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遊侠美少年たち


蜀錦の袋に包まれた「薫風丸」を袖のうちに大切に抱えて鮎女は如月家へ帰ろうとしていた。

「行かずともよい」

 と薫子さまは言ったけれど、どうしても鮎女はそうしたかったのだ。


 その太刀を初めて見せていただいたとき、何もわからない鮎女でさえその太刀が持つ気品というものに触れた思いがした。さる高貴な身分の方が姫さまにお渡しになられたと聞く。それはきっと、姫さまのお手にわたることをその太刀が自ら選んだのではないかとさえ思えたほどであった。それほどそれは姫さまに似あいの太刀であったのだ。

「薫風丸」

 その太刀に似合う名は、姫さまのお名そのままであった。


 薫子ひめの側近くに仕えてきて早十年近くになるだろうか・・

 本当の姉妹のようにして、接してくれる姫さまは鮎女にとって自分の命よりも大切なお方であった。そして、その兄上様も・・・

 身分違いなんてものではない。でも、いつのころからかそのお人の姿がまぶしくて、その声が聞きたくて・・何もないのに、ふっと泣きたくなるような・・不思議な思い。

 その方の声が「鮎女」と呼んでくれるだけで緊張するほどになっている。


 足早に歩いていた鮎女は前に、ふさがるように立った人に驚いた。

 今、思っていた人にどこか似ている、あった覚えのある貴公子が立っていた。


「どこぞで、逢うたな・・」

 優しげな顔立ちの、どこか兼に似た人・・頭を下げた鮎女はしかし、どこかでいぶかしんでいた。

「それ、あのときの女子が持っていた太刀であろう?少し見せてはくれぬか?」

 その貴公子が持っている太刀もまた、見事な作りの物ではあったが。それでも、「薫風丸」の飾り一つない造りでありながら発せられる優美さには程遠いものであった。


「できませぬ・・これは、当家の姫さまのみがお手にすることを許された太刀でございますゆえ・・」

「それは、「薫風丸」であろう?たしか、如月家の「鬼姫」が所持すると聞く」


   「鬼姫?!」


 そのような呼ばれ方をうちの姫さまはされておいでであったのか?

「ああ、許せ。俺は藤原孝臣ふじわらのたかおみ。名高い太刀が女子の手に渡ったという話を聞いたのでな。見せてもらいたかったのよ」

 藤原孝臣と名乗った人は、基之さまのご一門なのだろうかと、一瞬考えた。

 それならばこの人の太刀がみごとな造りであっても不思議ではない。


「わたくしは、ただの使用人でございますゆえお見せすることはかないませぬ、もしお望みでございましたなら当家へ参られまするか、それとも、基之さまをお通しくださいませ・・」

 鮎女のこの賢さを如月家の兄妹は愛している。ただ、それが裏目に出ることもあるのだが・・・

 頭を下げてその場を離れてゆく鮎女の後ろ姿を見送っていた孝臣のそばへ近づいて来た若者が数人。笑い声を上げた。


「孝臣をして落ちぬ女子か?さて、どうする?あの太刀手に入れたいものよなあ・・」

 

 このころ、良家と呼ばれる家の貴公子の間で流行っていたのは珍しい太刀の収集であった。

「あの女子、基之叔父の名を出して来た。まずいな・・」

「基之どのとは、あの春宮武官のか?」

「そうだ、若いが切れ者と評判のな・・俺は、あのお人が苦手なのだ」

「お前は、見てくれと違って、悪ゆえなあ」

 ふん、と鼻で笑って鮎女の姿が辻を曲がるまで見ていた孝臣は、何かを考える風にして歩き出した。その太刀を手に入れるために何をするべきかを探りながら・・・

唐代の遊侠美少年達とは少し違いますが、どっちにしたところで碌でもない?

ちょっと違うか?そんな貴公子たちが出てきます。不良少年と言うほどの意味です。

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