精霊族
「あの何か説明を・・・・・・・。」
何か気が強そうだという印象を受けてたんだけど初対面の人にはあまり強く出られないんだろうか?
それにしてもやっぱり精霊族は普通の人間にしか見えない。
「どうして精霊だとばれたんですか?羽を出さなかったら分からないでしょう。」
「・・・隷属の魔法をかけられてから秘密があるなら話せって言われたんです。」
「ああ、精霊の居場所はそこから漏れたんだ。それで精霊狩りなんてことを。」
納得。精霊狩りを計画していたことは知っていたけど、
どこから精霊の情報なんてことを引き出したのか謎だった。
ああ、っていうかこの人が精霊の居場所を漏らしたってことは
「あなた精霊の村に帰れないんじゃない?」
裏切り者ですから。
まあ、隷属魔法で従わせられたので仕方がないって言えば仕方がないのですが、
精霊は人とどこか考え方が違うっぽいですから。
「・・・・・・・・・はい、おそらく無理でしょう。
敵として見られるでしょうし、おそらく私には見つけることすらできなくなってるでしょう。」
精霊の居場所はたいてい結界が貼ってありますからね。
例えば森だったら入れたくない奴をどっちに進んでいたのか分からなくさせる「迷わしの森」とか。
そこを人間は人海戦術で方向など関係ないように人を密集させてしらみつぶしにするのですけどね。
「ああ、それならお城で働いてみればどう?
確か侍女が何人か実家に帰ってしまった、って侍女長が言ってましたし。
厳しくはありますが、悪い雰囲気ではありませんよ。」
その前に隷属魔法を解かないといけませんけどね。
マリエルでもとけると思うんですけど、どんな仕掛けがあるか分かりません。
一応今は主人登録を私に変更さしましたから問題ないですけど。後は専門家に任せとこう。
「けど・・・・・・・・・」
なにか心配している。
ああ、加護か。この人はまだ加護を与えてないようですね。
じゃあ、加護を与えてくれっていう人たちが押し掛けるかも。たとえば貴族とか。
今回の事で「加護を与えろって言われる事」が半ばトラウマ化してますからね。
「加護を誰かに与えてしまえばそういう事も言われなくなるんですけどねえ。」
おや、心なしか私と彼女の間の空間が広がりました。
なぜ?
こっちに来てから敵意とか、好意とか、警戒とか、そういうのしか分からなくなったので少し不便。
あの力があった頃を懐かしむ日が来るとは思ってもいなかった。
というか、他人の心を察すること苦手なんだけど。
こっちに来るまでは勝手に分かってましたからわざわざ頭で考えて推測しようなどしなかったので。
警戒してるっていう事は伝わってくるんですが、なぜ警戒してるんだろう?
マリエルが私の服の裾を引っ張ってきました。
「なに?」
あれ?両手で引っ張ってる。荷物は、って魔法で浮かしてる。
さすが魔人。息をするように魔法を使う。
「愚かにもあまねが加護を自分に捧げろと遠まわしに要求してると思ってる。」
「ああ、なるほど。よく分かったね。」
取りあえず頭を撫でくり。
言葉に毒が含まれてたけど。
「あー、ずるい。私もー。」
スザがうりうりと頭をこすりつけてくる。
しょうがない。撫でよう。
「へへへー。」
まあ、荷物持ってもらってるし。
ターニャがちらっとこちらを見た。
仲間外れはだめですよね。ターニャにも荷物持ってもらってるし。
手招きするとたったったと近寄ってきます。
撫でると表情がかすかに・・・・変わらない。ピクリとも変わらない。
これは喜んでる、のか?よく分からない。
ちょうど近くにあったメイドの人の頭も撫でり。
「別に私はあなたに無理強いする気はありませんよ。
活気や娯楽がないのであまりお勧めしませんが、
隠れ里的なものを知ってますから必要ならそこで住めるように手配しま・・・・させますから。」
だいたいそういう業務私が担当することはないので。
あれ、さらにメイドとの距離が離れました。
ああ、さすがに人前で頭を撫でられるのは恥ずかしかったのか。
ちょっと悪いことをしたなあ。
あっ私たちが村まで乗ってきた馬車が見えた。あと一息。やっと休める。
何気に緊張しましたからね。貴族との対面。
下調べで小物だってわかってましたけど貴族って秘密主義ですからね。
何かないかひやひやでした。
まあ、マリエルにいろいろ付与魔法かけておいてもらったので大丈夫だと分かっていたのですが。
やっと休めると思っていたのですが。
はあ、まだ無理なのか。馬車のところに人がいます。
いや、背中から半透明の羽が生えてる。あれが精霊族の羽か。初めて見た。結構神秘的。
直属の部下にも一人いるけど見せてくれないからなあ。
「そこの者達とまれっ。」
なんだか敵対的。リーダー的な女の人はまだいいけど他の二人はビンビンに殺気向けてるし。
けどその視線と殺気は私たちに向けられてるのじゃなくてさっき保護した精霊族のメイドに。
それに対してリーダーはメイドに対して、これは憐憫?の情を向けている。
これって村に入れないどころか罰しに来たっていう事だよね。
「ウィニー分かってるな?」
「・・・・・・はい。」
しずしずと精霊族のメイドが私達から離れて歩いていく。
「いや、ちょっとストップ。」
「なんだ?」
リーダーさんが初めて私の方に目を向けた。
というか他の二人よ。君たちは殺気をむけることしかできないのか。
「私達にも説明してよ。こっちはわざわざ貴族の屋敷から保護してきたんだけど。」
「そうか、貴族の屋敷を襲撃するのは面倒だったからな。
わざわざ連行してきてくれて助かった。」
食い違いがあるね。
「それで、説明はしてくれないの?」
「仕方がない。おい、お前たち。ウィニーを連行してておけ。私は説明してから追いつく。」
「はい、ストップ。なに連行すること前提で話してるの。
私が納得いかなかったら連れて行かせないよ。」
「・・・・・・・・われらと争う気か?」
「別段争う気はないけどそっちがやる気なら。こっちは仕事でその人を保護したわけ。
何の理由の説明もなしに連れて行かれることは許容できないね。」
実際はそんなことないけど。私が一応組織の長だし。
「・・・・・お前ら、小休止だ。説明してから出発だ。」
「隊長、こんなやつら気にする必要はありませんよ。すぐに出発しましょう。
所詮空も飛べない者達です。我々が飛んでしまえば手出しもできないでしょう。」
うわ、なめられてる。空を飛んでいても地面に落とす方法はいろいろあるんだけどなあ。
「やめておけ。その女はともかく、他の三人はおそらく私と同等かそれ以上だ。
現状下手に手を出すべきではない。話し合いで解決できるならそれが一番だ。」
あれ、あの三人の中ではマリエルは突出してるんだけど。
「隠してる?」
こそっと聞いてみたら答えは首を縦に振ることだった。
まあ、それぐらいの方が相手にも過剰な警戒されなくていいか。
目線でそのまま、と指示する。
「それにその女は我らの良き隣人だ。精霊の抱擁を受けている。最低限の説明をするべきだろう。」
精霊の抱擁・・・・・なんだっけ。
あっ、思い出した。精霊の加護だ。
私の直属の最後の一人。彼女から私は精霊の加護を受けている。
その時、精霊の抱擁とも言うとか言ってたっけ。
心なしかほか二人の視線が弱まる。
そしてウィニーは目を少し大きく開けて驚いている。精霊の加護を受けてたことに驚いたのか。
というか精霊族のすべての人が精霊の加護を受けてるか分かるわけじゃないんだね。
取りあえず馬車にお金を積んでから小休止。
精霊族のほか二人は少し離れたところに、メイドは馬車の中に、
正面は精霊族のリーダーさん、右にスザ、左にターニャ、膝の上にマリエルが座ってる。
マリエルの体は夏にはひんやりと、冬には温かい。
体がどうなってるのかは分からないけど抱き枕にはぴったりだ。
それに見た目からしたらマリエルの体重はずいぶん軽い。だから足がしびれたりもしない。
抱いてると心地いいからついつい抱きしめちゃう。
「よくなつかれてるな。」
私の周りに集まった子たちを見てのハーシーさんの感想。
他の二人はスーとシェンシーって言うらしいけど話す機会はないだろうね。
「まあね。一応確認だけどウィニーを連行する理由は?」
「我々のすみかをばらしたという罪の罰を与えるためだ。」
「まあ、予想通りだね。一応言っておくけど貴族の精霊狩りの件は私が対処中だよ。」
「そうか、それは安心した。なかなかに煩わしいからな。
だがウィニーがばらしたという件はなくならない。」
さすがにそれだけじゃ無理か。別方向から攻めていこう。
「はあ、それでどんな罪に課せられるの?」
「精霊樹との同化。」
「つまりどういう事?」
精霊樹は聞いたことがある。そこから精霊が生まれてくるらしい。
けどそれとの同化とか言われても私にはわからない。
「言ってもいいものか・・・・・・まあ良いか。
我々は住処を移動することに決めた。
人間の貴族に知れてしまったから今のすみかは安全だとは言えない。
だが、精霊樹を置いていくわけにはいかない。だから精霊樹ごと移動させる。
しかしそれにはかなりの力が必要になる。とても我々総出でも足りないほどの。
だからウィニーを精霊樹と同化させて力に変換する。
なにしろ精霊丸ごと一人分だ。それでかなり楽になる。
もともと我々は同族を消したいわけではないのだ。だが、仲間の平穏のためには仕方がないのだ。」
多数を助けるために一人を殺すか。
私自身としてはそれには賛同するけど、私がそんなことしたと知ったら茜はどう思うだろう?
・・・・・・・・・・・・
仕方ない。やろう。
「ウィニーの罪、私が買うわ。」
「・・・・・・・なにを言っているのだ?」
「さっき大量のお金を手に入れたの。それでウィニーの罪を買うっていうこと。」
そういってさっき金品を入れた袋を積み込んだ馬車を指す。
「我々は金品に興味はない。」
大量なのだがツォンは全く興味がなさげだ。
しかしあまねが言いたいのはそういう事じゃなかった。
「知ってる。だけど魔石ならそこから魔力として引き出せるでしょう。
それを買っていけばウィニーを精霊樹に同化させないですむ。
大量に必要だろうからお金も大量にいるだろうけど幸い私は大量のお金を持ってるし。
それに大量の魔石を売ってくれそうな伝手も紹介できるし。」
本来国の軍事費として入れるものだが問題はない。雇用に関しての権利もあまねは持っている。
さすがに額がでかすぎだが。
「それでは仲間が納得せん。ウィニーに対して何らかの罰を与えねばならん。」
ツォンはこの提案に乗りたかった。同族を殺さなくて済むならそれに越したことはないのだ。
だが、罪と罰はコインの表と裏のようなものだ。どちらも同じコインなのだ。
その二つが分かれることはない。
だが、それに対してもあまねは考えてあった。
「罰ならもう執行中だから大丈夫。」
「どこがだ?」
ウィニーが粗末に扱われてる様子もなかった。
「あの子はこれから私の奴隷になるの。」
「・・・・」
「もともとあの子は貴族に奴隷として捕まえられていてね。
だから隷属の魔法をかけられていたの。
それで城に戻ってから解いた方が確実だからってとりあえず私が主人になったの。
それがこれからずっと続くの。城に行っても隷属の魔法を解かずに。」
「人族の奴隷か。・・・・・・・・・・仲間も納得するだろうな。」
殺さないですむと分かった。それ自体は喜ばしいことだ。
しかしハーシーにはどちらがいいのか分からなかった。
精霊樹との同化か、人族の奴隷か。
精霊樹との同化はこの世から消えるという事だが、同時に名誉でもあった。
長く生き過ぎた精霊族が自ら同化する事もある。
だが、人族の奴隷はどうか。
そこには誇りも名誉もない。
ハーシーなら精霊樹の同化を選ぶのだが、果たしてウィニーはどちらを選ぶのか?
悩んでるハーシーに声がかけられる。
「まあ、全ての話は本人が精霊樹との同化と私の奴隷とどっち選ぶのか聞いてからだけど。」
別にハーシーが悩まずとも本人に聞けばいいのだ。
「選択肢をあげる。私の奴隷になるか、それとも精霊樹との同化を選ぶか。」
馬車へぞろぞろと皆移動してきてウィニーに聞いた。
その結果
「私は・・・・・・・・」
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「隊長、本当にあれでよかったんですか?」
「我々は皆同じ精霊樹から生まれてきた家族だ。
殺さずに済むというならその方法を選ぶさ。それに・・・・・・」
「それに?」
「三人とも同程度だと思っていたが違った。一人だけ別格だった。
あの集団と戦うっていう選択肢は今ではあり得ん。
向こうがやる気ならこちらは全力で逃げようとしても一人も逃げ切れんかっただろう。」
その隊長の言葉にごくりと唾をのむ。
隊長と同程度の三人がいるというだけで結構やばかったのに、
さらにその上の別格がいたというのだから。
「けど隊長よく気が付きましたね。同程度だと最初思ったってことは向こうは隠してたんでしょう。
それを見破るなんてやっぱり隊長はさすがです。」
「はは、ほめても何も出んぞ。・・・・・・・・わざとかもしれんし。」
「へっ、隊長なんて言いました?」
「なんでもない。さっさと魔石を買いに行くぞ。
いや、その前に応援を呼ぶか。さすがにこの量を持って行くのはつらい。」
「うす、呼んできます。」
わざと警告で自分の力を伝えてきた。
その可能性を考えながら自分の選択はベストだった、と考えるハーシーであった。




