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「その声もしや『チート』君ですか!」
「『チート』じゃねえ!『ユート』だ!」
俺と同じβテスターであるアルはライトブルーの髪をボブカットにした少女である。身長は俺よりかなり小さく、真下を見るようにしないとチビすぎて気付けない。
「だれがチビです!」
「うおっ!勝手に人の心を読むな、ってか身長が小さいことは確かだろうが!」
そしてポーションを取り出し一気飲み。HPが半分以上まで回復する。
「と言うか既視感たっぷりな光景なのです!」
「そりゃそうだな」
俺とアルとの出会いは今の状況と同じだったと思う。
確か俺がここでレベル上げしていたときに麻痺と毒を食らって死にそうになったときに、颯爽と駆けつけて助けてくれたんだっけか。・・・普通立場は逆だろうけどな。
「とにかくやるのです。生きるか死ぬかそれだけです」
「よし、本気出してやらぁ。俺は十パーセントの力しか出してないんだよ」
「それ、大抵やられるやつが言う台詞なのです。それよりも常に本気を出してくださいです」
よし、本気を出す。
《ダッシュ》で接近し斬りかかる。ユニークモンスターは物理攻撃だろうと魔法攻撃だろうと属性攻撃だろうと全てのダメージを半分にするという能力を持っている。クリティカルもないから、序盤の剣の扱いはコイツで鍛えたもんだ。故に、攻撃も熟知している。
「斬ッ!」
袈裟懸けからの回転切り。HPを数ドット削る。敵の攻撃。針を使った体当たり。弾きして防ぎ、再び切り裂く。キラービーからのニードル弾攻撃。体で受け止め痛みをこらえ《スラッシュ》を放つ。そこに補助魔法が掛かった。一時的にSTRを強化する《ヒートソウル》だ。怒涛の一撃をどてっぱらに叩き込み、残りHPを三分の二まで減らした。一撃離脱。《ダッシュ》で離れてポーションを一煽り。突っ込んできたキラービーに対してアルが炎系単体攻撃魔法の《ファイヤーボール》をぶつけた。
「おいおい、あまり敵対心稼ぐなよ」
「心配無用なのです」
「だといいけどよ」
再び剣を握り、その感触を確かめる。いける。
「破ッ!」
剣を振り下ろしダメージを蓄積させる。再度《スラッシュ》を放ち、キラービーに叩き込んだ。
横に飛んで攻撃を回避する。《パラライズマグナム》が顔面すれすれを通っていった。さすが俺の現実運。
そして剣先で頭を突いた。ここまでダメージ半分が効く。普通頭ってダメージ二倍とかじゃねーのという考えをよそに三度《スラッシュ》を放った。地面に対して直角の線を描く軌道に乗って、荒ぶる一撃を叩き込む。残りHPはあと少しだ。
援護射撃の《ファイヤーボール》。仰け反ったところに一太刀入れて、離脱。最後のポーションを一煽りしてキラービーの元へ駆け寄っていく。これで決める。
「うおおおぉぉぉ―――ッ!」
《スラッシュ》を大量に使ったことにより一つ上のランクのスキルを手に入れた。《シングルストライク》。剣での突き属性の初期スキルだ。
「これで―――終わりだぁぁぁ――――――ッ!」
キラービーの胸元に剣が突き刺さった。HPがみるみる減っていき、とうとうゼロを示した。
レベルアップはしたと思う。レベルアップの時の青い光がないからな。けれどユニークモンスター撃破の経験値は馬鹿にならない。小さいボスと揶揄されるユニークモンスターはボスより幾分か経験値が少ないだけなのだ。
「アル、早くあそこに行くぞ!突っ走れ」
「なんでです!いくらなんでも急ぎすぎです!」
「俺、今毒ってんだよ!」
「・・・はっ、そうでした。それはやばいです」
毒は普通には治らない。治す方法は、《光魔法》のポイズンキュアや解毒ポーション、町に入るなどだ。
「ポーションないから早くしねぇとォォォ―――!」
「私のポーションがあるのです」
「最初に配られるポーションはトレード不可だ。忘れたのか!」
「そ、そうでした」
「だ・か・ら」
戦闘中以外はスキル《ダッシュ》は発動できない。腰を低くしてスピード特化の構えをとり―――
「目の前の町目掛けて走れ!」
「了解です!」
俺は風を追い抜くかのような速さで突き進んでいった。
・
・
・
「はぁ、死ぬかと、はぁ、思った」
「これは、はぁ、以外に、はぁ、ハードなのです」
何とかHPが搾り取られる前に町に入り込めた俺たちは、息を荒くしていた。何回か深呼吸。すーはー、すーはー。
「よし、まずはステータス確認だ」
「はいなのです。途中参加でもキラービーは倒したのでかなりの経験値を手に入れたはずなのです」
名前 ユート
種族 ダークエルフ
性別 男
職業 無職LVMAX
HP 49/49
MP 57/57
STR22
VIT9
INT12
WIS15
DEX22
AGI16
LUK11
スキル
《剣》LV4
《鎧》LV3
《鑑定》LV1
《料理》LV1
《ダッシュ》LV6
《空き》
《空き》
装備品
右手 ショートソード(攻撃力10)
左手
頭
体 布の服(防御力1)
腕
足 布の靴(防御力0)
アクセサリー
アクセサリー
所持金 1451G
「おっ、もう転職できる」
「当然なのです。それだけユニークモンスターはハイリスクハイリターンなのです。ついでに言えば、私もなのです」
へー、アルも転職できるのか。
転職と言うのは、そのまま転職です。ただ条件を満たしたら職業を変えて特化型に変えられるのだ。
まず最初の条件は、初期の職業である無職(無職なのに職業。意味わかんね)をLVMAX。5LVにすればいいだけの簡単な話だ。ちなみに上がりもしないSTRなどの値が増えたのは職業がLVMAXになったからだ。MAX補正と言うものが掛かり、ステータスが増えるのだと言う。
「俺は素直に剣士でいくぞ。アルは何にするんだ、って予想つくけどな」
「魔法使いなのです」
やっぱりか。
剣士は剣使いの基本的な職業、魔法使いは属性魔法攻撃の基本的な職業である。
ちなみに余談だが剣士には『ソードマン』と魔法使いには『マジシャン』とルビをふれる。要らない説明終わり!
「そうだ、アイテムの方はどうなってる」
アイテム覧を開き、ハティービー、キラービーからの収穫を確認する。
所持アイテム
GRエレメンタルネックレス
PRレジストリング
BR魔法スクロール《フレア》
CRタンキエム
RRへイルの杖(キュア)
「呆れる気も失せてくるな」
「これはチートを超えたナニかです」
言いたいことも分かる。この剣やばくね。CR、カッパーレアってことね。
なんか強すぎだし、これキラービーが落としたのか?
「これいらないな・・・」
「どれがです?」
「お前にお似合いの装備だ・・・そうか、お前にやるよ。これ」
「いいのですか!?」
「俺、魔法使わないし」
と言ってアイテム覧の下の方にあるトレードの文字を押す。
杖と魔法スクロールを選択して・・・決定と。
受け取ったアルは早速《フレア》の魔法を覚えて、へイルの杖を装備する。「ふっふふー」と鼻歌を歌い上機嫌である。
「《フレア》は炎属性の範囲初級攻撃魔法です。へイルの杖は・・・水魔法メインの杖ですね。けれど魔法攻撃力は二倍以上です。その上、杖に水属性単体初級回復魔法の《キュア》まで付いている。・・・これではエンドレス・ラビリンス第三、四階まで装備の変更はないです」
「そりゃよかったな」
「ユートは絶対チーターか何かです!その運のよさは一体なんです!?」
「・・・運がいいってのも、案外辛いんだぞ」
三十本のくじから一本の当たりくじを引いてしまう。それって、必ず他人に外れを引かせるってことなんだぜ。
「よし、俺も装備するか・・・。えーと物理魔法ダメージ問わず二十パーセントカット。なにこれ強ッ!」
「・・・そんな能力どっかのチートアイテムです」
何を言おうが、ありがたく利用させてもらう。ネックレスとリングをつけて、剣は要求STRが高いから無理だな。
「もう時間だ。そろそろログアウトするわ」
「了解なのです。頑張らせていただきますです」
ウインドウからログアウトボタンを探して・・・探して・・・探して?
「ん?ログアウトボタンがない」
「そんなわけないで・・・ッ!?」
どうやらアルのほうも同じくなかったらしい。そうすると急にあちこちから「ログアウトボタンがねぇぞ!」「どういうこと?」「責任者呼べ!」「あと少しで宅配ピザが来るのに!」「向こうでは彼女を待たせてるんですよ!」「「「リア充死ね!!!」」」という声があちらこちらで聞こえてくる。どういうことだ?ログアウトできない?
「諸君、静かにしたまえ」
上から声が落ちてきた。
投稿しました。ありがちなデスゲーム設定です。
9:30 ステータスSTR、DEX修正しました。