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並んで歩いていた基之の足が止まった。

 その視線の先にいる若者の集団を見て、ちょっと嫌な顔をしたのを兼は見のがさなかった。基之と言う男は相手がどのような人間であっても、まずは好き嫌いを顔に表す類の人間ではない。そこが自分とは違うと兼は思っている。おそらくそれが育ちの良さというものかもしれないが・・

 それが、前から歩いて来る連中にたいして露骨にいやな顔をして見せたのだ。

 しかも、相手も同じであった。中の一人がこれも露骨にいやな顔をして近づいて来る。「典雅」と呼んでもよいような顔立ちの若者はそれでも、基之に頭を下げてきた。


「基之小父、お久しゅう・・相変わらずお元気そうでなにより」

「おまえもな。うちへは帰っているのか?遊び歩くのもいい加減にせよ」

「小父上のように優秀に生まれついて来なんだゆえ、こうでもして時を費や

しておらねば、仕方ございませぬ」

「お前のように遊び歩いていては、生きては行けぬゆえだ」

「御冗談を、春宮さまのお気に入りで、切れ者と言われる第一のお方が」

「嫌みを言うな、孝臣」


 典雅な顔立ちのくせにどこかくすんだようなところがある若者を、兼は後ろで腕組みをしながら見ている。若いくせに大層よい太刀を持っているのが目を引いた。よほど羽振りの良い家の子だと思う。


 藤原家一族で今羽振りが良いと言えば、たしか以前西国のどこやらの国司であったという公家があったのを思い出した。

 藤原公孝・・そのような名であったか?

 兼の視線に気がついたのか孝臣は負けん気の強そうな顔でにらみ返してくる。きっとわがままいっぱいに育ったことだろう。


「お前の家はこのあたりではなかったか?」

 このあたりは結構大きな屋敷が並んでいる。

「そこ・・」

 孝臣が顎で示した先の屋敷はこのあたりの屋敷の中でもかなり目を引くほどの大きさであった。

「お前、この家の嫡男であろうが・・少しは考えよ」

「はいはい、わかっておりますよ。優秀な小父上」

 鼻で笑うようにして孝臣は二人とすれ違い、屋敷の中へ消えて行った。

「ったく・・甘やかし放題にするゆえ、あのようになるのだ。先が思いやられるぞ」

「いや、耳が痛いなあ・・俺も昔、そう言われていた」

「おまえは、芯が通っていたからな。どこか俺達とは違うところを見ていた」

「そうでもない・・どこを見ていたのかな、俺は・・」

 笑う兼に基之は何かを思い出したように言った。

「兼、薫子どののことだが、「薫風丸」に気をつけられよ、と言ってくれ」

「それほどの噂になっているか?」

「ああ、宮中の女官までが知っている」

 薫子が名刀「薫風丸」を所持している話はかなり流れているのだろう。

 先々代の帝の愛された太刀は反逆者として都を追われた人の手から、薫子へと渡されて、誰とはなしに好事家の噂を呼んでいる。それを見たいと結構な数の貴族たちが兼の許へも、後ろから言ってきている。

 むしろ、本人の薫子だけがそれに無関心でいる。子供が新しいものをもらったように喜んでいて、危険の文字はまるで頭にないのだ。

「狙ってこねばよいが・・」

 ぼそっと言った兼と基之の足が同時にとまってしまった。


 また、向かいから知った顔がやって来たのだ。

 白い水干姿で、髪を束ねて人目を引くほどの少年・・

 薫子かと思ったほど似てはいたが、それは、あの西国から来た人。

 

 水軍のおんな頭領、「頼子」であった・・

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