そして、後朝(きぬぎぬ)・・・
賽を振る兼の手が止まった。
(今何と言った?売られた?・・)
その兼に頼子は賽を振ることを促した。
「もうひと昔にもなりまする。わたくしは、さる西国の国司の娘でございました。生まれは都で、でも、父の任について西国へ参ったのです。国司の任は結構実入りがよかったようでございましたよ。それをもとに都へ華やかなものをたくさん贈って、やがては任期も終えて帰るときには、それこそそれらがものを言いまする。貢物で買えぬものなぞありませぬ。地位もそうでしょう?」
賽を手にした頼子の手を初めてまじまじと見た。姿かたちは公家の姫と言っても通るだろう。しかし、その手は違っていた。言ってしまえば薫子のような華奢な手ではない。それこそ無骨と言うような言葉が似合う手であった。その視線に気がついたのだろう。頼子は袖の内へ手を隠す。
「それはどれほどあっても邪魔にはなりませぬ。中央復帰を狙うお人であれば、なおのこと・・出遭うた水軍の長に見逃す代わりに分け前を望んだのは当然でありましょう・・その約条として、何も知らぬ幼い娘を差し出したのですよ」
穏やかな声で話す頼子ではあったが、ここへ到達するまでの思いはどれ程であったろうか・・
「長の三番目の女になりました・・なれど、長は優しゅうございました。余りに幼かった故、孫娘のようにかわいがってもらいました・・「親を恨んではならぬ。そなたはそなたでよいのだから・・」そう言い続け学問と太刀とを教えてくれたのです。そうして今がございます・・」
「都へ参られたのは、親御にあうためであったのか?」
「そうでもなかったのですが・・やはり懐かしくて、生まれ育った屋敷のあたりを歩いてしまいました」
あの屋敷か・・・頼子が歩いていたあの場所・・
勝負はなかなかつかない・・その間に食事が出され向かい合って食べることになったりもした。
(そう言えば、綺羅が言っていたな。あれを持ち込んだのは藤原家の若い奴だったとか・・あの男か、確か孝臣と言っていたが・・)
そう呼んだのは基之だった。孝臣と言うのはもしかしたら、頼子の血縁になるのではないか?それを教えてやるわけにはいかない。
月がずいぶんと傾くころにようやく勝負は決した。
「負けました・・」
兼が敗北を認めて頭を下げた時、頼子はそれこそ花のような笑顔を見せた。
「負けは致しましたが、薫子は返していただきます」
「そうですね、仕方ございませぬ」
その場に座りなおした兼は正面切って頼子を見つめる。
「あなたの勝ちです。あなたの望むままに、お気のすむようになさればよい・・・」
「いえ・・もうそれもどうでもよくなりました・・お話しできただけで、もう・・」
手の中のサイコロをコロコロと動かしながら、頼子は微笑む。
その手に、兼の手が重なった・・
驚いた頼子の手からサイコロがおちる。そのまま腕を引かれて兼の胸の中に抱きとめられていた。
「・・わたくしは・・水軍の長ですよ・・」
「そう、俺は、検非違使長官です」
「本来ならば、敵ですよ・・よろしいの?」
兼の声が笑ったように聞こえた。その耳許で聞いたのは
「つらい思いをさせてしまった・・」
誰がとは言わないその言葉が、警戒を解いてしまった。ただの女でありたいと・・この時、頼子は生まれて初めてそう思っていた・・・
平安時代の貴族はあまり、私の中でよい印象はないのです。たぶん「源氏物語」のせいだと思いますが・・源氏の君なんて好きじゃないです。どこがええのや、あんなやつ~!!そんな中で兼と基之はちゃんと仕事しておりますから、まあ、ええやん。(関西弁ですみません。関西弁お嫌いな方は無視してください)初めてのラヴシーンですが、難しいですね。後は、勝手に御想像してくださいませ。しかし、兼に後朝の文なんぞ書けるのか?ちょっと心配しております。




