魔王様と魔法使いさんと、元一般人
昔書いた小説を少し書き直して、投稿してみました。
勇者も登場します。
書けたらこの続きも書きたいですね、シリーズ物で。
皆様どうも初めまして!元、一般人です。れっきとした日本人でした。
本名は、綾鳴 伊織 (あやなり いおり)といいます。24歳のOLでした。
本当はさっきまで、実家の近くにあるコンビニで食後のデザートを選んでたんです。
だけど、道路から脱線してコンビニに突っ込んできた大型トラックに轢かれて、呆気なく死にました。
いや~、呆気なくではなかったかな?痛かったのは覚えてるし。
あぁ、プレミアムイチゴミルフィーユ……食べたかったなぁ…てのが、向こうでの最後の記憶です。
そして今現在。
「魔王様、ご飯の準備が出来たそうですよ~。皆さんと一緒に食べませんか?」
「わかった。すぐにそっちに行くと伝えておいて」
ファンタジーな世界に妖精みたいな者として生まれ変わって、魔王様の連絡係として働いています。
魔王というと怖いイメージしかなかったんですが、全然怖くありませんでした。
むしろ優しすぎて執事の方や部下の人に心配されているぐらいです。
ちょっと時間は遡って、“あたし”と魔王様の僕の方や魔王様との出会い。
目が覚めると、黄色い液体の中でぷかぷか浮かんでる状態でした。
あれ、自分死んだんじゃないの?って思って自分の体を見てみると、服を着ていませんでした。
事故に遭った筈なのに傷一つも無い綺麗な肌、胸はAだったはずなのにDぐらいはあるんじゃないかというほど大きい胸。
身長と同じぐらいに伸びた金髪に頭が混乱して爆発しそうでした。
液体の中で自分の頭を抱えてごろごろ回っていたら、いつの間にか目の前に居た大きな体のイケメンさんに驚いて、壁らしき物に頭をぶつけました。
やけくそになって壁を叩いたら、見事にパリンッと音を立てて割れたので液体が外に流れて新鮮な空気が吸えました。
どうやらあたしはドーム状のカプセルの様な物に入っていたみたいで、状況があんまり分からず周りを見渡すと
「やぁんっ、この子可愛いじゃない♪それに魔力も質が高そうよー。量が少ないのが難点かしら?」
「……美味しそう(じゅるり)」
「おもちゃの人形みたいだな。まぁ、ピクシーってそんな物なのか?」
大量の目に囲まれていました。
思わず身の危険を感じて、自分の体をぎゅっと抱きしめているとそっと優しく体を持ち上げられました。
そのまま白いタオルに包まれた事に驚いて顔を上げると、これまたイケメン。
優しそうな顔立ちに紫色の髪がよく似合っていて、褐色の肌と金色の目にあたしは思わず見惚れてしまいました。
体のサイズが違いすぎている事にそのときは気付いてませんでした。
そのままタオルで軽く頭を拭かれていると、背中に違和感があるのに気付きました。
後ろを少し振り返ってみると、黄緑色の半透明の羽が生えていました。
「…………(パタパタパタッ)」
動くかなぁと思っていたら、それに応えるかのように羽が動きましたよ。
「………なんですとぉ!?」
思わずそう叫んでました。感激して思わず何度も羽を動かしたり、飛んでみたりしていたら慌てたようにさっき体を拭いてくれていた彼が、あたしを追い掛け回して最終的には捕まりました。
「ハァ……君さ、飛べたことが嬉しかったのわ…ぜぇ…分かるけど…」
「~♪」(全く聞いていない)
「………裸だという事、忘れてない?」
「(ピクッ)………みぎゃぁああああああああああああ!!!!!」
女性らしさなどこれっぽっちも無い悲鳴を上げて、彼の服の中に潜り込んで体を隠しました。
ため息と笑い声が聞こえてきましたが、その時は全く耳に入りませんでした。
そりゃあ、ものすごく恥ずかしい事をしたので頭の中で叫びまくってましたからね。聞いてませんよ。
それが、あたしと魔王様と僕の方たちとの出会いでした。あたしにとって、最悪な出会い方でしたよ。
服を着た後で聞いたのですが、あたしはどうやら魔王様の魔力で作られた、人工的な妖精らしいのです。
こちらの世界ではピクシーという種族だそうです。
だからなのかな?魔王様の事をご主人様というより、お父さんみたいに感じるのです。
向こうの世界ではお父さんは居なかったので、なんだか嬉しい感じです。
魔王様から服と名前を貰ったときは、思わず泣き出してしまいました。
嬉しくなかったのかと勘違いした魔王様がションボリ落ち込んで、部下の人に慰められている様子は少し可笑しかったです。
今は第二の人生を楽しもうと頑張っている最中なのです。
「ふ~ん、ふふ~ん、ふふーふーん♪」
鼻歌を歌いながら魔王城の廊下を飛んでいるあたし。魔王様の私室から食堂に向かう最中なのです。
あ、ちなみに貰った服は黒いスーツです。下着はきちんと女性の物ですが、スカートにすると襲われるからと男物の服ばかり貰いました。
楽だから別にかまわなかったんですが、部下の方達には猛反対されました。魔王様が。
部下といっても、彼らも魔王様の魔力から生まれた僕なのだそうです。あたしの兄妹みたいな存在です。
で、その人達が言うには「可愛い子には可愛い服しかないでしょ!」とか「こっちの服の方が似合うと思う」とピンクのロリータ服を出してきたり……
魔王様の執事さんはなぜかリボンを出してきましたね。簀巻きにされそうでした。
まぁ、魔王様にフルボッコにされて意見を言わない様にされてましたけどね。
あれはひどかった。さすがに途中で止めましたよ。上目遣いと涙目って便利だなぁと思った瞬間でした。
「イオン。どこに行ってるの~、通り過ぎてるわよ?」
「あっ、ルージュお姉様」
回想に耽ってしまってどうやら食堂の前を通り過ぎていたようです。
イオンというのは、あたしのこちらでの名前です。魔王様が前々から考えていてくださった名前だそうです。
ルージュお姉様は僕の中で一番最初に生まれた方で、女淫魔です。普段は魔王様の傍で宰相として働いています。
羊のような角がとても特徴的な方で、黒い蝙蝠の羽も生えているのですが、今は隠しているようです。
真っ赤な髪と赤い瞳に褐色の肌がよく似合う、とても美人な方です。女性のあたしでも見惚れました。
そんなルージュお姉様の元にふよふよと飛んでいくと、満面の笑みであたしを抱きしめてくれました。
胸に、ものすごく大きい胸に顔が挟まれて息がものすごくしづらいっ。
「あぁ、イオンはホ・ン・ト・ウ・に、可愛いわねぇ♪癒されるわぁ~」
「あたしはルージュお姉様の方が可愛らしくて、綺麗だと思いますよ?」
「そんな事を言ってくれるのは貴女だけよ。さぁ、一緒に食堂に行きましょう」
「はい、ルージュお姉様」
大人しくルージュお姉様の肩に乗って食堂に入っていきます。
あ、言い忘れていたのですが今のあたしの身長は、15cm程度しかありません。ピクシーは成人してもこれ以上成長しないそうです。
その代わりに、一定時間だけ人間の大きさになる事ができます。今のあたしだと、大体半日ほどの時間大きくなれます。
もっと魔力が増えれば、さらに時間が増えるそうなんで、魔力の訓練は怠らないようにしようと思ってます。
食堂に入ると、6人ほどで囲めるテーブルの上にたくさんの料理が載っていました。
魔王様以外、もうすでに全員集まっているようでした。
料理に見惚れていると、お兄様の一人が立ち上がってあたしの方を見てきました。
「イオン。おいで」
「はい、ライお兄様」
ルージュお姉様から離れて、ふよふよとライお兄様の手のひらの上に乗ります。
すると優しく微笑んで大きな手で頭を撫でてくれました。温かい手に少し安心します。
ライお兄様は、ルージュお姉様の次に生まれた方で、吸血鬼です。普段、調合師というお仕事をしています。
いわゆる薬や植物の事について専門的に研究している人みたいな感じです。
薄水色の髪と金色の瞳が綺麗で、男性なのにお母さんみたいな雰囲気をかもし出してる人です。
肌は白いし、耳が尖っていて、羽は髪と同じ薄水色なのですが、隠すと普通の人とあまり変わりません。
「僕が伝えた事は魔王様に言ってくれた?」
「はい!きちんとお伝えしました」
「イオンは偉い子だね。欲しいものがあったら何でも言うんだよ?すぐにプレゼントしてあげる」
「そんなっ、あたしになんて勿体無いです。それなら他の人にプレゼントしてください」
その方が他の女性陣も嬉しがると思いますよ。と言い掛けたが、ライお兄様の手から離れて別の人に抱きしめられたため、言えなかった。
後ろを見上げるように振り替えると、まるで蕩けるかのようにあたしを見つめてくる目がすぐ傍にあった。
「私にもプレゼントさせてくれませんか?イオンに贈りたい物がたくさんあるんですよ」
「ジラールお兄様」
ジラールお兄様は、3番目に生まれた方で、ドラゴンです。普段は兄妹達の秘書として働いています。
白銀の髪に金色の目がキラキラしていて、神々しい方です。子供みたいに素直な方です。
ドラゴンの特徴として、髪と同じ色の羽と伸縮自在の爪を持っています。竜の姿にもなれます。
魔力というか存在感がドラゴンだ!っていうくらい分かりやすいので、普段は魔力を抑えるメガネを掛けてます。
メガネを外してる姿も少しだけ見ましたが、20mも離れてたのに恐ろしくてライお兄様にしがみ付いてました。本当に怖かったです。
皆さん、今まで見てきた中で上位に入るほど綺麗で美人な方達なのですが、少し残念な所が一つ。
「ジラールお兄様、あたしはもう十分貰っています。これ以上はいりません」
「そんな……イオンは私たちが嫌いなのですか?」
「えぇ!?イオンに嫌われたら、わたくし死んでしまうわ!」
「僕は世界を壊して、自分も死ぬかな」
極度のシスコンだという事。あたし、まだ生まれて3時間ぐらいしか経ってないんですけど!?世界壊そうとしないでぇー!!
うん、どうやらこの見た目の所為らしいのですが、あんまりしつこいと、うざいを超えて怖いです。
だけど
「嫌いじゃないです!皆さんが居てくれるだけで、あたしは幸せなんです。嫌いになんてなれません!
あたしは、皆さんが笑顔で居てくれることが、とっても嬉しいんです。笑顔と幸せを貰っているのに、これ以上貰えません!」
本心をそのまま伝えたら、何故か皆さん片手で顔を隠してあたしから顔を背けました。
あれ?あたしなんか間違った事言っちゃったのかな、と思っていたら皆さん、泣いてました。
いつの間にか、食堂に来ていた魔王様や執事さんまで泣いてるし。なんでぇ~?
「なんて……っ!なんていい子なのッ」
「本当に、イオンは良い子だ。健気すぎるっ」
「あの馬鹿たちに見習わせたいぐらいです……うぅ」
「…………そのままで居てね、イオン」
「あぁ、神様。こんな子を俺の元に授けてくださって、ありがとうございます…っ!」
一番上から、ルージュお姉様、ライお兄様、ジラールお兄様、執事さん、魔王様です。
てか魔王様あなた神様と敵対してるはずですよね?神様に祈っちゃ駄目なんじゃ……
「よし!イオンのために、人間共と神共を倒そう!そして、俺達の平和を勝ち取るんだ!」
「「「おーっ!!!」」」「…………おー」
予想通りでした!!
さすがに人間は全員殺さないで欲しいなー。話せば一部の人達とは仲良くなれると思うんだ。
神様達には、八つ当たり程度でいいと思う。それか、お仕置き?どっちにしてもほどほどにして置いて欲しい。
「倒すと言っただろう?殺しはしないさ。俺も人間や神の中には、良い奴が居る事は知ってるから」
魔王様が優しくていい人で良かった!
だけど魔王様?笑顔が何故か怖いですよ。心から笑っていないのが丸わかりです。
その訳は後日、ようやく分かったんですけどね~。納得しました。
それから20年ぐらい平和に暮らしてました。あたしも生まれて20歳になりました。魔族としてはまだ子供ですけどね。
何度か遊び半分でお兄様たちと試合をやったら、城が壊れて、いつもはあんまり喋らない執事さんに早口で2時間お説教されました。
これ以上城を壊すなら、あたしを食べるぞとまで言われました。
ちなみに執事さんは狼人間です。狼男ではないです。女性の方ですからね。
食べられるのは嫌なんで、大人しく魔法の訓練をしてました。
今日もいつも通り魔法の訓練でもしようかな~とベットから起き上がると、なんだか外が騒がしいです。
爆発音も聞こえてくるから、急いで服を着て、魔王様の所まで飛びました。
そしたら、まぁ見事に城が所々壊されてました。刃と刃が重なった甲高い音も聞こえてくるから、これはやばいと思いました。
「魔王様っ!魔王様、どこですか!」
「イオンっ、こっちです。おいで!」
羽だけを外に出しているジラールお兄様が、空の上からあたしを呼びました。
不安になって急いでジラールお兄様の元に飛んでいきます。すると、優しく抱きしめられてそのままどこかへ飛んでいきます。
「ジラールお兄様ぁっ。魔王様は、魔王様は……」
「人間の勇者が来たから、玉座の間で待っているんです。僕たちも行かないと」
「えっ、それじゃあ勇者は魔王様を殺しに来たんですか?」
「人間の王族が勇者にそう命令したんです。殺しに来たんでしょうね」
普段は笑顔のジラールお兄様も、今は険しい顔です。
あたしもどうしようもない気持ちでお兄様の服にしがみ付いたまま、玉座の間に着きました。
まだここまで勇者は来ていないようで、少しホッとしました。
「イオン!無事でよかったわぁ。大丈夫だった?」
「心配したんだぞ」
「ルージュお姉様、ライお兄様ぁ。お二人も無事でよかったです…」
つかの間の抱擁を二人にされていると、突然玉座の間の扉が吹き飛びました。
ハッとなって扉の方を向くと、勇者らしき人が武器を構えたまま魔王様を睨みつけています。その後ろに双子の女性が二人立っています。
あたしは勇者の姿に目が釘付けでした。だって、黒髪と黒目の女性だったんです。あたしの知る限り、この世界に黒髪黒目はいないはずです。
だったら、あの人は……あたしの元の世界の人かもしれません。
「魔王、お前を殺しに来た。潔く死んでもらおう」
「……理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」
「私が元の世界に戻るためだ。私は、日本に帰りたい」
やっぱり!!あの人は日本人でした。もしかしたらと思っていたんですが、まさか現実になるとは思いもしませんでした。
恐る恐る魔王様の近くまで飛んでいくと、魔王様は苦い顔で「そうか」と呟いて立ち上がりました。
その肩に乗ると、あたしは勇者のメンバーを睨みました。
あたしも元は人間ですが、肉親を殺そうとしている人が現れたんです。
説得するか、殺しあうかのどちらかしか、あたしの頭の中にはありません。
「………いいだろう。それが人間共の選択なら、試してみろ」
「その余裕、いつまで持つかな!」
そして、魔王VS勇者の戦闘が始まりました。
勇者が魔王様のところへ向かおうとするのを、ジラールお兄様が邪魔をします。
ルージュお姉様とライお兄様は、勇者の従者達と魔法や接近戦で攻めています。
あたしは魔王様の少し上からその様子を眺めていました。しかし、ふとおかしい人を発見しました。
長いローブを羽織った灰色に近い銀髪の人が、戦闘から離れて柱の傍に立っていたんです。
その手には宝石の付いた杖を握っているのですが、勇者達の様子を見ているだけで参加しようとはしていません。
気になって仕方ないです。
「魔王様、少し離れてもよろしいですか」
「危ないが……まぁ気を付けなさい」
その言葉に頷くと、あたしはすばやく天井近くを飛んで、その人の目の前に降りました。
だけど、戦う意思はないとでも言う様に彼は杖を床に置いてあたしを見つめてきました。
不思議に思って首を傾げながら、訊いてみました。
「貴方は参加しないんですか?」
「………………しない」
「じゃあ、なんで勇者について来たんですか?手伝うためじゃないんですか?」
「………違う。限度を過ぎないように観察しているだけ」
「限度?観察?どういう意味でしょうか」
「…………本人たちに聞けば分かると思うよ。あそこで遊んでるから」
そう言って彼が指差したのは、お姉様と近距離で魔法を打ち合っている女の人だった。
そしてもう一人、その後ろでライお兄様と戦っている女の人も指差した。
……彼の言っている意味が全く分かりません。魔法使いぽいので、魔法使いさんと呼びましょう。
遠目にジラールお兄様を倒した勇者が魔王様と戦っているのが見えて、目を見張りました。
魔王様が、負けそうになっている…っ!
急いで飛んでいこうとした瞬間、傍に立っていたはずの彼が魔王様の目の前に立って勇者の剣を素手で受け止めていました。
それには勇者も驚いたのか、剣をすぐに下ろしました。勇者のメンバーやお姉様たちも戦闘をやめて、勇者達のほうを見ています。
あたしは、魔王様の怪我を魔法で回復しながらじっと彼の背中を見つめていました。
あ、ちなみに今は大人の大きさになってます。こっちの方が魔法使いやすいんです。
「あんた、どういうつもりだ。敵に味方する気なのか?」
「…………違う」
「じゃあ、なんのつもりだ!私を元の世界に帰らせないつもりか」
「…………それも違う」
今にも魔法使いさんに切りかかりそうな勇者に、今さっき彼が指差した女性二人がこちらに近づいてきました。
彼女達は武器をどこかに納めると、満面の笑みで魔法使いさんを見つめました。
「ようやく終わり?」
「いい加減、本当のことしたいんだけどかまいませんか?」
彼女達の言葉に魔法使いさんが無表情のまま頷きます。
すると、彼女達の姿が一瞬にして変わりました。いまさっきまで金髪碧眼だった彼女達が、一瞬にして勇者と同じ黒髪黒目になったのです。髪型も全然違います。
驚いていると、彼女達はあたしの存在に気付いたのかニコリと笑って、魔王様に近づいて
「久しぶり。毎回毎回あの子達がごめんなさいね」
「会いたかった…っ」
二人同時に魔王様に抱きつきました。
これには魔王様と彼女達以外の人が呆然としました。魔法使いさんは呆れてため息付いてましたが。
魔王様もなにやら驚いた様子でしたが、二人を軽く抱きしめ返していました。
「…………どういう事なんですか?」
ジラールお兄様がそう呟くと、魔王様が玉座に座ってため息を付きました。お姉様もライお兄様もため息を付いてます。
魔王様の膝の上には、会いたかったと言って抱きついた黒髪の長い女性が座っていました。
それが普通でもいいたそうに魔王様に抱きついている女性に、魔王様は愛しそうに彼女の頭を撫でてます。
どういう状況~?さっきから頭が状況についていけてないんですが~?
「………私は、道具として使われたということか?」
事情を黒髪の短い女性から全て聞いた勇者が、ポツリと呟きました。
いや~、驚きました。うん、今すぐ人間の王族をぶっ潰したいくらいです。
黒髪の短い女性が言うには、彼女の妹(今魔王様に抱きついている人)を欲しがった王族が、魔王様がいると妹さんが奪われるかもしれないと勝手に勘違いして、異世界の人を勇者として召喚したらしいのです。
そしてそれを知った姉妹は、魔王様を殺させないように勇者について行って、独断で勇者を元の世界に帰らせようとしていたそうです。
今回でこれが313回目だそうです。どんだけ妹さん欲しいんだよ!
あ、ちなみに魔王様は妹さんと夫婦でした。さらに、彼女達姉妹はこの世界の最高神だそうです。
ちなみに人間達は彼女たちが神だと知らないそうです。わざと隠してるんだとか。
神様だと知られたら、敵対してる魔王様となかなか会えなくなるそうなのです。夫婦なのに普通に会えないって、辛いですね。
「でも、何気に戦ってる姿がものすごく楽しそうに見えたのは、あたしの気のせいですか?」
そう言ったら見事に二人揃って顔を背けました。それでいいのか神様。
神様なら、止められないのか?とジラールお兄様が聞いたら
「立場が上になっていくほど、あんまり深く関わっちゃ駄目なのよ」
と言われました。
神様にもルールがあるんですね~。メンドクサイな。
魔法使いさんは、そんな彼女達の昔からの親友なんだそうです。
年齢を聞いたら驚きました。2780歳なんだそうです。魔王様より年上で、毎回勇者の旅に付いていっているそうです。
だからなのか~魔王様を殺そうとしなかったのわ。納得、納得。
「……じゃあ、私は何のためにここまで頑張ったんだ…」
悲しそうに呟いた勇者さんに、ジラールお兄様が慰めるように頭を撫でてます。
ジラールお兄様もあたしと同じで、今回が初めてだったそうです。
ルージュお姉様とライお兄様は事情を知ってました。教えてくれても良かったのにー。
勇者さんに妹さんがすまなそうに頭を下げました。
「ごめんなさい……謝っても謝り切れないけど、元の世界に帰りたいんだったよね…」
「……帰りたい。だけど、この世界は向こうより居心地が良すぎた。戻っても……」
そう言った勇者に、ジラールお兄様がいい事思いついたという様に、手を叩いた。
「なら、私のお嫁さんになってください」
「……はい?」
泣いていた勇者の涙がピタリと止まりました。そりゃ止まりますよね~。ジラールお兄様以外全員驚いてますもん。
魔王様でさえ、玉座からずり落ちそうになってました。
ジラールお兄様は、勇者が了承したと勘違いしていきなり彼女を片手で持ち上げました。
そしたら、満面の笑みで窓を開いて
「それじゃあ魔王様、しばし暇を頂きますね」
と一瞬で空へ飛んでいって、勇者を連れ去っていきました。彼女の悲鳴が一瞬で聞こえなくなりました。
お兄様……それはないでしょー。いきなりそれはなしですって。せめて、お付き合いしてから結婚してくださいね~。
そう言ったら、ライお兄様があたしを呆れた目で見てきました。なんか言いたそうです。
「イオン、そう言う問題じゃないから」
「えぇ~?でも、あの二人だったらお似合いだと思いますよ」
「…………そういう問題でもない」
魔法使いさんにまで言われてしまいました。
……てか魔法使いさん、手から血が、血がぁー!!
「…………忘れてた」
それから一ヵ月後、元勇者さんから手紙が来ました。
『
あれから一ヶ月が経ちました。この前はご迷惑をかけてしまい、申し訳ありません。
私は今ジラールと一緒に居ます。毎日が幸せです。
今度、私たちの結婚式をあげることになりました。招待状を送りますので、ぜひ皆さん
来てください。お待ちしております。
笹紙 椋己 』
あ、やっぱり。へ~、結婚するんだ。楽しみだなぁ。
自然と笑顔になっていると、横から魔法使いさんが手紙を覗き込んできました。
今、魔法使いさんはライお兄様に薬草や調合の知識を住み込みで教えてます。家庭教師です。
あたしは、ライお兄様や魔法使いさんの助手として働いてます。もちろん魔王様の連絡係としても働いてますよ。
今は3人で休憩しているところです。お茶うま~。
「………結婚するんだ、あの子達」
「そうみたいですね。結婚式を見るのは初めてなので、楽しみです!」
向こうでも見たことないし、やった事無いので本当に楽しみです!
どんな服がいいかな~、やっぱりウェディングドレスは白なのかな?と考えていると、魔法使いさんに後ろから抱きしめられました。
最近は人の大きさになる事に慣れてきて、1週間程度大きくなったままで過ごせます。成長したよ、あたし。
「……………ねぇ、イオン」
「なんですか?魔法使いさん」
「……………僕と、付き合ってくれない?」
「「そんな事は許しません!!!」」
おぅっ!?一瞬で居なかったはずのルージュお姉様まで登場したよ。ビックリしたー。
思わずお茶の入ったカップを落としちゃったじゃないですか~。お気に入りだったのに……(ショボン)
「………指切っちゃったみたいだね」
「あぁ、大丈夫です。これくらい、日常茶飯事ですかr……」
カップを落とした勢いで切れて血が流れてきた指を、魔法使いさんに舐められました。
いやー!色気たっぷりの目であたしの顔を見ながら舐めないで下さい!!
思わず顔が真っ赤な茹蛸のように赤くなりますよ!体が熱いー。
目の前の出来事に、ルージュお姉様とライお兄様がショックで呆然としちゃってるし。
「…………ん、止まった」
「あ、ありがとうございます」
「…………返事はいつでもいいよ」
普段は無表情の魔法使いさんが笑いました。さらに驚きです!
というか、付き合うって買い物とかのことじゃないんですか?なんでそんなにお姉様達は慌ててるんですか?
「…イオン、話からして違うわよ」
「…さすが僕たちの妹だ。純粋に育ってくれた」
「…………そう言うと思ってけど、違うからね?」
「「……他人の恋愛は良く気付くのに、自分の事になると鈍感だよね」」~」
3人同時にため息をつかれました。
そこまで鈍感じゃないと思うんだけどな~。うん、思う。
(いや、鈍感だから。何回もアピールしたり、家族の前で好きだと何回も言ってるし。イオンに男の魔族が近づいたら、睨みつけて近づけないようにしてるし。反対にイオンが男に話しかけてたら、すぐに話が終わるように抱きしめながら相手を睨んでる事、気付いてないでしょ!てか、いつも抱きついてるんだから気付けよ!!)
とルージュやライは言いたかったのだが、妹を奪われたくないので黙っている事にした。
魔法使いとイオンの恋は、実るのでしょうか。
この後、イオンに魔法使いが告白した事を知った魔王が
「娘が欲しければ、俺を倒せ!」
と言って、魔法使いと本気で喧嘩をしていたのをイオンはまた「なんで?」と思いながら観戦しているのであった。
いい加減気付けよ!!




