第6章 不安 No.1
六 不安
ある日の夜更け、突然、アルフがルーの部屋を訪れた。いや、押し入ったといった方が正しいかもしれない。
部屋に入るなり、不機嫌そうにベッドに腰を降ろす。ベッド全体がギシギシと揺れた。
「クソ! 何でだよ!」
苦々し気に呟き、アルフは、勢いよく仰向けに寝転がった。
楽しい夏休みが始まったばかりだというのに、アルフは、このところ、頗る機嫌が悪い。そして、その被害者は、何時もルーと決まっていた。
原因は……、リオ。
夏休みの前日に家を空け、戻ってきて以来、塞ぎこんでいる様子なのだ。
いや、はっきりと塞ぎこんでくれた方が、まだましだ。普段は何時もどおりにニコニコしているくせに、行動の端々に、何時もの彼らしかなぬ空ろさが見え隠れしているのだ。
気になって問い掛けてみても、
『僕は平気だよ。心配しないで。』
決まって、そう答える。しかも、満面の笑み付きだ。だから、それ以上、何も訊けなくなってしまう。
しかし、アルフもルーも気付いていた、その笑顔が微かに歪んでいることに。
なぜ、リオは、何も相談してくれないのか……。何も出来ない己の非力さを思い知らされるようで、二人とも、歯痒さに居た堪れない気持ちだった。
「リオの奴、最近、絶対おかしいよ。何時も部屋に篭もりっきりでさ。なのに、俺達が何を聞いても、『僕は大丈夫』、……なんてさ。絶対、嘘だ。全然、大丈夫なんかじゃない。ホントは何かあったんだ。それなのに、俺達に気を遣ってニコニコしやがって……。水臭いにも程があるよ!」
仰向けに寝転がったまま、アルフは握り拳で思い切りベッドを叩いた。
傍らの椅子に腰を下ろしていたルーが、冷ややかな視線を向ける。
「リオの部屋に行けないから、ボクんとこに来たのぉ?」
「悪いかよ!」
明らかな八つ当たり。ルーは大きな溜息を吐いた。
「元はと言えば、アルフが悪いんだからねぇ。リオが落ち込んでるみたいって解ってたのに、暫くは、そっとしておこう……、なんて、カッコ良いこと考えてるから、結局、ボク達、訊くタイミングなくしちゃったんだよ」
「解ってるよ! そんなこと!」
アルフは勢いよく躰を起こし、苛付きを静めようとするかの如く、ボリボリと頭を掻いた。次いで、片膝を抱えると、自分自身を非難するように言う。
「そうさ。俺が馬鹿だったんだよ。あいつが、あんなに落ち込むなんて、変だと思ったんだ。なのに、一晩明けたら、あいつ、何時もと同じようにニコニコ創り笑いなんかしやがってさ。それでも、すぐに音を上げるだろうと思ってた。それなのに……。ここまで頑固者だとは思わなかったぜ」
親指を噛み、喉の奥から言葉を絞り出す。