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第7章 秘められし力 No.9

 ルーは、アルフとは対照的に、教室中の全員に静かに語り掛けた。しかし、その顔に、何時もの人懐っこい微笑みは微塵も無かった。

「ボクはね、誰もが、全ての人と仲良くなれるなんて、思ってないよ。誰にだって、好きな人、嫌いな人がいるのは仕方の無いことだと思う。君達がリオのこと嫌いなら、それでもいいんだ。ちゃんとした理由があるのなら、嫌いでも構わないよ。でもね、君達はリオの何を知ってるの? リオの何を見たの? リオの何を訊いたの? リオは、君達と何も変わらない。特別なことなんか、何にもないんだよ。勝手にリオを特別にしたのは、君達でしょう?」

 淡々としたルーの言葉は、アルフの叫び以上に、皆の心に響いた。

「リオはね、特別になんか、なりたくなかったんだよ。ただ、自分に出来ることを精一杯やれば、何時かきっと、君達が解ってくれる、喜んでくれるって思って、みんなの役に立てるんだって、そう信じて、頑張ってきたんだ。そのことだけは、解ってよ。リオはね、本当は、勉強なんかより、かくれんぼの方が好きだよ。教室の中にいるより、森の中で駆けっこしている方が、ずっと好きだよ。……独りぼっちより、友達と一緒にいることが大好きなんだよ。ボク達と、何も変わらない、唯の淋しがりやなんだ。だからもう、リオを特別になんかしないでよ」

 教室中がシンとする。

 ルーは、気恥ずかしげに頭を掻くと、アルフの腕を掴んで引っ張った。

「アルフ、もう行こう。今日の君、変だよ。こんなに苛々してたら、授業なんか受けたってダメだ。……何処かでリオを待っていようよ。ね?」

 アルフが無言で頷く。しかし、教室を出る直前、肩越しに振り返り、念を押すように一言低く言った。

「今度、リオを傷付けたら、そんなもんじゃ済まさない。覚えとけよ」

 クワイは、赤く腫れた頬に軽く触れ、痛みに顔を歪めた。

 アルフとルーが、揃って教室を出ていく。

 取りあえず、騒ぎは収まった。

 生徒達は、次々に席へと戻り、サリバン先生を待つ。もう、そこには、何時もと同じ日常の時間が流れ始めていた。ただ独り、クワイを除いては……。

 彼は、アルフとルーが出て行った扉を無言で見つめ続けた。

 程なくして、サリバン先生が教室に戻ってきた。彼女は、今日の騒ぎの状況を説明するために、職員室へ行っていたのだ。

 授業が再開される。

 実技に打ち込む生徒達の中、クワイは静かに席を立ち、そっと外へと出て行った。



 校庭の隅に大枝を茂らせる樫の木。その根許で繰り返される大きな溜息。溜息の主は、他ならぬアルフだ。先程の勢いは何処へやら、膝を抱え、幹に寄り掛かって、深い溜息を吐く。もう、これが何度目か、本人でさえ解らないほどだ。

「……リオに、怒られる……」

 救いを求める悲痛な呟き。

 しかし、その隣で、やはり同じように膝を抱えるルーは、空を見上げ、まるで他人事のように答える。

「うん、怒るだろうねぇ」

「……どうなると思う?」

 横眼でルーの顔を覗き込む。

 ルーは相変わらず素知らぬ振りだ。

「知らなぁい。ボク、リオに怒られたことないもん」

「そうだよな。俺もないし……」

「でも、普段ニコニコしてる優しそうな人ほど、怒ると怖いっていうよねぇ」

 無邪気な口調だが、この場合、余計に真実味が増す。

 アルフは再び大きな溜息を吐いた。

「一週間、口利いてくれないとか……」

「そうかもねぇ」

「食事、俺の分だけ、ないとか?」

「あり得る」うんうんと頷く。

「……嫌われる、かな……?」

 完全に音を上げた態のアルフ。

 ルーは思わず吹き出してしまった。

「……なんだよ」濡羽色の前髪の奥から覗く、恨めし気な視線。

「初めて見た。こんなに落ち込んだアルフ」

「……からかうなら、後にしてくれよ。今は、応えれやれる気分じゃない」

 またもや溜息。

 さすがに心配になる。これ以上、無視を決め込むことは、ルーには出来なかった。

「……ホントのほんとに落ち込んでるんだねぇ」

 アルフは項垂れたまま答えすらしない。

 そろそろ許してやっても良い頃かな。そんな思いが笑みとなる。

「大丈夫だよぉ。リオは絶対に怒ったりしないよ」

 しかし、今回は、そんな言葉くらいではアルフは立ち直れなかった。

「だって、あいつが一番嫌いな遣り方だぞ。生まれとか、血筋とか、自分の努力じゃどうしようもないことで攻めるのって……」

「解ってるなら、やめればよかったのに」

「……もう、遅いよ」

「……だねぇ」



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