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第1章 魔法遣い養成学校 No.7

 入学式から三ヶ月ほどが経った、ある日……。

 一日の授業を終えたリオ、ルー、アルフの三人は、何時ものように揃って寮に帰ろうと、校門へと続く石畳の道を歩いていた。

 魔法遣い養成学校は、原則として全寮制である。ルリウス全土から集まる生徒達の生活を配慮しての方針というのが表向きの理由であり、事実、決して強制ではなかった。何らかの理由により、入寮せず、実家や知り合いの家から通う者も、極少数ではあるが、確かにいた。しかし、大陸に点在する様々な部族、種族の寄せ集めである生徒達の殆どは、入学に当って、学校側から入寮を勧められる。それは、原則全寮制とする真の理由が、通学や生活の便という以上に、種族という壁に邪魔されること無く、友情を育み、勉強に没頭出来る環境を生徒達に提供することにあるためだった。リオ達三人も、当然のように寮住まいをしていた。

 スキップしながら先頭を歩いていたルーは、後ろの二人を振り返ると、満面に笑みを湛えて言った。

「今日はさ、すっごく天気がいいし、部屋に帰って教科書しまったら、森に行ってみようよ。ね?」

「俺は、構わないぜ。リオは?」

 横を歩くリオを見遣り、アルフが訊いた。

 リオが小さく微笑む。

「そうだね。気持ち、良いかもね」

「じゃ、決まりね!」

 ルーは、空に向かって右腕を上げると、二人の背後に廻り込み、急かすように背を押しながら、校門へ向かって駆け出した。


     ☆  ☆  ☆


「わあ!」ルーが両腕を広げ、森の深部に向かって走り出す。「森の中って気持ち良いよねぇ。ボク、大好き!」

 森を訪れて、何時も一番喜ぶのはルーだ。彼の能力は森の波動に似ている。そのため、落ち着くのだろう、……と、これはリオの言だが。

 無論、リオにしろアルフにしろ、堅苦しい学校生活よりも森の中で過ごす時間の方が何倍も気が休まる。そういうわけで、彼等は暇を見付けては森に遊びに来ていた。

 寮の部屋に立ち寄ったため、今は制服ではなく、普段着だ。普段着といっても、制服の丈を詰め、フードを取り去って、不要になった布をズボンに仕立て直したものだから、見た目は制服とあまり変わらない。私服については特に規定はないのだが、彼等は古くなった制服を学校から払い下げてもらい、仕立て直して普段着にしているのだ。

 実を言えば、そういう生徒は少なくない。

 種族によって服装は様々。それを気にせず、制服と同じように着られる普段着は、魔法を学ぶことのみに情熱を傾ける生徒達にとっては、かえって都合が良い。学校の側に、仕立て直し専門の老女が居り、彼女の生活が成り立っているのは、ひとえに、こういう理由があるためだ。

「ねえ、リオぉ。ここの森って、ラウ先生のお家の周りに似てると思わない?」

 ご機嫌のルーは、何時もより多弁である。

「うん。そうだね」

 勿論、リオもニコニコと笑みで答える。気分が良いのは彼とて同じだ。

「へえ、そうなのか?」

「うん」

 問い掛けるアルフに、リオは頷き、チョッと考えてから言葉を継いだ。

「ねえ、アルフ。良かったら……」黒髪の友の前に廻り込み、顔を覗き込む。「今度、一緒に帰ってみない?」

「わあ、リオ。それいいねぇ」ルーは、こういう場合に限って地獄耳だ。両腕を広げ、駆け寄ってくる。「そうだよ、アルフ。そうしようよ。ね? 先生、きっと喜ぶよぉ」

 リオと並んで、ルーにまで顔を覗き込まれ、アルフは僅かに身を引いた。

 しかし、アルフは解っていた。これが、彼を気遣っての申し出であることに。

 アルフは、家に帰れない。学校を卒業し、一人前の魔法遣いとして認められるまで、家には帰らない。そう決めていた。

 けれど、そうは言っても、まだ、僅か十歳の子供である。温かな温もりが恋しくなることもある。

「……うん」少し照れくさそうにアルフが頷く。

 それを確認し、リオとルーはニッコリと笑い合った。

 ルーが両手を空に向けて高々と挙げる。

「それじゃあ、今日は、かくれんぼしようよ。きっと楽しいよぉ」

「おう」アルフが嬉し気に答える。

 しかし、これには予想外に待ったが掛かった。リオだ。

「陽の光が茜に染まる時には、かくれんぼは、しちゃダメだよ」

 アルフとルーの視線が、彼に集まる。

 リオは、不安気に僅かに眉を顰めた。見上げた空は、事実、陽が西に駆け降りていく途中である。

「森に魅入られて、誘い込まれる。一度囚われてしまったら、二度と人の世界に戻れなくなるよ」

「え、そうなの?」不思議そうに問うルー。

 だが、アルフには驚いたふうはない。

「知ってるさ、それ位」平然と言い放つ。

 ルーの視線がアルフに向く。

「アルフ、知ってるんだ」

「ああ……」逆に、訝し気に傍らの友を見下ろす。「ルー、お前、ホントに知らないのか?」

「うん……」力無く肩を竦める。

 その理由に、アルフは思い当たった。

 ルーには幼い頃の記憶がないのだ。ルリアの子供であれば誰でも知っている遊びの大原則ですら知らないのも無理はない。

 アルフは、わざと然り気ない態を装った。

「俺は小人族に拾われて育てられたからな」

 あっさりとした言葉だが、内に潜む意味は深い。

 ルリアの民の寿命は千年から二千年。長命である分、子供は少なく、とても大切にされる。実の両親が生きているのか、死んでいるのかさえも解らない状況下にある子供など、皆無と言っていい。そんな世界で、リオ、ルー、アルフの三人は、文字通り『親』がいない。リオとアルフには、それぞれに育ての親はいるが、実の両親のことは一切解らない。ルーにいたっては、養成学校入学までの一時期、リオと一緒に、子供のいないラウ夫妻の許で世話になっていたが、リオに出逢う以前の記憶は全く無い。そんな三人が、意図したわけでも無いのに、まるで引かれ合うようにポラリスの森で出逢った。奇跡と言っても決して言い過ぎではない。

 アルフの言葉を、リオが補足する。

「小人族は、森に根付いて生きる民。森との関係については詳しいからね」

「まあな。ガキの頃、親父に散々聞かされたっけ。森の神や、木の精霊の話」

「ふーん」

 ルーは興味深気に聞いている。

 アルフは苦笑いを漏らすと、ルーの頭をクシャクシャと撫でた。

「でも、まだ陽は高い。大丈夫さ。夕方までには寮に戻ろう」

「うん。そうだね」リオにも異存はない。

 二人の言葉に、ルーの瞳が輝いた。再度、右腕を高々と挙げる。

「じゃあ、ジャンケンしよ。鬼を決めるよぉ」



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