泥棒市
「だからついて来るなと言うたのじゃ・・」
薫子は自分の着物の袖をしっかりつかんで離そうとしない少女に困って呼びかけた。
「いいえ!ついてまいります!ここで姫さまとお別れしては鮎女が若様に叱られまする!」
「いや、兄さまはそなたをここへ連れてきたことのほうが、お叱りになるぞ」
家人達には内緒で出てきたつもりだったのに、出がけにこの少女、鮎女に見つかってそれからここまで腰が引けているくせについてきてしまったのだ。
誘いに来たのはお吟である。まさかこのままついて来るとは思いもしなかったが、とうとうここまで来てしまった。
ここは、俗に言うところの「泥棒市」である。
怪しげなものから希少なもの、食べ物もあればいきものまで売る。
(もしかしたら、聖徳太子、三歳の時のシャレコウベなどというものもあるかも・・?)
粗末な小屋がたくさん並び、そこには胡散臭げな、いかにも強面な連中がたむろしている。
その中を水干姿で薫風丸を背負った薫子と異形のお吟、そして半分泣き顔の鮎女が歩いて行くのは、それらの目をひいていた。
時折立ち止まり品物を手にしてお吟と何かを話す薫子を男たちは興味深げに見ている。それはまるで、値踏みするような視線である。
それに気が付いているのかどうかはわからないが、少なくとも鮎女にはそう感じられたのだ。
典型的な美少女顔ではない。むしろ少年の凛々しさを見せる薫子は一種独特な雰囲気を漂わせる。それが、人を惑わせるのだが・・
余りに怪しげな連中ばかりで気もそぞろだった鮎女は少し離れた所からこちらを見ている四、五人の若者に気付いた。その若者たちの視線が薫子と背負った薫風丸とを行ったり来たりしている。その中の一人が鮎女は気になった。
(似ている?・・兼さまに・・?)
どこが、というわけではない・・なんとなく雰囲気がそのような気がするのだ。ただ、兼の持つ涼やかなものではなかったけれど・・その人が自分を見てふっと笑ったような気がした。
「どうした、鮎女?」
どこか違うところを見ている鮎女に問いかける薫子に手を掴まれて振り向いた時には、お吟が笑っていた。
「鮎女ちゃん、気つけなあかんよ。こんなとこに出入りするようなええ男は、ろくなもんやないさかいな。ま、女子もやけど」
「それ、私のこと?」
先日、遊びに行ったお吟のところで「夜光杯」というものを見せてもらった。不思議な色めの杯に魅せられて、それを扱ったところへ連れて行けと半ば脅した?薫子を兼に内緒で連れて来たのだ。
まあ、女に見えないところがこの子のよい所?としても鮎女はどう見ても女の子である。何かあった時は兼にどうされるかわかったものではない。
さっさと、引き上げようと考えていたその前で、騒ぎは起こった。
屈強な男たち数人に囲まれて年若い女が何かを言っている。
ひるむことのないそれは、凛としたどこか薫子に似た雰囲気の女。
「だから、これを扱っておる者に会わせよというておるのだ!」
(まずいな!!)
お吟が思ったより早く、薫子が動いていた。




