甲斐性なし
藤原邸の土壁に沿って、頼子は歩いていた。
通りのこちら側にいる二人には気がついてはいない。
時折、背伸びをするようにして邸内を窺うそぶりが見える。
「頼子どの、何をしておられるのかな?」
「水軍の頭目が、押し込みでもあるまいがな・・」
行ったと思えばまた戻りを繰り返す。
「何かを探しているのではないか?」
しばらくそうして頼子を見ていたが、兼は疑問を口にした。
「なあ、なぜ頼子どのは「ばばさま」と呼ばれているのだ?どう見ても俺達より年若いように見えるが・・」
基之はそれに実に簡単な答えを返してきた。
「死んだ、じじさまの連れ合いゆえだそうだ」
「・・・それだけか?」
「そう・・死んだ爺さまの三人目の連れ合いだったそうで、まるで孫のような者であったそうな。水軍の子供たちが「ばばさま」と呼ぶゆえそうなったとかで。本人は呼び方なぞどうでもよいそうだ」
あの若さで三番目の後妻とは、なんと思いきったことをするものかと、しかも相手は水軍の長である。何か思うところがあったのだろうか・・
腕組みをしながら見ている二人に、突然気がついたのか、真剣な顔をしていた頼子はどこか気まずそうな表情をした。
兼とはあの日以来である。少し考えるような素振をしたが頼子の方から近づいて来た。
「麗しい殿御がお二人お揃いで、何をしておられまする?このあたりに通うお方でもおられまするのか?」
「残念ながら、野暮用というやつです。ばばさまは何をしておられまする」
「いや、道に迷うただけなのだが・・」
そういう割には目的をもった足取りであったことくらいは見抜かれているだろうとは、頼子も承知している。それでもあえて言ってみただけだ。
「薫子さまはいかがしておられまする?」
なんとなく頼子を間に挟んで三人が並んで歩く・・
「あれ以来多少はおとなしくしておりまする」
「薫子さま、お強ようございますね。わたくしとともに西国で水軍になられませぬか?」
「言えば、あれはその気になるやもしれませぬ」
「やめよ、ばばさまも兼も!とんでもないことだ!」
一人焦る基之を頼子は面白そうに見つめてから言い放つ
「いつまでも薫子さまを放っておくと、よそに持って行かれるということがあると言うておるのです。あのように美しい姫さまを見て居るだけとは、こんな甲斐性なしでございましたのか?」
「誰が甲斐性なしですか?」
「あなたです!」
年が近いだけに頼子の物言いは容赦がない。しかも男たちを束ねるだけに怖いものなしのようであった。その頼子の顔が真面目な表情に変わった。
「基之どの、あの「泥棒市」へわたくしを連れて行ってはもらえまいか?」
「いくらばばさまでも、あのような所は女子の行くものではありませぬ」
「薫子さまは行っておられたぞ」
それを言われては返す言葉がない・・・
結局、頼子の希望通り二人が連れてゆくことになってしまったのだが・・




