第5章 真実 No.1
<<===== 第五章 真実 =====>>
act.1
アルフは、足許にキョロキョロと視線を走らせながら、森の中を、独り、ブラブラと歩いていた。ルーと手分けをして、薪や焚き木を探しているのだ。
今日中にはリオが戻ってくる。彼が、どんな『用事』のために出掛けていったのか、それは解らなかった。けれど、帰ってきた時、温かい食事で迎えてやりたかった。
森には、あちらこちらに枯れた小枝が落ちており、両腕は、すぐにいっぱいになった。
「さてと……。このくらいで、いいか……」
気が付けば、鏡の泉の辺まで来ていた。アルフは、集めた薪と小枝をアケビの蔦で手際よく束ね、軽々と肩に担ぎ上げた。
リオは食事までには帰ってくるだろうか。そんなことを考えながら、家に向かって歩き出したアルフの耳に、草を踏む音が微かに聞こえた。振り返る。
足音の主は……。
「リオ……」アルフは、何時もどおり、明るく声を掛けた。「お帰り。思ったより早かったな」
その声が聞こえたのか、リオは視線を上げ、そこに友の姿を認めると、笑おうとしたのだろう、口許を微かに歪めた。しかし、それは笑みの形にはならず、彼は、膝から崩れ落ちるように、その場に座り込んだ。
「リオ!」
薪を投げ出し、リオの側に走り寄ったアルフ。伸ばした手がリオに触れた瞬間、動きを止めた。
彼の躰は、ぐっしょりと湿っており、しかも、凍るように冷たかった。真夏のルリアでは考えられぬことだ。更に、彼の右の拳は、何かに激しく打ち付けたように傷だらけで、血を流してさえいた。
アルフは一瞬、戸惑った。けれど、敢えて口には出さず、リオを支えて、泉の辺の大岩まで歩き、その上に腰を下ろさせた。
アルフは、まず、腰に下げた薬袋から薬草を取り出し、手際良くリオの右拳を手当てした。次いで、リオの頬に両手を添えて、彼の額に自分の額を押し当てた。熱は無いようだ。ほんの少し安堵する。しかし、声を掛けようとリオの顔を覗き込んだ時、アルフは再び言葉を失った。リオの瞳は真っ赤だったのだ。咄嗟に、リオの瞼に触れようと、そっと指を伸ばす。その瞬間、リオは、自分の顔を、……哀しい感情まで全て隠そうとするかのように、アルフの肩口に埋めた。
「どうしたんだ、いったい……? 何か、あったのか?」
堪らず、アルフが問う。
リオは、小さく首を横に振った。
「何でも、無い。チョッと疲れただけ。お願い、少しだけ、このままでいさせて……」
顔も上げず答える。
何時ものリオらしからぬ様子を訝しみ、アルフは理由を聞き出そうと何度か同じ質問を繰り返した。けれど、リオは、ただ首を横に振るばかりで、何も答えてはくれなかった。
今は何を訊いても無駄なようだ。
仕方なく、アルフはリオの隣に腰掛け、友の躰を支えながら、落ち着くのを待った。その間中、ずっと、リオの背中を優しく撫で続けた。
森の中とはいえ、夏真っ盛りのルリアである。
暫くすると、リオの躰は温かくなり、服も、すっかり乾いてしまった。
気付けば、リオはアルフの肩に頭を持たせ掛けたまま、泉の水面をじっと見つめていた。
「大丈夫か?」問い掛けるアルフ。
リオがコクリと頷く。
そして、アルフが再度、疑問を口にする前に、リオは自ら語り始めた。けれど、その言葉は、どう考えても、先程の問いに対する答えにはなっていなかった。
「ねえ、アルフ……」
「ん?」
「教えて」
「どうした?」
囁くような声が、不安にさせる。アルフは、リオの肩を抱く腕に力を込めた。