女豪傑
その同じころ、薫子は「頼子」と名乗った女を連れて、お吟の館にいた。
「都の美しい殿方が見たい!」
という望みを叶えるためだった。
不思議なことに、薫子と頼子は何故か、気があってしまった。
どこか似ている二人なら、反発しあうか、引きあうかどちらかであろうがこの二人は惹きあってしまったらしい。歳は頼子のほうがいくつか上のようではあったが、あの「泥棒市」でのけんか騒ぎはお互いの実力を認めたようなものであったのだ。それがよいのか、悪いのかはこのさい問題にしてはいない。
ここにはそれこそ美少年達が何人もいる。入れ替わり立ち替わり現れては二人をもてなしてくれる。
「薫子さまの兄上も、お美しゅうございますが、やはり殿方も美しいお方がようございますねえ」
「いえ、兄さまは危のうございます。見てくれは良いようでございますが、さるお方に「薄情者」と呼ばれた身でございますので」
「でもそう呼ばれる殿御もまた、素敵」
そう言いあいながら、けろけろ笑う二人にお吟は少し引いている。
二人して、飲むわ飲むわ、側についている少年たちが大喜びして相手をしているが、同じような姿をしているだけに彼らには男に見えるのかもしれない。
白い水干に長い髪を束ねただけで、それでも二人の美しさは際立っている。
(・・けど、ええのやろか?まるで、女豪傑やん・・薫子ちゃんくらいやと思てたのに・・豪傑が、増えてしもた・・)
そのうち今度は誰かが出してきたはねつきを始めてしまう。
少年たちに襷をかけてもらい一騎打ちになる。
「わたくし、はねつきで負けたことございませんのよ。頼子さま、お覚悟」
「まあ、わたくしもです。返り討ちにして差し上げましてよ」
客のいない昼間だからいいものの、とても良家の子女のやる姿ではない。
ましてや、負けた方の顔には墨でいたずら書きがされてゆくという、念のいったことになっている。
これを、大騒ぎと言わずして何と言うだろうか?!
(ははは・・・頭、いたいわあ。兼にばれたら絞め殺されるかもしれへん・・)
負けた方が飲む条件で、盛り上がった二人がぱったり倒れこんだのはもう夕方近くになっていた。
(ったく・・とてもやないけど、これで姫さんやと言われてもなあ・・)
室内へかつぎ込まれて幸せそうに寝息を立てている二人を見ながら、お吟はため息をつく。その顔には墨で書かれた落書きが・・・当然、お吟も巻き添えを食ったのである。いや、この館の少年たちも全員同じ目にあっている。
ここへ、兼と基之、そして綺羅と名乗る高明の三人が現れたのは灯が入ろうかという頃のこと・・
三人の視線が一斉に自分を見て笑いをこらえたのがわかった。
案内した部屋で、薫子と頼子は寄り添うように眠っている。
「この酔っぱらいが!起きぬか?!」
「ばばさま!屋敷へ帰りまするぞ!」
それぞれ起こされても、まだ、ぼうとしている二人。
その兼のほうへ向かって頼子が手を伸ばした。思わず掴んだ手はそのまま伸びて兼の首筋に絡みついた。
「兄上様は、お美しいお方でございますなあ・・なれど、水軍の男もようございますよ・・」
にっこり笑った顔が酔っぱらいとは思えないほど、強い目をしていて兼の心を惹く・・
兼が薫子を背負い、基之が頼子を背負って帰った日、お吟の館には薫子の薫風丸が残されていた。それが、この一連の事件の発端となることに誰も気づかないそんな夜のことであった・・・
羽つきって、起源は江戸だったけ?考証せずに書いてしまいました。間違っていたら済みません。




