第7章 秘められし力 No.5
クワイが畳み掛けるように言葉を継ぐ。
「お偉い魔法遣い様の力を、俺達、下々の者に見せびらかすには、丁度いい事件だったよなぁ。英雄にでもなったつもりか? ええ? さぞかし良い気分だろうよ」
明らかにクワイの言い掛かりだ。皆、解っていた。けれど、それを口に出し、リオを庇おうとする者は、誰もいなかった。
そして、謂われの無い罵声を浴びせ掛けられながらも、リオは、ただ黙って俯いているだけだった。その口許は、哀し気に歪んでいた。
アルフの怒りが頂点に達した。拳を硬く握りしめると、人込みを掻き分け、クワイに向かって突進した。
「てめぇ……!」
だが、彼の怒りは、背後から響いたルーの叫び声によって消し飛んだ。
「アルフ! リオが……。リオが!」
咄嗟に、アルフがリオを探す。
彼の瞳がリオの姿を捉えた時、既にリオの躰は傾き、足許から、ゆっくりと崩れていった。
「リオ!」
アルフが精一杯腕を伸ばす。
しかし、その指先を掠めて、リオの躰は床に崩れ落ちた。
アルフに続き、ルーがリオの許へと駆け寄る。
一瞬、何が起こったのか解らず、しんと静まり返った教室は、リオの側にいた一人の女生徒の悲鳴によって、再び騒然とした。
サリバン先生は、またもや、パニックを鎮めることに必死で、倒れた生徒を助けるどころではなかった。
リオを助け起こしたのはアルフ。続いて、ルーが駆け付けた。
「リオ! しっかりしろ! リオ!」
アルフはリオの頭を膝の上に抱え上げると、声を掛けながら、華奢な肩を上下に揺り動かした。頬を軽く叩く。けれど、何の反応も返ってはこない。
リオの額には珠のような脂汗が浮かび、それが流れて金色の髪を濡らしていった。顔色は真っ白で赤味が無く、何時もは薄紅色の唇が、青白く変色していた。
ルーは、リオとアルフの間に割って入り、咄嗟にリオの胸に耳を寄せた。規則正しい鼓動を確認し、ホッと安堵の溜息を吐く。
「大丈夫。気を失ってるだけだよ」
けれど、そんなルーの言葉さえ、混乱したアルフの耳には入らなかった。リオの肩を揺り動かし、何度も何度も声を掛ける。
「リオ! リオ! 眼を開けてくれよ! リオ!」
アルフは必死で叫んだ。
(俺が護ってやるなんて偉そうなこと言いながら、リオがこんなになるまで、俺は何もしてやることが出来なかった。あの時、俺が、もっと強い口調でリオを止めていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。俺のせいだ! 俺の……!)
自分の非力さを呪いながら、自分自身を責めながら、アルフは叫び続けた。
「リオ! リオ!」
見かねたルーが必死にアルフの腕に縋る。
「アルフ! リオは大丈夫! 大丈夫だから、もうやめて!」
リオは、急に眼の前が真っ暗になり、アルフの呼ぶ声も、ルーの叫び声も、教室中のざわめきすら、徐々に遠ざかっていく感覚に身を委ねていた。
やがて、全てが闇に閉ざされ、意識は深淵へと落ちていった。
このまま、どこまでも落ちていってしまえばいい……。
意識の片隅に、そんなことを考えている誰かが居た。