第7章 秘められし力 No.17
さすがのアルフですら、それ以上、反論することが出来ない。その場に、ただ立ち尽くすだけで精一杯だった。
先生の視線が、再び温かみを纏う。
「アルフ。君はリオのことになると、急に分別を欠くようですね。魔法遣いを目指す者として、それは、あまり良い傾向ではありませんよ。魔法遣いは、常に品行方性であるべきです。強い力を持てば持つほど、自身が、それに操られることのないように、力に群がる者達の言葉から真実の言葉を聞き分けられるように、分別を持たなければいけません。解りますか?」
「……はい」
素直に頷くアルフ。背筋までも伸びている。
先生は、満足気にニッコリと微笑んだ。
「リオの言うとおり、君は、とても正義感の強い少年ですね。その点は、実に素晴らしい。しっかり伸ばして下さい」
次の瞬間、校長先生が、孫を案じる老人の表情になる。酷く年老いてすらみえた。
「君が言うように、リオには本当に辛い思いをさせてしまいました。しかし、私は、自分のしたことを間違っていたとは思いません。リオは今後も、悩み、苦しむでしょう。ですが、そうすることによって、初めて得られるものがあるのです。リオは、今、それを模索しています。支えてやって下さい。あの子は、見掛けよりも脆い」
『支えてやってくれ』という言葉が、アルフの勘に触る。
「そんなこと、解ってるよ!」再び不遜な口調になる。
そんな彼の心を見透かすように、先生は穏やかに言葉を継いだ。
「正直に申しましょう、アルフ。今回のこと、私は自分の所業を間違っていたとは思いません。それは本心です。しかし、後悔はしました。とても悔やみました。リオは、大変優秀な能力の持ち主ですが、やはり、まだ子供です。そのことを、もっと考えてやるべきだったのではないか、と……」そこで言葉を止め、少年を仰ぎ見る。「けれど、それは私の取り越し苦労だったようです。今日、君に会って、話をしてみて、安心しました。こんなに素晴らしいお友達がいるのなら、リオは大丈夫。今、心から、そう思っていますよ」
アルフの視線が、深い蒼の瞳に捉えられる。
そして、アルフは直感した。先生の度量の深さ。自分など、到底、足許にも及ぶものではない。
この先生が、アルフが懸念していたようなことを、リオにさせるわけが無い。素直に、そう思えた。全て、自分の思い込みだったのだ。気恥ずかしげに俯く。
その時、突如、室内に、勢いよく扉をノックする音が響き渡った。
先生には、訪問者が誰か解ったようだ。
「おやおや、君を心配して駆け付けたようですね」扉に向かい声を掛ける。「お入りなさい」
待ちきれぬと謂わんばかりに、扉が押し開かれる。
「失礼します!」
先に飛び込んできたのは、ルーだった。アルフの姿を見付けた途端、彼の腕にしがみ付く。
「アルフ! 心配したんだよぉ!」
その勢いのまま、ペコリと校長先生に頭を下げた。
「校長先生、ごめんなさい! アルフは何も悪くないの。だからお願い! 退学にだけはしないで!」
先生と二人との間に、金色の光が立ちはだかる。リオだ。友を背に庇うように佇む。
確か、ついさっきまで保健室で眠っていたはずのリオが、なぜここに? アルフは混乱し、思いをそのまま言葉にした。
「リオ! お前、なんで……!」
しかし、彼の言葉は、怒りすら含んだリオの強い語気に掻き消された。
「それは僕のセリフだよ、アルフ」振り返らず、肩越しに低く言う。「どうして、こんなことを……」
悔し気に唇を噛む。
それでも、校長先生の正面で姿勢を正し、深々と頭を垂れる。
「校長先生、本当にすみませんでした。元はと言えば、全て僕の責任なんです。僕が取り乱してしまって、それを、彼等が心配してくれて……。僕が弱かったせいなんです。全ては僕の……。ですから、どうか、罰なら僕に! 僕に罰を与えて下さい」
リオの厳しい表情。それと同じくらい厳しい口調。