水軍の本性
「薫風丸」が行方知れずになったのは、弟・小竹のせいだと鮎女は自分を責めていた。それを知っている薫子は決してそのことを責めはしなかった。
「案ぜずともよい。あれは必ずわたしの処へ返ってくる」
むしろ、こちらを気遣い慰めてくれるほどだった。
そんなお人だから、なお鮎女は心が痛む・・
あの太刀を気にしていた人物を鮎女は一人だけ知っている。
確か、藤原孝臣と言った。あの兼さまにどこか似ているような気がした貴族の若者・・
(まさか、あのお人が小竹に・・・)
自分が「如月家」のものだと知る相手なら、小竹のこともすぐに知れるだろう。自分が行って取り返すしかない・・鮎女はそう思いつめるところまで行っていた。
検非違使として、兼は頼子や綺羅に監視の目は付けていたが自分の身うちにそうすることは考えてはいなかった。それが甘かったと思ったのは後のことだったのだが・・
薫子の太刀に興味を示した若い男がいたのは、あの日鮎女から聞いていた。
その若者が西国から入ってくる品を泥棒市へ持ち込んできていることも綺羅から聞いている。しかし、それだけで検非違使庁へ引っ張るには弱すぎる。
(奴・・「薫風丸」を持っていれば、別件逮捕できるのだが・・)
もっとも、これを知れば薫子は怒るだろう。そして、頼子はどこまで知っているのだろうか?
同じころ、頼子は泥棒市にいた。
綺羅と一緒にいた頼子が見たのは、間違いなく「薫風丸」であった。
「綺羅どの・・あれ・・」
まだ若い、なぜこんなところに出入りしているのかわからない、貴族の風体の数人。そのうちの一人が持つ太刀・・
「あれは・・確か薫子の・・」
「そう、間違いないだろう。なぜあれを・・」
「馬鹿ではないか。あんな大層なものすぐに足がつくぞ」
売りさばくつもりなのか、それとも自慢したいだけなのか、理由は分からずとも本来の持ち手が知れ渡っている以上、そんなものが人手に渡っていることがおかしいと思われる。
「あれは、薫子さまだから所持することを許されておるのでしょう。あれが誰かわかりまするか?」
「薫風丸」を持つ典雅な横顔の若者を頼子は知らなかった。
「藤原孝臣とかいったな・・父親はもと西国の国司であった藤原公孝と聞くが・・あの夜光杯を持ち込んできた張本人だ」
頼子が受けた衝撃は半端なものではなかった。
「どうされた、頼子どの・・」
血の気が一気に引いた頼子を綺羅は気遣ったが、その声さえ頼子には聞こえてはいなかった。
自分は何をしに都へ出てきたのか?横流しの張本人は自分を売った父?
思考が完全に停止してしまった。
もしかして、兼はこのことを知っていたのか?しらないわけがない・・
しかも、基之までもが知っているはずだ。知っていて自分を足止めしていたというのか?
あいつら・・・!!である・・
都でどこか狂い気味であった調子がここで水軍の長に完全にたち返ってしまった。




