やつあたり
頼子が西国へ帰ると聞いたのは、それからしばらくしてからであった。
「何にせよ、水軍として抜け道は閉ざしたから、もはや都にようはなかろうさ。こののちは表だって動かずとも、基之が差配するそうだからな」
「綺羅どのにうま味はありますのか?」
「まあな、一応藤原の出ゆえ、そこは持ちつ持たれつと言う奴よ」
あの基之ならば、こなしてゆくのだろうな・・宮中に仕えながら一方で水軍とつながりを持つという、難しいことをやる人なのだ。
そして、頼子・・
あの時、自分が斬ろうとしていた貴公子がまさか、頼子の弟であるとは思いもしなかった。鮎女のことばかりで他を思うゆとりすらなかった。
心痛めたのは自分だけではない・・どこでどうなったのかは分からないが、あれが弟であるのなら、頼子は自分の血縁を暴きに来たようなものではないか?そのために、公孝卿も都を離れたと聞く。
それもこれも、すべて自身でやったこと。そう頼子は決着をつけたのだろうか?
「頼子どのにせよお前にせよ、なぜそこまで肩に力入れて生きるのか・・男と対等には生きられぬのに」
「わかっております・・ただ、いぜんあるお方が申されました。「強う生きられませ」と・・」
「強く生きるのは、つらいことぞ・・一人で泣かねばならぬ・・」
「綺羅どのもですか?」
「そうだ・・」
「いつか、遠い末の世で女子でも泣かずに生きられる時が参りましょうか?」
「来るやもしれぬな・・したが、強き女子ばかりでは世の中味気ないであろうな。たまには男にすがって泣くような可愛げがなくてはな・・」
そう言いながら、綺羅は笑う。
「まあ、やつあたりだけはやめよ。頼子どのが悪いわけではないのだから」
見抜かれていた・・
そう、あの貴公子が頼子の弟であったことが許せなかったのだ。頼子には何の責任もないことなのに・・
互いに大切なものを失った。以前には戻れないかもしれないが、少しくらいなら、また近づけはしないだろうか
子供のような自分のこのやつあたりさえなければ・・
今回短いです。




