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薫子・「ばばさま」を拾う


ここ数日、兼と基之は洛中のあちこちを歩き回っている。


 行方不明になっているという、水軍の女頭領であるばばさま探しをしているのだ。最終的にいやいや基之が兼を連れて行ったのはあの「泥棒市」であった。

「こんなところにばあ様が来るか?」

「来る。あのばあ様なら・・」

 いやに、きっぱりと言い切った基之がおかしい。つい笑ってしまった兼に面白くもなんともなさそうな顔をして、にらんでくる。

「いや、知っているわけではないがこれまでの逸話を聞くと、どうも好奇心の塊のようなお人らしい」

「そんな年でか?」

 歩きながらも兼の目は並べられている品物の上を流れてゆく。

 しかし、大したものは置いてないようだ。

 そのうち、基之の脚は一つの小屋の前で止まり、あたりを見回してから、入口らしい莚のかかった中へ身をすべりこませた。続いて兼も入る。

 奥は外で見ているよりも広い。しかも、いくつもの葛籠が積んであった。

 そのそばに数人の男たち。あまり人相は良くない。

 その中の一人がこちらを見るとその男たちに去るよう言ったようであった。

 異国の風体のその男は、基之よりも後ろからついて入って来た兼にきつい視線を当ててくる。

「さて、藤原家の貴公子が何用あってここへ?」

「あなたに聞きたいことがあってな、高明たかあきらどの」

「その名はやめよ。ここでは綺羅と呼ばれている」

「何と呼ばれようと、あなたが俺の兄弟であることには変わりなかろう」

 嫌そうな顔をして綺羅こと高明は基之に座れと言った。

「そこの奴は?」

 連れの兼を不審げに見ている。

「どう見ても、まっとうではないであろう?しかも、並のものではない・・できれば、喧嘩は避けたいところだな」

 兼の技量を読むほどの奴である。相手の力量を読めぬほど喧嘩を仕掛けてくるものだ。綺羅はそれを読んだ。それなりに使えるという自負もあるのだろう・・


「天寿丸」

 応えた兼を綺羅はおもしろそうにみて笑う。


「で、お前の要件は?」

 綺羅は基之の話を聞こうとしていた。その場に座ったふたりはそれでも、外に何人かが身を潜めてこちらの出方を窺っていることに気がついていた。

「西国からばばさまが出てこられた。が、都で行方不明になってしまわれておる」

「ばばさま?あの、水軍のか?」

「そう、おそらくは、ここを目指してくるはずだ。知らぬか?」

「そう言われてもな・・こんなところでばあさまなんぞ見てはおらぬ」

 普通、まともに生きているものならばこんなところへは来ない。

 ・・・はずである・・・

 その、綺羅の頭をよぎったことがある。確か、旅姿の若い女と水干姿の女

「旅姿の女ならば見ているが、あれは、どうみてもばあさまではなかったぞ。男を蹴り飛ばして逃げたが・・そう言えば、扱っている奴に会わせろとか言っていたようだ」

「どういう奴だ?」

「だから、二人、別嬪であったぞ。名は「薫子」と「頼子」と」

 基之と兼が思わず顔を見合わせる・・何故、ここで薫子の名が出てくるか?

 しかも・・・

「頼子、と名乗ったのか?」

 基之の困惑が隠せない・・宙を見上げて、何かを整理しようとしているようにも見えた。

「綺羅、頼子と言うのは、ばばさまのお名よ・・」


 ここで、兼と綺羅野の口から同時に出たのは

 「はあ?!」

 驚きとも困惑ともつかない言葉であった・・・



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