飯のタネ
夜空に月が輝くころ
とある館の一室
肥え太った男の膝の上にまだ年若い一人のメイドが乗っていた。
肥え太った男の指がメイドの太ももの上をすべる。
もうメイドのスカートは腰のところまでまくれ上がって用をなしていなかった。
メイドは顔をしかめるも膝の上からはどかない。いや、どくことはできない。
そして男の指が
トントン
「旦那様、お客様がいらっしゃいました。」
「何、誰だ?それより誰も来させるなといっただろう。」
扉ごしにメイドに帰ってもらえと言った。今はお楽しみ中なのだ。
「それが、国からの使者だと言っておりまして。」
「なに?国からだと・・・・・・客間に通しておけ。わしは着替える。
それから適当に女でもあてがっておけ。」
「いや、それには及ばないですよ。貴族様。」
扉を勝手に開け放って一人の女が勝手に入ってくる。
中にいたメイドの姿に一瞬眉をゆがめるもすぐに表情を戻す。
「ああ、もう仕事に戻っていいよ。」
「はっはい。では失礼します。」
そして主人に断らずに勝手にメイドを退出させる。
肥え太った男は取りあえず膝の上に載せていたメイドに下がるように指示をする。
「ああ、その人は残っていても問題ないことです。」
止められてメイドはおろおろとしていたが、
肥え太った男が残るように指示しなおしたため部屋の隅で待機した。
「無礼だな。今何時だと思っている。」
「そうですね、来る時を間違えました。
人がたくさんいらっしゃる昼間か、ディシタリア様がいらっしゃるときに来れば良かったですね。
その方が手間が省けましたし。」
「っ、計画を知ったのか!くそっ。
・・・・・・いや、そこまで問題ではないな。お前を殺せばいいだけだ。
国からの使者だとか言って騙してここまで来て、ゆするつもりだったのだろうがそうはいかん。」
「落ち着いてください。実際に私は国の者です。」
女が落ちつけようとしたが男は全く聞かなかった。
「騙されるものか。者どもであえ、であえー!賊が侵入したっ!」
そういいながらポケットに入れてあった魔道具を地面にたたきつける。
部屋を閃光と爆音が満たした。要するに魔道具版フラッシュグレネードだ。
これで自分も行動不能になるが、相手も行動不能になる。
時間を稼いで衛兵が来るのを待つといった予定だった。
そして予定通り衛兵はすぐに来た。
主人は肥え太っているが衛兵は太ってなどいないのだ。当たり前だが
しかし誤算があった。
貴族の方にも衛兵という守りがいたように、女の方にも守る者がいたのだ。
衛兵たちはすぐに制圧された。
それも仕方のないことだ。
女の方は国の者達。
衛兵はたかが一領主が雇った者達。
ジョブからして違うのだ。衛兵の中には「樵」などという全く戦闘に関係のないジョブの者もいた。
それに対して女の仲間はすべてが戦闘系な上に、装備が違った。
一領主の手配するものとはけた違いに。それもそのはず。その装備はすべて勇者産。
圭吾がこっちの世界に来てから作ったものだ。
ようやく視界と聴覚が直ってきた貴族が見たのは制圧された衛兵の姿だった。
「であえ、っていつの時代よ。っていうか世界が違うし。」
女は当然戦闘不能になってなかった。
「ああ、挨拶してませんでしたね。こんばんは、あまねと言います。
非公開国属特別査問官官長及び非公式特別諜報員隊長、という仕事をしてます。」
やたらと長い役職名を一息でかまずに言い切ったあまねはにっこり笑って言う。
「通称は【貴族の天敵】です。個人的には悪徳貴族の敵っていう感じだと思うんですけどね。
ああ、そうだ。【悪魔】っていうのもありましたね。」
そう天使のような笑顔で言った。。
場所を移してこの館の主の書斎へ。
貴族の事を三人の黒いのが囲んでいる。あまねの部下だ。
その状況下であまねが自分の仕事について説明している。
「・・・・・というのが私の仕事なんですよ。分かっていただけました?
だから私は普段なら問答無用に潰すところをお金で解決してあげましょう、
っていう天使のような事をしてるんですよ。」
そのあまねを貴族は悪魔でも見るように見ている。
まあ、そもそもあまねたちが調べなかったら発覚してなかったかもしれないので天使ではないが。
「じゃあ、こいつをやろう。こいつはなかなかレアな奴隷だぞ。」
さっき膝に乗せていたメイドの事を指さして言う。
「そんなことで済ますつもりですか?」
あまねが拒否しようとしたので慌ててアピールする。
「こいつはな、精霊族なんだよ。
精霊族、知ってるだろう?うまくやればこいつから精霊の加護をかけてもらえるかもしれないぞ。
どうも私はうまくやれなかったみたいで無理だったが、私の罪の分の代金にはなるだろう?」
「精霊の加護ですか。そうですね。精霊の加護は便利ですよね。」
ちなみに精霊と精霊族は別に存在する。
精霊族は人とあまり変わらない大きさと容姿だが、
精霊は不定形だったり、獣の姿だったりとその姿かたちは様々で全くの別物だ。
「そうだろう、そうだろう。むしろ私の罪の代金を引いたおつりが欲しいぐらいだ。」
精霊族の奴隷は高い。
総じて見目麗しいうえに、長寿で長い事飼える上に容姿もきれいなまま。
その上に加護や希少であるという事がのって、精霊族の奴隷は恐ろしいほど高額で取引されていた。
そんな精霊族の奴隷を所有していた貴族は調子に乗っているがそうはいかない。
「ですが、その人が違法奴隷であるという事は分かっています。精霊族だとは知りませんでしたが。
解放するのは当然です。」
「・・・・・・・・・・・・・そうか。」
その後、貴族はおとなしくお金を払った。
私達がやっているのは国の公認とはいえ、
裏取引のようなものなので他の人の手を借りることができず、私と部下の三人で運ぶことになった。
重かった。
こっちの世界のお金には紙幣がない。
そして今回の貴族の罪はディシタリアという隣の領地の貴族と手を結んで、
精霊族狩りをしようと計画していたという事。
精霊族は一生に一度、精霊の加護を与えることができる。
その精霊族たちを捕まえて無理やり加護をかけさせるつもりだったとか。
これは精霊族との関係悪化を招くので計画だけでなく実行していればかなりの重罪だ。
だから今回支払われたお金は大量だった。
宝石などの価値のある物も交じっているとはいえ、基本は金貨だ。すっごく重かった。
私、他の勇者とは違って超人じゃないんだから。
裏技的なのでまあまあ強くなったけど。けど冒険者で言うとスペック的には中堅ぐらいじゃないかな。
技術でもうちょっと行く自信はあるけど。
「ちょっと重いなあ。」
思わず独り言。けど聞いてる子がいた。
「あまねっ、私がもっと持つよ。」
「ありがとう、けど今も私より多く持ってるでしょ。年下にこれ以上持たせるのはちょっと、ね。」
この元気っ子はスザ。獣の耳としっぽが生えているの女の子。狼と犬の中間ぐらいかな。
この世界には獣人という確立された種族はいないんだけど、
たまにスザのように獣の特徴を持った子が生まれてくることがある。
スザはそのせいか普通の人族に比べて力がかなり強い。ジョブは「凶獣」。
「凶獸」というジョブと獣の耳としっぽを不気味に思った両親に捨てられて冒険者として働いてた。
まあ力が強いといっても所詮戦いの素人でしかなかった彼女は、
貴族に目をつけられて隷属の魔法をかけられた。
そこから救い出したらなんか懐かれたので部下として働いてもらってる。
ちなみに隷属の契約魔法は一般的なものでとりあえず主人を貴族から私に変更して、
後で解こうとしたら、なぜか解けなかったので(実は隷属の魔法の解除に本人が抵抗したため)本人の希望で私が主人のままになっている。
スザの戦い方が格闘だったため指導したら、私ではもう格闘で勝てなくなってしまった。
会ったころはどうにか力の差を技術で押さえれたんだけどなあ。
「じゃあ、付与魔法かけます?」
「うーん、お願い。」
「あっ、なんでっ!私の手伝いは受け入れなかったのに、マリエルだけずるい。」
「いやね、これ以上スザの負担を増やすのはどうかと思ったんだよ。」
「わたし全然負担になってないよ。楽勝だよ。あまね私の力知ってるでしょ。」
「いや、そういう事じゃないんだけどなあ。」
「彼の者に力を【ブースト】」
うん、軽くなった。
マリエルには一応、人間の振りをしてもらうため、普段は人間の魔法を使うようにしてもらってる。
魔人だってばれるといろいろ面倒だし。
「スザ、もう私軽くなったから大丈夫だよ。マリエルありがとね。」
「えー」
「お安いご用です。」
ちなみに付与魔法をかけてくれたのはマリエル。
魔人だ。魔人っていうのは魔物から人になったもの。マリエルは見た目はまんま人族の女の子だ。
どういう条件かわからないけど魔物はごく稀に人になるらしい。
現在確認された魔人はマリエルを除くと二人だけだし。まあ、その人達はもう死んでいるけど。
なぜ魔物が魔人になるのかっていうので予想してみたんだけど、強さだと思う。
ある一定以上の強さになったら魔人になるんじゃないかって。
それが本当か嘘かわからないけどマリエルは強い。私の直属の部下の中では最強。
どれぐらい強いかと言うとこの世界で異常ともいえる強さの勇者とも普通に戦えるぐらい。
そんなに強いのに見た目はまんま人族の子供だけど。
ちなみに魔人にジョブはないみたいだ。
マリエルはドライアドから魔人になった。
それでこれまた懐かれてるから私の部下に。なんで懐かれたのかは不明。
ドライアドから魔人になるとこに遭遇してそれからずっとついて来てる。
もしかして刷り込み?インプリンティング?
まあ、ないか。
っといつの間にか持っていた荷物が半分になってる。
といっても落としたとかひったくられたとかじゃない。
街中とかではひったくりとか気を付けないといけないけど、今まで誰ともすれ違ってないし。
そして落としたとかでもない。
荷物が半分になった理由分かってるし。
「ターニャ、付与魔法かけてもらったから大丈夫なんだけど。」
話しかけても黙々と前の方を歩いてる。口下手な子だからね。
今みたいに荷物持ってくれたり優しい子なんだけどね。
少し早歩きして追いついて荷物をもらおうとしたら、その分だけターニャの移動も速くなる。
あー、これは無理だね。あきらめよう。
ちなみにターニャは人族の子供。
「暗殺者」と「諜報員」の二つのジョブを持っている。
どうもこの世界ではジョブレベルが上がると身体能力とかに補正がかかるらしい。
それで、ターニャは二つのジョブを持ってるから二つ分のジョブの補正がかかるっていうわけ。
ちなみに出会いはターニャが私を暗殺しに来たことだった。
寝てるとこに殺気を受けて対応しようとしたけど、
既にナイフを振り下ろされ始めていたから間に合わなかったんだけど、
朱里がいつの間にかかけていた防御結界に阻まれて体勢を崩していたところを捕まえた。
どうも「暗殺者」も「諜報員」もタフさをあまり補正してくれなかったみたいで助かった。
その後、ターニャを赤子の頃から暗殺者として育てて手駒として扱っていた貴族を潰したら、
ターニャが無職で身寄りもなくなったから私が雇った。
今では私が行動する時の情報源はターニャだ。
まあ、色々あって今はそれなりに懐かれてる。
おや、また荷物がなくなった。というか残り全部なくなった。
「スザ、それ持ってかれると私が運ぶ分なくなっちゃうんだけど。」
「だってマリエルも、ターニャもあまねの役に立ってるのに私だけってダメだよ。」
「いや、私、今、はたから見たらすっごく情けない人なんだけど。」
子供に荷物を持たせて自分は何も持ってないという。
それに傍から見ても分からないだろうけどマリエルに付与魔法もかけてもらってるし。
荷物は持ってないのに、子供に付与魔法かけてもらってるってもうね。
まあ、実態はこの三人とも個人戦力としてはこの国の最高ランクなんだけどね。
スザとターニャは分かりやすく言うと近衛騎士の騎士団長並み。
あの騎士団長は、勇者である高次が戦いに慣れてなくて、さらに心に隙があって、
人を切ることが初めてで躊躇があったとしても、ルール上では試合に勝った。
つまりほぼ人外と言ってもいい勇者に届きうる存在。それと同レベル。
ターニャはその勇者と同等ともいえる存在。いや、もしかするとそれより強いかも。
あっ、私除く。私も一応勇者だけど、そこら辺の冒険者と体のスペック変わらないし。
そんな三人がスライム討伐とかに行ってないのかというと三人がごねたから。
スザ曰く、「わたし魔法使えないし。」まあ、もっともな意見だった。
魔剣ならぬ魔手甲を使えば戦えなくもないけどスライムは酸も吐くからね。
超接近戦はやめた方がいい。
マリエル曰く「私は人に嫌われてるから集団行動を前提にしたスライム狩りには参加できない」とのこと
魔人は人になるまでの魔物の時に人を大量に殺してる場合が多い。
だから人に嫌われている。そして、今のスライム狩りは勇者以外は集団で戦う。
勇者並みの存在である彼女は一人でも参加可能なんだけどね。
まあ、実際に行ったらいろいろと騒動が起こる事が予想できるから、しょうがない。
ターニャ曰く「・・・・・・・・」
・・・・・・
どうやら行く気はないらしい。
ターニャが本気で隠れたら多分誰も見つけられないから無理強いはしない。
うん、これだけの戦力をお金稼ぎに使うのはちょっともったいない気もするけど、
結構大量に戦利品を手に入れてるからいいよね。
「あの、私何処に向かってるんでしょうか?」
あっ、メイドに説明するの忘れてた。




