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思惑(おもわく)


 兼がそのことを基之に話したのは、頼子の動きを察知したからである。


「そうか・・・公孝卿が頼子どのの・・」

「どうする・・?捨ておけばあのお方のこと、何するやらわからぬが・・」

 藤原公孝がこの横流し事件の黒幕らしいこと。それを売りさばいたのが息子である孝臣であること。しかも、その孝臣がどうやら薫子の「薫風丸」にも関わっていること。とどめが、藤原公孝が頼子の親であるという・・

「藤原家ではこのこと、表ざたにはしたくないのであろう?」

「そうだ・・だからお前に頼んだ・・」

「我らと、水軍と両方につつかれて公孝卿がどう出るか・・」

「それ以上に問題は、あのばばさまよ・・」


 二人の話を同席している薫子は黙って聞いていた。

「「薫風丸」を持って行かれたのは、頼子さまの弟君になられるお方でございますか?」

 その問いに基之は座りなおして、薫子に頭を下げた。

「すまぬ、薫子どの。「薫風丸」は必ず取り戻すゆえ、今しばらくは・・」

「いえ、大丈夫でございます。あれは、必ずわたくしの許へ返ってまいりますゆえ・・」

(と言うか・・取り返しに行ってやる!!)

 澄ました顔をしているが、薫子は心に決めていた。それを読んでいるように兼は妹の無鉄砲な所を案じてもいる。

 それと同じことを考えていたのは、廊下の隅に控えていた鮎女であった。

(私が取り返さねば・・姫さまより早くでなければ・・)

 まさか鮎女があんなことになるとは誰も思いもしない時であった。

 その翌日、鮎女はその藤原公孝邸を目指して外へ出た。


 そして、その藤原邸にはその日美しい女人が客として現れていた・・

 見るからに強面そうな男二人を従えて、その人は公孝卿を待っている。

 ほどなくして現れた公孝卿はそのたたずまいをいぶかしんだ。

 どう見てもただものではない・・顔を上げた人を見てどこかで会ったような気はしたが、すぐに気の迷いだろうと打ち消す。


「みごとなお庭でございますね・・」

 広い庭には大きな池、そこには小舟さえも繋いである。

「どこであったか忘れてしまいましたが、小さな家に住んでおりました・・それでも両親に可愛がられて幸せな子供時代でございました・・」

 何を言い出すのかわからぬままに、公孝卿は同じようにして庭を見る。

 屋敷の奥の方から何やら、うるさい声がしたがそれはすぐに聞こえなくなった。

「わたくしの父は国司として西国へ赴いてから、人が変わってしまいました

。人間、欲に目が眩むと何をするやらわかりませぬな」

 えっと言う顔をして、頼子を見直す人に、水軍の長の顔になった人は懐から布に包まれたものを出し、公孝卿の前に置く。

「これがおわかりでしょうね。忠告に参ったのです、危ないことはおやめなされと・・」

 はらりとといた包みから現れたのは夜光杯・・しかも、一品中の一品であった。

「もう充分欲は満足されたのではありませぬか?これ以上はおよしなされ」

 頼子と夜光杯を代わる代わるにみて公孝卿の顔から血の気が引いた。

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