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第3章 白の訪問者 No.17

「俺だって、大して変わらないぜ。思い出すことが、お前よりも少し多いってだけさ。それに、思い出さなくていいことって、結構多いもんだ。忘れちまった方がましなことだって、たくさんあるしな」ルーの頭に置いた指先が止まる。「俺、ずっと居場所が欲しかった。俺のために用意された、俺だけの居場所。……そして、やっと見付けた。それが此処だ。そう、思ってる」

 アルフは視線だけを動かしてルーを見た。

 彼は、アルフの腕の隙間から、じっとアルフを覗き見ている。

 そんなルーの様子に気付かぬ素振りで、アルフは言葉を継いだ。

「俺はさ、お前やリオと出逢って、毎日が凄く幸せなんだ。だから俺は、俺の居場所を失いたくない。俺の居場所を護りたいんだよ」

「うん……」

 頷くルー。

 その髪を、温かな指が梳く。

「大丈夫だ、ルー。お前の記憶はリオが……、あいつが、必ず取り戻してくれる。だから、お前は、リオを信じて待っていればいい。俺達の側で、そうやって笑っててくれればいいよ」

 空が微かに紅味を帯び、夕闇の到来が間近であることを告げている。

 アルフの腕の拘束から逃れたルーは、両膝を抱えたまま風に吹かれていた。アルフの言葉を噛み締めているのだろうか、彼の表情は、珍しく神妙だ。

 妙に無口なルーは、ルーらしくない。アルフは胡座をかき、眼の端でルーの様子を窺っていたが、フッと口許を緩めると、呟くように再び口を開いた。

「俺は……、そうだな……、お前ふうに言うなら、リオのこと好きだ。大好きだ。でも、その気持ちと同じ位、お前のことだって大好きなんだぜ」

 ルーの表情が、驚きに変わる。

 それに気付かぬ振りで、言葉を継ぐ。

「俺はさ、ルー、お前と同じように、風の声を聴きたいと思ってる」

 ルーと正対するように躰の向きを変え、スッと眼を閉じる。

 風が流れる。

「アル……?」

 沈黙を恐れるように、ルーが呼び掛けた。

 ゆっくりと眼を開くアルフ。

 彼の漆黒の瞳は、ルーを捉えるなり、ニッコリと微笑んだ。

 その笑みに、ルーは不思議なほどの安堵感を覚えた。

「やっぱり、俺には、まだ無理みたいだ。」アルフは言った。「けどな、お前の耳に聴こえるのと同じ風の声が、俺にも聴こえるようになれば、お前の心も解るようになるのかな……って、思う。だから、俺は、風の声を聴きたいんだ」

 ルーの瞳が微かに揺れた。

 それに気付き、アルフは、わざと憎まれ口を叩く。

「……って言っても、風の声なんか聴こえなくたって、お前って奴は、とっても解り易いんだけどな」

 何時もなら、負けじと憎まれ口を返してくるルーが、今日は無言だ。

 アルフは右腕を伸ばし、柔らかな褐色の髪に、そっと触れた。

「お前も、俺にとってはリオと同じ、大切な友達、……家族なんだよ」

 ルーは、何も応え無かった。ただ無言でアルフを見つめていた。

 アルフは、ルーの髪を撫で、空を見上げると、独り言のように、呟くように言った。それは、ルーに語り掛けるようでもあり、また、自分自身の心に語り掛けるようでもあった。

「不安になるなら、何時でも、何度でも言ってやる。お前は俺の大切な家族だ。お前に何かあったら、俺が必ず助けに行ってやる。だからさ、安心しろよ。な?」

「アル……」

 ルーは、言葉を探すように唇を僅かに動かした。しかし、アルフの指先の温もりが、再度、髪に触れた瞬間、もう、それ以上、想いを押し殺し続けることが出来なかった。言葉にならない想いをぶつけるように、アルフの首に両腕を絡め、しがみ付く。しがみ付いたまま、そっと瞳を閉じた。

「大好きだよ、アルフ……」

 ルーは、アルフの耳許で、それだけを囁いた。

 アルフは、片腕で躰を支え、もう片方の手でルーの髪を撫でながら、小さく微笑んだ。

「バーカ。今更、何言ってんだよ。知ってるよ、それ位。お前は解りやすいんだからさ」


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