表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/72

第4章 人間界にて No.5

 その瞳に先程まで宿っていた哀しみは、僅かながら薄れたようにみえた。看護婦はホッと安堵の息を吐き、アロウの手を握り締めると、指を組ませて彼の胸に押し当てた。

「信じなさい、アロウ。神様は、貴方のことをちゃんと見ていて下さる。小さな頃から貴方が凄く頑張っていることは、貴方の愛する人達に、きっと伝わるはずよ。ううん、伝わらないはずが無いわ。神様が、きっと伝えて下さるもの。だから、信じなさい」

 アロウは、胸の前で組んだ掌を、じっと見下ろした。

 看護婦が、彼の両肩に両手を添える。

「さあ、アロウ。笑ってちょうだい。今日はクリスマス・イブよ。私も、みんなも、貴方の笑顔が大好きよ。ね?」

 アロウの顔に、微かに笑みが戻る。

「うん。やっぱり、貴方は笑顔の方がずっと素敵だわ」

 看護婦はニッコリと微笑むと、立ち上がり、アロウの腕を優しく引いた。

「さあ、パーティに行きましょう。みんな、貴方が来るのを待っているわよ」

「うん……」

 そう答えたものの、アロウはベッドから降りようとはしなかった。

 看護婦は、彼の心を思い遣るように小さく微笑むと、栗色の髪を優しく撫でた。

「じゃあ、気分が良くなったら、いらっしゃい。ね?」

 アロウは頷き、笑みを返した。


 ベッドに凭れ、じっと窓の外を見つめていたアロウの眼の端を、空から舞い落ちる白いものが掠めた。

「雪……」

 呟き、窓辺に身を乗り出す。

 その瞬間、彼の胸の奥で、何かが鋭く弾けた。

 絶え切れない激痛が彼を襲う。発作だ。何時もより激しい……。

 胸を押さえ、その苦しさに身悶える。息が出来ない。無理に空気を吸い込もうとすると、更に激しい痛みが走る。脂汗の滲む手を伸ばし、枕許のナースコールボタンを押すのが精一杯だった。

 力一杯ボタンを押す……。

 瞬間、彼の意識は途切れた。

 その後、医者と数人の看護婦が彼の部屋に駆け込んできたことを、アロウが知る術は無かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ