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第7章 秘められし力 No.2


 声にならない悲鳴と共に、深い碧の瞳が大きく見開かれた。

 胸がドキドキして、躰中、嫌な汗がじっとりと滲んでいる。

 キョロキョロと周囲を見回し、そこが見慣れた自分の部屋であることを確認して、やっと深く息を吐く。

「……また、あの夢……」ポツリと呟く。

 人間界に行って以来、リオは度々、同じ夢に魘された。

 白い手に堕とされる、産まれたばかりの赤ん坊。

 自分に似ているようにも思うが、自信はない。

 ただ、目覚めた時、酷く恐ろしく、淋しく、哀しい思いが心を満たす。

 既に陽は昇っている。

 森の木々の間を擦り抜けた光が、小さなベッドの中で真っ白な布団に包まるリオの頬を柔らかく照らしている。

 眩しさに、ほんの少し眉を顰める。

 起床の時間だが、暫くの間、ベッドに横たわったまま、ぼんやりと宙を見つめた。

 やがて、気だるげに躰を起こし、部屋に造り付けのクローゼットに向かって、重たい腕を伸ばす。すると、クローゼットの扉が自ら開き、中に吊るされていた墨色の長衣が一枚、ハンガーを上手に外して、フワリと宙に舞った。

 だが、次の瞬間、腕を降ろす。同時に、それまで宙を舞っていた服が、フワリと床に落ちる。

 ゆっくりとベッドから降り立ち、服に近付くリオの頬に、微かに苦笑いが浮かんだ。

「いけない。校長先生の言い付け、守らなきゃ……」

 それは、もちろん、魔法遣い養成学校校則『授業以外での魔法使用の制限』のことだ。

 床から服を掴み上げるために屈み込んだリオの透き通る白い肌とシェルピンクの頬を、黄金色に輝く朝陽が照らす。彼の美しい横顔には、しかし、疲れが色濃く浮かんでいた。

 養成学校の制服である墨色の長衣に着替え、大きな教科書を重そうに抱えると、そのまま部屋を出る。

 台所では、今日の朝食当番であるルーが、くるくると働いていた。扉の開く音でリオに気付き、満面に笑みを浮かべる。

「おはよう、リオ。ご飯、もうチョット待っててね」

「うん……。僕、今日はいいよ。食欲、……無いんだ」消え入りそうな声。

 手を止め、ルーが心配そうにリオの顔を覗き込む。

「……どうしたの、リオ? 大丈夫?」

「平気。ごめんね、ルー。今日は僕、先に行くから」

 言い置いて、家を出ようとするリオ。

 だが、その脚はフラフラと崩れ、上体はテーブルに凭れ掛かった。

 ルーが慌てて支える。

「アルフ! アルフ、早く来て! リオが……!」

 声に反応し、部屋から飛び出してきたアルフ。リオの様子を見るや、側に駆け寄り、両肩をしっかりと支えた。

 優しい温もりに顔を上げたリオの霞む眼に、見慣れた漆黒の瞳が映った。そして、その横から心配そうに覗き込むトパーズの瞳。我知らず、安堵の溜息が漏れる。よろめきながらも、リオは自力で立ち上がろうとした。が、足が縺れ、再びアルフの腕に縋った。

 華奢な肩を支えながら、アルフが言う。その声は、心配からか、微かに掠れていた。

「何やってんだよ、リオ。お前、もの凄く顔色悪いぞ。今日は部屋で休んでろよ。先生には、俺達から話しておくから」

 だが、リオはきかなかった。部屋に引き返そうとするアルフの腕を優しく遮り、無理に笑みを創る。

「ありがとう。でも、大丈夫。僕は大丈夫だから」

 額には、じっとりと脂汗が滲んでいた。決して『大丈夫』な状態などでは無いことは、一目瞭然だ。縛り付けてでも部屋に置いておきたかった。けれど……。

 一度言い出したら、きかないのがリオだ。その性格は、アルフもルーもよく知っている。リオが学校に行きたいと言い張る以上、ここで無理に寝かし付けていったとしても、後から必ず追い掛けて来るに違いない。

 二人は仕方なく、手早く身支度を済ませ、両脇からリオを支えて、学校へと向かった。

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