第6章 不安 No.5
ニコニコと頷くルー。
「じゃあ、どうして……?」リオが訝しむように呟く。
ルーは、リオの顔を覗き込むように顔を寄せ、微笑んだ。
「リオとボク達の違いっていったら、リオだけが、何時もサリバン先生のいうこときいて、助手代わりをしてるってことくらいじゃない? アルフなんて、逆に、先生、虐めてるもの」
「虐めてるわけじゃ……」不満気なアルフ。
しかし、睨み付けるアルフの視線も何のその、ルーは責めるように言う。
「でも、先生、哀しそうだよぉ」
気まずげに髪を掻き回し、アルフがそっぽを向く。こんな時、何時もアルフは、ルーに敵わない。
「きっとね、クワイはサリバン先生のことが好きなんだよ。」無邪気なルーの言葉。「だから、何時も先生に可愛がられてるようにみえるリオに、ヤキモチ焼いてるんだ」
素晴らしい、完璧な推理……、と、本人は思っているらしい。二人の友の賞賛の言葉を期待し、胸を張っている。
アルフとリオは、顔を見合わせた。
リオは、複雑な思いそのままに顔を少し歪め、アルフはニヤリと笑うと、勢いよくルーの首に片腕を回した。
「ルー。お前ってさ、時々、ビックリするようなこと言い出すよな」
アルフは言った。
ルーは不満気だ。
「酷いよ、アルフ! それ、どういう意味さ!」
「どういうって……、言葉どおり、ルーは凄いってことだよ」
「嘘! 絶対、他の意味がある! ねえ、リオ、なんとか言ってよ!」
アルフとルーの遣り取りを聞きながら、リオが小さく笑った。小さいが、創り物ではない、心からの笑顔。
それを待っていたかのように、二人の会話は途切れた。
アルフは、ゆっくりと腕を伸ばし、灯にキラキラと輝く金色の髪を指先で優しく梳いた。
「なあ、リオ。俺とルーにとって、お前の笑顔は特別なんだ。だから、何時も、そんなふうに笑っていてくれよ」
「え?」問い掛けるリオの瞳。
その腕に、ルーが腕を絡ませる。
「アルフはね、哀しそうな笑顔なんて、リオらしくない、見たくないって言ってるんだよ」
「ルー、お前……!」
「だって、何時も、そう言ってるじゃない。いくら口下手だからって、ちゃんと言わなきゃ伝わらないことだってあるんだよぉ」
ルーの頭上をアルフの拳骨が襲う。
ルーは大袈裟に頭を撫でながら、リオの背後に隠れた。
その褐色の頭を、更にアルフが追う。
二人の間に立ちはだかる形になってしまったリオは、困惑しながらも、ルーを背に庇った。
「ルー! お前、リオを盾にするなんて卑怯だぞ」
「叩かれるより、いいもん!」
二人の会話につられ、リオの顔にも自然と笑みが零れる。
「アルフ。ルーも、ほら、もう、やめにして……」
言い掛けたリオの肩に、アルフの、次いで、ルーの手が添えられる。
ふと上げたリオの視線。その先には、二対の優しい笑み……。
「俺達は、もう、独りぼっちじゃない」
「三人なら、何があったって平気だよ。ねぇ、リオ?」
二人の励ましの言葉と掌の温もりが、心の奥底にまで染み込む。
リオの瞳の端に、微かに光るものが浮かんだ。本人でさえ、気付いてはいない、本当の心の欠片。
アルフが、然り気なく親指の先でそれを拭う
「俺達は、夢に向かう初めの一歩を、やっと踏み出したばかりなんだ。これから先、まだまだ道程は長いけど、きっと立派な魔法遣いになろう。三人一緒に。な?」
リオはベッドの上で膝を抱え、腕の間に顔を埋めた。今の自分は、きっと、もの凄く情けない顔をしている。そんな顔を、二人に見られたくなかった。見られるのが、……恥ずかしかった。