敵だし。」
「ありがとうございます。けど私はあまね様に加護をもらってもらいたいと思ってるのですが。」
「えっ?」
なんていう心変わり。
「一応理由聞くけどなんで?」
「私をあの地獄のようなところから救い出してくれました。」
「いや、それ仕事だよ。」
「救ってくださってことは事実です。
それに誠実に救った理由を話してくださいました。」
「いや、それもその方が信用されやすいと思ったから話しただけだよ。」
「普通なら奴隷ですから信用を得る必要などありません。
隷属の魔法では加護を与えることまでは命令できませんでしたが、
その他の事なら命令されれば私は従うしかないので。」
「加護っていうのは伴侶か生涯の友ともいえるような大切な人にするものだって聞いたよ。
私と過ごした時間なんて少ないじゃない。もっと考えてからした方がいいと思うよ。」
「時間など何の問題でもありません。」
頑固だ。はあ、しょうがない。間を取ろう。
「じゃあ、城につくまでよーく考えといて。
幸い私はディシタリアっていう貴族の所に寄らないといけないから時間はたっぷりあるし。
それまでに心変わりしなかったら、ちゃんと話を聞くし、結論によっては加護も受け取る。
「・・・・分かりました。」




