全てが腐りゆくこの世界で
「この世界にはヒーローなどいない。幸せは自分で勝ち取るものなのだ。」
――by,とあるアニメーター
目の前を黒猫が通った。
私は無意識にそれを目で追っていた。
「ほらボーっとしてないでおいてくよ。」
どうやら足が止まってたみたい。
「あまねちゃん待ってよ~」
置いてくとか言いながら数歩先で待っててくれてるこの優しい子は私の幼馴染のあまね。
学業優秀、容姿端麗、運動神経抜群なうえに性格もいいと完璧な子だ。
天は二物を与えずとか絶対嘘だね。
ああけど違うね。
あまねは努力して今の状態になったんだから天から与えられたとか言ったら侮辱になるよね。
「それで茜はなにに気を取られてたわけ?」
私が追いつくと遅れてた理由を聞いてくる。
「ごめんごめん、ねこさんを見てて。」
「もう中学二年生よ。なのにねこって、
はあ、猫に気を取られて交通事故に遭ったりしないでよね。」
「さすがにそれは大丈夫だって。」
「どうだか。」
うー、微妙に馬鹿にされてる気がするけど反論できない。
私は完璧な幼なじみと違ってダメダメだ。
チビだしすぐに泣くしおっちょこちょいだし勉強もそんなにできない(赤点は何とか回避してる)。
はあ、あまねちゃんみたいになりたい。
「じゃあ、私は買い物してから帰るから、また明日。」
「うん、じゃあね~。」
あまねは家事もしてるから大変だ。
はあ、あまねは遊べないし何して過ごそう。
そうやって考えてる私の前をさっきの猫が横切って行った。
そうだ、暇だしあの猫を追いかけて行こう。
「ねこちゃーん、まってー。」
私はそうして黒猫を追いかけて行った。
行ったはいいんだけどここはどこだろう?
よし、情報を整理しようか。(←幼なじみのまね)
黒猫を追いかけた。
↓
夢中になって追いかけた。
↓
現在位置がわからない。(←今ここ)
うー、これじゃあなにもわかんないよ。
うう、やばい涙出てきた。
じゃあ今度は周りを見て情報を収集しよう。
まわりは・・・・・・・なにこれ。
さっきまで冷静に見てなかったけど明らかに周りがおかしい。
犬がいる。
肉が腐っている犬が。
ねこがいる。
肉が腐り落ちて骨まで見えちゃってるねこが。
うう、なにここ。
「あまねー、たすけてよー。」
もう完全に涙声だ。
けれど助けはない。当たり前だ。
あまねは多分今頃家で夕食を作ってるぐらいだと思うし。
そもそも私がこんなことに巻き込まれてるなんて知らないし。
あまねはいつも泣いてるだけで何もできない私を助けてくれた。
小学生時代、よく泣く私は男子のからかいの的だった。
けどそんなときいつもあまねが追い払ってくれた。
中学時代、私がよっぽどカモに見えるのかよく不良に絡まれた。
そんなときいつもあまねが助けてくれた。
高校に入ってから、私は一回コンビニ強盗に巻き込まれたことがある。
その時もあまねが解決してくれた。
私にとってはあまねはヒーローだった。
けど今回はさすがにあまねの助けはありそうにない。
そのことを認識すると私は恐怖で足がすくんだ。
ここから脱出しなきゃいけないのにとても動けそうにない。
私は泣いてるだけで何もできない。
どれぐらい時間がたったんだろう。
おなかは減ってないからたぶんまだそれほど時間は経ってないのかも。
私の体が腐り落ちてきた。
さっき見た動物みたいに。
こわい、涙が止まらない。
「あまね、たすけてよ」
無駄と知りながらも言ってしまう。
ここに来てから幾星霜。
私はやっとこの状態から解放されるみたい。
ここでは体が完全に腐り落ちるまで意識が保たれる、いや保たれてしまうみたい。
それに涙が止まらない。
かれこれどれだけ経ったのかわからないけどさすがにこれだけの間涙が出てくるなんてありえない。
いやこの状況自体があり得ないんだけど。
涙は止めようとしたんだけどこの場所がなんなのかわからない不安や恐怖、あまねにもう会えないという悲しみ、その他もろもろの絶望から止まることはないみたい。
それに不思議なことに絶望したりしてるんだけど、頭のどこかに冷静な思考があるみたい。
妙に頭がさえてるような。
まあもういっか。何も考えないで。
多分もうすぐ私は死ぬし。
あーあ、やりたいこと出来なかったなあ。
「あ・・・ま・・・・・・・ね」
ばいばい