第7章 秘められし力 No.10
アルフにつられ、ルーも一緒に溜息を吐く。そんな自分に気付き、首を横に振る。自分が落ち込む必要など無いではないか。己を励ます。
「でも、本当に、リオは怒らないと思うよ」
「なんでだよ?」なぜか、恨めしげな視線。
大抵の者なら恐れ慄くであろう。けれど、それすらルーには何の威力も無い。ニコニコと笑って言う。
「君が本当に心配してくれてるって解るもの。それに……」突如、口をへの字に曲げる。「今回のことは、リオが悪いよ!」
ルーにしては珍しく、何時もより口調が厳しい。
逆にアルフの方が心配そうに、視線で問い掛ける。
ルーは、じっと正面を見つめたまま、背筋を伸ばして言葉を継いだ。それは、彼が眼の前に描き出したリオの影に対して言っているようだった。
「リオが何も言ってくれないからいけないんだよ。何も言ってくれないから、ボク等だって、あれこれ自分で想像して、余計に心配しちゃったんだ。ボク等、一緒に住む時、ちゃんと約束したでしょう、隠し事はしないって。なのに、先に約束破ったのは、リオの方だよ。リオが悪いよ」
だが、怒ったようなルーの表情は、直ぐに何時もの笑みに変わる。抱えた膝の上から、ニコニコとした笑みをアルフに投げ掛ける。
「リオが君を怒ったら、ボクがそう言って助けてあげる。ね? だから元気出してよ」
頼りになるような、ならないような、微妙な助っ人。何と答えてよいものか、ほんの少し困惑する。それでも、そう言ってくれる彼の気持ちが嬉しくて、小さく笑う。
それに応えて、ルーもニコニコと笑った。
二人並んで、暫し、ボンヤリと空を見上げる。
ゆっくりと流れていく雲。それを横切り、飛び交う小鳥達。頬を撫でる風が、心無しか、ひんやりと感じられる。
だが、抜けるような空の蒼さは、アルフにリオの姿を思い出させた。一つ大きく息を吐き、肩を落とす。
「……リオが俺達に何も言ってくれないって、……どうしてだと思う?」
今は保健室で眠っているであろうリオを心配する気持ちは、ルーとて同じだ。問い掛けられ、小さく首を傾げる。
「それは……、解んないけど、多分、よっぽど辛いことが、あったとか……」
「そうだよな。うん……」
そう答え、アルフは納得した態で深く頷いた。その後、暫く考え込んでいたかと思うと、顔を上げ、ぼんやりと呟く。
「やっぱり、……知ってる人に訊くのが一番手っ取り早いよな」
「え?」ルーが訝し気にアルフを見る。
アルフは、まるで弾かれたように、今の今まで木の幹に凭れかかっていた躰を起こし、片膝を立てた。
「校長先生に訊いてくる!」
「アルフ?」
「だって、リオは、校長先生の用事で何処かへ出掛けてから、急に元気が無くなったんだ。その場所で、……俺は絶対、ヤナイ族だと思ってるけど、そこで何かあったんだよ。リオは戻ってきてから校長先生に会いに行ってる。きっと、校長先生には、そこであったことを話してるはずなんだ。だったら、リオが俺達に話してくれない以上、校長先生に訊くしかないよ。それが、リオを護ってやる一番の近道だ!」
ルーの制止も訊かず、アルフは校長室に向かって駆け出した。
本気のアルフに追い付くのは、到底無理だ。
それでも、ルーは素早く飛び起き、アルフが向かったのとは別の方向に向かって走り出した。
「もう……。アルのバカぁ……」
溜息と共に呟く。
一生懸命走るルーの背中を、先程まで彼等が居た樫の木の枝に停まる小鳥達が、楽し気に見送った。